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緊急事態宣言が発令された4月上旬の消費はどうなったのか?

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緊急事態宣言以降の経済活動停滞によって、どの程度、経済は悪化しているのでしょうか。少なくとも消費の落ち込みは生活必需品等を除けば、相当な影響となっていることが想定されます。

ほとんどの統計は、後から発表されるため速報性に乏しく、足元の実績は当然ながら出ておりません。一方で、ナウキャスト・JCBが発表しているJCB消費Nowは速報性があり、このような状況を見るには有用です。

今回は緊急事態宣言が発令された4月上旬の消費がどうだったのかについて確認してみたいと思います。

 

JCB消費NOWとは

JCB消費NOW は、JCB グループのカード会員のうち、無作為に抽出した約100万人分の決済データを活用して作成しているものです。国内会員に絞っているためインバウンド消費を含みません。

統計作成元取引金額は約8,000億円であり、続計対象会員のクレジットカード実取引データをもとに作成していますので、非常に貴重な統計データと言えます。

しかも、JCB消費NOWの「総合消費指数」と「業種別消費指数」は、JCBグループ会員のクレジットカード利用情報をもとに、決済手段によらない消費「全体」の消費指数を推計しています。

速報性に優れる点が現時点の日本の状況を把握するためには、特に優れている点です。コロナショック後に特に注目されているように筆者には感じられます。

 

4月上旬の消費動向

JCB消費NOWが公表した指数(本系列)は以下の通りとなります。尚、当該指数は「クレジットカード会員一人あたりの消費動向を指数化したもの」と思われます。

変化の激しくない時は、この指数で良いのですが、現在は消費動向が急変している時期です。そして、そもそも消費をしない会員自体も増えてきているため、その消費しない会員分も含めた指数(対象期間における消費したJCB会員の割合(確率)を考慮)については別途「参考系列」として触れます。

 

【4月前半・概況(本系列)】

  • 「総合消費指数」は前年比-18.0%と3月後半の前年比(-7.6%)より一段と悪化。
  • 「小売(財)総合」は前年比-9.1%と3月後半の前年比(-9.0%)より悪化。
  • 小売のうち、「スーパー(25.3%)」、「酒屋(15.3%)」、「EC(8.1%)」は引き続き好調。
  • 小売のうち、「織物・衣服・身の回り品(-15.9%)」や家電を含む「機械器具小売業(-15.1%)」といった半耐久財、耐久財の下げ幅拡大が下押し要因に。
  • 「サービス総合」は前年比-25.0%と3月後半の前年比(-9.0%)より一段と悪化。
  • サービス総合のうち、「外食(-48.9%)」や「旅行(-28.6%)」、「宿泊(-20.6%)」、「娯楽(-17.1%)」などの“レジャー消費”がより一層悪化。

(出所 JCB消費NOW)

この総合消費指数、小売等の業種別消費指数は、あくまで会員一人当たりがどの程度の消費を、どの分野に行っているというものです。

JCB消費NOWの公表データでは、キャンセル有無に関わらず「予約時点」の消費(購入)金額をグロスで算入しているため、現在も発生しているであろうキャンセル金額の急増を考慮すると、 実際のレジャー関連の消費は消費指数から更に落ち込んでいる可能性が高いといえます(JCB 消費 NOWのコメントを引用)。

そこで、JCB消費NOWでは、参考系列というデータも公表しています。JCB消費NOW で発表されている通常の指数はJCBの会員一人当たりの支出を前提としていますが、 この参考系列は、 対象期間における消費したJCB会員の割合(確率)を考慮したものとなっているようです。

 

【4月前半・概況(参考系列)】

  • 「総合消費指数」は新型コロナ感染拡大前である1月後半から緊急事態宣言後の4月前半にかけて、約3割程度、大幅に悪化。
  • 「EC(12.0%)」、「コンテンツ配信(12.9%)」といったオンラインに関連する消費にシフト。
  • 「居酒屋(-78.9%)」が大幅に悪化する一方で、「酒屋(20%)」が伸長。

 

以上を表にしたのが以下です。

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(出所 株式会社ナウキャスト・株式会社ジェーシービー/プレスリリースhttps://prtimes.jp/a/?f=d11361-20200501-1984.pdf

このデータ(特に参考系列)から言えることは以下の点ではないでしょうか。

  • 消費は1月後半(いわゆる平常時)と比較して3割減少している
  • 巣ごもり消費、外出自粛により、スーパー、酒屋、EC、コンテンツ配信は増加している
  • 巣ごもり消費に強いはずのコンビニは2割強下落しており、消費者の時間に余裕が出来たことがネックとなっている可能性がある(コンビニの商品はスーパー・酒屋よりは高い)
  • スーパーが1.5割程度増加しているのに対して、百貨店は5割強減少しており、不要不急の消費は大きく減少した
  • 織物・衣服等への消費は3割程度減少しているが、家電は微増となっており、在宅勤務や外出自粛に対応した製品が購入されている可能性がある
  • 外出が減少した分、光熱費・水道代は上昇している
  • 外食は全体で6割強減少しているが、特に居酒屋は8割弱減少している
  • 旅行は9割強支出が減少、映画館・遊園地も9割強減少
  • サービスではコンテンツ配信だけが1割強の上昇となっている

やはり、「人」が外出をしなければ消費は盛り上がりません。

ECは増加しているとはいえ、あくまで+12%でしかありません。コンテンツ配信も、サブスクが一般的だからでしょうか。+13%に留まります。

結果として、消費は3割はダウンしています。

これでは「日本経済が持たない」という観点の議論は、(今もなされているはずですが)きちんとするべきではないでしょうか。

緊急事態宣言の延長については、その効果の総括や検証も必要でしょう。

大阪府の吉村知事が発言したと報道されていますが、「経済で人の命を失わせない明確な方向性を」です。

 

(以下は3月の消費動向についての記事です)

www.financepensionrealestate.work

www.financepensionrealestate.work

 

(こちらは今回のJCB消費NOWについての別の記事です。こちらも併せてお読み頂ければ幸いです)

naotod0211.hatenablog.com