銀行員のための教科書

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NISAをS&P500とオール・カントリーのどちらで運用するかという議論

本年より新NISA がスタートしました。新NISAは様々な意味で投資がやりやすくなっており人気となっています。

このNISAで「何に投資するのか」「どのような金融商品を買うべきか」というところは特に投資の初心者ほど悩むところでしょう。

様々な媒体では、米国の優良企業を組み入れ銘柄とするS&P500か、全世界への株式に投資するオール・カントリーと呼ばれる投資信託のどちらかが良いとの議論がなされていますが、どちらが良いかの結論は特に出ていないものと思われます。

そこで、今回は二つの投資信託のどちらかしか選べないのであれば、どちらの商品が良いのかについて筆者の私見を述べたいと思います。

 

S&P500とは

まず、S&P500と呼ばれる投資信託の内容を確認しましょう。

S&P500とは米国の代表的な株価指数の一つです。ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場している米国を代表する企業500銘柄の時価総額を元に算出されています。

S&P500は米国株式市場全体に対して8割程度の時価総額比率を占めていて、米国の株式市場全体の動きをほぼ反映しているとされています。

S&P500の名前が付いている投資信託は、このS&P500という指数に連動することを目指して運用されている金融商品です。

このS&P500の投資信託で代表的な商品であるeMAXIS Slim 米国株式(S&P 500)を例に取って内容を見ていきましょう。以下は当該投資信託の組入上位10銘柄です(2024年1月31日時点)。

(出所 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)月次レポート」)

S&P500は当然ながら米国企業だけを対象としていますが、上位10銘柄だけで約3割を占 めています。米国ではマグニフィセント・セブンと呼ばれる上場企業の存在感が一層高まっています。具体的にはGAFAM(グーグル=現アルファベット、アップル、フェイスブック=現メタ・プラットフォームズ、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト)と呼ばれる主要5社に、エヌビディアとテスラを加えた7銘柄のことです。

これらの企業は世界的にも強い存在感を誇っており、巨大でありながらいまだに驚異的な成長を続けています。このマグニフィセント・セブンがS&P500を牽引しています。

S&P500の運用成績は良く、当該投資信託では、過去6か月で13.2%、過去1年で40.5%、過去3年で90.8%の上昇となっています (2024年1月31日時点)。

 

オール・カントリーとは

次にオール・カントリーという投資信託についても確認しておきましょう。

代表的な商品である 「eMAXIS Slim 全世界株式 (オール・カントリー)」を例に取って確認します。この投信は「投信ブロガーが選ぶ! Fund of the Year 2023」で1位を取っていますので、日本では相対的に人気があり評価が高い投信と言えます。

この投信は、MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円換算べース) というベンチマークを用いてます。このべンチマークについては割愛しますが、他のオール・カントリーと言われるような投資信託も同じインデックス(指標)を用いていますので、ベンチマークについては差がありません。

この「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の資産構成は最新の月次レポートによれば国内 (日本) 株式5.3%、先進国株式84.6%、新興国株式9.8%、コールローン(金融市場での貸出でありほぼ現金と考えておけば良い) 0.2%となっています。

全世界の株式市場に投資しているように見えますが、基本的には日本も含む先進国株式で約9割を占めています。これから経済発展が期待できるかもしれない新興国株式に投資したいと考えている方からすると、選択肢としては不適と考えて良いでしょう。

この資産構成について、もう少し詳しく見るために、組入上位10か国・地域を確認しましょう。以下のようになっています。

(出所 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)月次レポート」)

見て分かる通り、オール・カントリーと名乗る投資信託ですが、6割以上は米国株式です。そして、もう一つの特徴は世界第2位の経済規模を持つはずの中国の株式がトップ10に入っていないということです。

誤解を恐れずに言えば、オール・カントリーという投資信託は、いわゆる西側の先進国を中心としたオール・カントリーということになります。次に、組入上位10銘柄も確認してみましょう。

(出所 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)月次レポート」)

こちらも見て分かる通り、全て米国の企業です。もちろんオール・カントリーの6割を米国企業の株式が占めているのですから違和感はないでしょう。

このオール・カントリーの投資信託の運用成績は、過去6か月で10.3%、過去1年で32.1%、過去3年で68.0%となっています (2024年1月31日時点)。運用成績としては素晴らしい結果ですが前述のS&P500と比べると米国以外が運用成績の足を引っ張っています。これがオール・カントリーと呼ばれる投資信託の概要です。

 

S&P500かオール・カントリーか

これまで簡単にS&P500とオール・カントリーという投資信託の内容を確認してきました。単純化すれば、オール・カントリーは6割を米国、4割をその他の国で占める投資信託であり、 米国一辺倒で投資したくないと考える人には比較的適しています。米国がこれからも強いと考える人はS&P500 で良いでしょう。

ただ、S&P500もオール・カントリーも米国株式が中心を占めることは間違いありません。それぐらいに米国という国の企業は強いのです。

そして、オール・カントリーは新興国の株式割合が非常に低いため、今後伸びていくと想定されるインド等への株式に投資したいと考えているのであれば役不足でもあります。

あくまで、米国以外の先進国が米国以上に成長するという場合に、オール・カントリーという投資信託への投資が有効ということになります。

ところが、米国以外の先進国は基本的には少子高齢化が進んでいきます。先進国で唯一人口が増加していくのは米国だけと想定されています。そのような環境下で米国以外の先進国が米国以上に成長していくかどうかは疑問が残ります。先進国で唯一人口増加が見込まれる米国の優良株式を組み入れているS&P500 の方が筆者としては長期投資に向いているのではないかと考えていますが、皆さんは如何でしょうか。