銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本相撲協会の2023年度決算を見てみる

先日の大相撲春場所をご覧になった方は多いではないでしょうか。尊高士が110年ぶりに新入幕力士による優勝を果たしました。前日には右足を負傷し車椅子に乗せられて緊急搬送されていたものの、千秋楽の土俵に上がり、相手力士を圧倒しての勝利でした。非常に明るいニュースであり、大相撲が更に盛り上がるのではないかと思わせられる場所でした。

この大相撲を運営する日本相撲協会の業績が回復しています。新型コロナウイルスによる影響が続いて30億円超の赤字だった前年度から、4年ぶりに黒字となりました。この要因は、新型コロナによる入場制限を撤廃したことで本場所の入場券収入が新型コロナ感染拡大前だった2019年度に比較して94%に戻った他、広告や物販収入の売り上げも貢献したと報道されています。

今回は普段なかなか目にすることのない日本相撲協会の決算について少し見て行きたいと思います。

 

資産

日本相撲協会の直近決算期は2023年12月期です。この令和5年度決算について確認して いきます。

日本相撲協会の資産概要は以下の通りです。

  • 流動資産合計 52億円
  • うち現預金49億円
  • 固定資産のうち基本財産(主に土地)計 95億円(小数点未満切り捨て、以下同じ)
  • 固定資産のうち特定資産(主に退職給付引当・減価償却引当,公益目的事業用、管理目的用資産)計100億円
  • 固定資産のうちその他固定資産(建物・土地・建設仮勘定等) 計104億円
  • 資産合計で353億円

尚、上記特定資産は、ほぼ全てが国債・地方債か定期預金です。日本相撲協会はその総資産の40%以上が現預金もしくはそれに類する資産で占められています。単純に言えば「キャッシュ立地法人」と表現して良いでしょう。

 

負債・正味財産

次に負債サイドです。

  • 流動負債 19億円
  • 固定負債 66億円
  • うち退職給付引当金53億円
  • 正味財産は合計268億円(自己資本比率75.9%)

以上を見ると、日本相撲協会は無借金であり財務体質は極めて良好であることが分かるでしょう。その裏返しとして、前述の通り総資産の4割以上が現預金(社債含む)なので す。

 

売上、損益

では、売上と損益の主な数値を見ていくことにしましょう。

  • 経常収益133億円(前期比+31億円)
  • うち相撲事業収益100億円(同+23億円)
  • うち広告収益6億円(同+1億円)
  • うち物品販売収益9億円(同+3億円)
  • うち受取寄付金7億円(同±0億円)
  • 経常費用128億円(同▲3億円)

上記経常収益から経常費用を控除し、更に法人税を支払った後の利益が3億円となっています。前年度は▲32 億円の赤字でしたので、大幅に収益が改善しました。このほとんどの要因は相撲事業収益となります。新型コロナの影響が出る2019年度とほぼ同じ水準まで入場券販売が戻り、物品販売等も戻って来たということになります。2024年度はさらに入場券収入の増加を見込んでおり日本相撲協会の最終の利益は9~10億円になる見込みと報道されています。

日本相撲協会のような興行ビジネスは、入場券さえ売れれば一気に収益が向上します。日本相撲協会の業績回復は、まさにその事例の一つと言えるでしょう。

 

余談

日本相撲協会の決算からは、他にも少し面白いことが分かります。日本相撲協会の会員である維持員(いわゆる公式のタニマチで土俵下で陣羽織を羽織り観戦している方々)は1,142 名となっています (団体維持員114名含む)。

この会員は寄付金として3年分を1名あたり東京地区で405万円、地方地区で112万円を 納めています。東京地区では年間で135万円を支払えなければ会員にはなれない訳です。タニマチの財力がなかなかのものであることが分かるのではないでしょうか。

 

まとめ

日本相撲協会は、130億円超の売上があり、最終利益が3億円の会社のようなものです。財務体質は大変に良好で、過去の蓄積で多額のキャッシュを保有しています。

日本の伝統を守るために教会の財務体質が良好であることは重要ですし、きちんと利益が出ていれば力士の処遇も向上し力士を目指す若者も確保出来るでしょう。

日本相撲協会の決算はコロナ禍において厳しい状況が続きましたが、やっと復活しました。これからも筆者は日本相撲協会の決算には注目していきたいと思っています。