銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金融庁が公表した銀行のコロナ対応の現状

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新型コロナウイルス感染症を踏まえた金融機関の対応事例を金融庁が公表しています。

金融機関のコロナ対応取組みのうち、他の金融機関の参考となる事例について、金融庁が随時取りまとめ・公表しているものです。

この対応事例は銀行員のみならず、債務者(事業者・個人)にとって参考となる内容が含まれていますので、ご紹介します。

 

貸付条件の変更等の状況

まず、貸付条件の変更に関する状況です。

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(出所 金融庁/貸付条件の変更等の状況について (令和2年3月10日から令和2年3月末までの実績))
金融庁は、返済猶予などの条件変更に柔軟に対応するように銀行に要請しています。そして、金融機関の貸出条件変更の実施状況を毎月報告させています。

上表は債務者が中小企業もしくは個人(住宅ローン)についての状況です。

債務者が中小企業である場合、銀行が条件変更(返済猶予等)、すなわち資金繰り支援に応じた割合は99%を超えています。

住宅ローンの返済猶予についても95%近くが対応しています。

現段階では、銀行はコロナ関連の債務者からの相談・要請にある程度対応しているということでしょう。


具体的な対応

次に、具体的な銀行の対応事例をご紹介します。これも金融庁が公表しているものです。(出所 https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20200420/01.pdf

 

【条件変更・新規融資等の対応】

  • 事業者からの条件変更等の相談があった場合には、審査を行うことなく、まずは、3ヶ月の元金据置ないし期限延長を実施
  • 事業者からの相談を受け、これまでの事業実績の評価に基づき、今後も事業を継続させていくため、1年間の元金据置・期限延長を実施
  • 受注が大幅に減少した事業者に対し、積極的な支援策としてまず1年間の元金据置を実施。将来の資金面の見通しがついた時点で、見通しに合わせ返済期限を柔軟に延長予定
  • 返済財源等に見通しが立たない場合に、一旦、6ヶ月程度の短期資金の貸出で対応し、その間に資金面・事業面でどの様な対応策が考え得るか、事業者とともに検討
  • 旅行者数の低迷による売上高の減少など、今後の業況悪化が明らかに懸念される事業者に対し、金融機関から能動的に6ヶ月の元金据置を提案・実施
  • 中小企業等への新たな資金供給手段として、最短即日、最大でも3営業日以内で融資判断する、コロナ対応の緊急ファンドを創設
  • 条件変更の際、通常であれば事業者に支払いを求めている手数料を一律に免除
  • 営業店に対し、数か月先までの資金繰りの確認支援(資金繰り表の作成サポート等)を能動的・プッシュ型で提案・実施しつつ、確認した資金繰りの状況に応じて元金据置等の条件変更や新規融資を事業者に提示
  • 足許のキャンセル対応等に追われる事業者に対し、今後の資金繰り懸念を勘案し、急を要する支払と、要しない支払に分類した上で、急を要しない支払の繰延の検討など、資金繰りのアドバイスを実施
  • 事業者の不安を解消するため、コロナ関連の特別融資(プロパー)の返済期間を 10 年から15 年へ、元金据置期間を2年から5年へと延長
  • 事業者のテナント料負担が軽減されるよう、テナントビル所有者への融資について、1年間の元金据置を実施
  • 2年以内の元金据置であれば案件問わずに支店長専決権限として、条件変更を実行
  • 事業者からの更なる条件変更の相談について、通常であればバンクミーティング等の調整に数週間を要すところ、メイン行として関係者と個別に調整し、約 10 日で対応
  • 条件変更中・事業再生中の事業者について、従前からのメイン行としての事業性評価を元に事業継続は可能と判断し、新規融資を実行
  • 条件変更等にあたって通常であれば支払いを求めている違約金・手数料等について、本部からの明確な指示の下、一律に免除
  • 住宅ローンの返済猶予の求めに対して、まず6ヵ月間、元金を据え置き、6か月後にその時点の状況を踏まえ対応を再検討する(条件変更手数料も無料)
  • 住宅の完成前に実行される形の住宅関連融資について、工期の長期化を見据え、住宅完成・引渡しまで元金を据え置く(条件変更手数料も無料)

 (出所 金融庁「新型コロナウイルス感染症を踏まえた金融機関の対応事例」令和2年4月 20 日より抜粋)

 以上のように、銀行がコロナ対応として既存の貸出に対して出来ることは、元本の据え置きと期限の延長、そして条件変更を行った際の違約金・手数料免除です(もちろん新規融資という選択肢はあります)。 

債務者は、資金繰りに問題を抱えているのであれば、銀行に相談すべきですし、金融庁が出している上記事例集を、場合によっては銀行に見せても良いでしょう(銀行へのプレッシャーにはなるでしょう)。

 

所見

金融庁は金融検査マニュアルを2019年に廃止し、銀行に自主的な業務運営を任せています。要は横並びを止めるということです。

今回のコロナ対応では、上記のように条件変更等の状況報告を求め、それを事例として一般に公開しています。これは、銀行の自主判断・裁量に任せる運営となっている以上、金融庁が出来る最大限のことかもしれません。

リーマンショック、東日本大震災等の大きな問題が起きた時には、銀行にとって自身の役割(価値)を認識する良い機会です。銀行員の中には、自身の業務の価値や、銀行自体の存在価値を感じられなくなってきている方もいるでしょう。

日本の経済とまではいかなくとも、取引先を支えるという気概を持って、この難局に当たっていけば、銀行員として、もしくは銀行の価値が見えてくるのではないでしょうか。