銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

銀行の2019年度決算と銀行が構造不況業種であるという事実

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日本銀行が金融システムレポート別冊シリーズ「2019年度の銀行・信用金庫決算」を発表しました。

日本の銀行業は低金利下で構造不況に陥って久しいとされていますが、2019年度の業績はどうだったのでしょうか。あまり注目されることのない信用金庫の決算含めて確認していきましょう。

 

大手行の損益

まずは大手行の損益です。

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大手行の 2019 年度の当期純利益(グループ連結、約 2.1 兆円)は、前年比▲3.0%の減益となった。これは、前年の一部先の一時損失の影響を除くと、前年比▲2 割程度の減益に相当する。国内貸出利鞘の縮小等に伴う資金利益の減少が続くもとで、債券関係損益の改善が利益の下支えに寄与したものの、株式関係損益の悪化や、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響に対する予防的引当の計上も含めた信用コストの悪化が利益を押し下げた。この間、一部先のグループ会社に関するのれんの減損損失の計上も、減益幅の拡大に寄与した。
大手行の銀行単体の当期純利益(約 0.4 兆円)も、一部先のグループ会社株式に関する減損損失の計上もあって、前年比▲69.9%の減益となった。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

大手行の当期純利益は実質的に前年度比▲2割程度の減益となったと指摘することは可能でしょう。但し、近時はあまりにも様々なことが起こるため、「一過性の利益・損失か」分からなくなっています。

そのため、当期純利益も重要な指標ですが、業務純益(一般企業の営業利益に近い概念)を比較した方が良いように思います。

上図のコア業務純益では、大手行単体は▲27%の減益です。

グループ連結だと▲14%となっており、フィナンシャルグループの核である大手銀行本体の業績が厳しいことが分かります。

 

地域銀行・信用金庫の損益

次に地域銀行(地方銀行)および信用金庫の2019年度損益について見ていきましょう。

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地域銀行の当期純利益(約 0.7 兆円)は、前年比▲11.1%の減益となった。国内貸出利鞘の縮小等に伴う資金利益の減少が続くもとで、経費の削減や債券関係損益の改善が利益の下支えに寄与したものの、株式関係損益の悪化が利益を押し下げた。

信用金庫の当期純利益(約 0.2 兆円)は、前年比▲13.7%の減益となった。貸出利鞘の縮小が続いたものの、投信解約益の増加により資金利益が押し上げられたほか、経費の削減も収益の改善に寄与した。一方、債券関係損益は改善したが、株式関係損益の悪化や、信用コストの悪化が利益を押し下げた。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

上図で見ると、コア業務純益で前年度と比較した場合、地域銀行も信用金庫も大手行に比べて業績は悪くありません。

但し、信用金庫については、投資信託の解約益が本業の利益を押し上げおり、実質的には大きな増益幅を確保した訳ではありませんでした。

地域銀行も信用金庫も株式関係損益が悪化していますが、これは自らが売るか売らないかを決めるものであり、筆者は大きなファクターではないと考えています(要は決算調整に使われるようなもの)。

 

コア業務純益の推移

では、2019年度の決算のみならず、長期間でのコア業務純益の推移について見ていきましょう。

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基礎的収益力をみると、大手行の2019年度のコア業務純益は、前年比▲27.1%と5年連続の減益となったほか、地域銀行でも、前年比▲4.8%と2 年連続の減益となった。この間、信用金庫では、投信解約益の増加もあって、前年比+13.6%の増益となった。やや長めの時系列でみれば、いずれの業態についても、国内資金利益の減少が続くもとで、コア業務純益も減少基調が続いており、バブル崩壊以降における最低の水準となっている。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

コア業務純益の長期推移を見れば、右肩下がりであることが明白です。

 

貸出利鞘の推移

なぜ銀行の本業収益であるコア業務純益が下落傾向にあるかといえば、貸出の利鞘が縮小しているからです。以下の図をご覧ください。

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国内業務部門では、大手行、地域銀行とも、低金利環境が長期化するもとで、貸出利回りの低下幅が調達利回りの低下幅を上回り、貸出利鞘の縮小が続いた。
大手行の国際業務部門では、米国の利下げに伴い、貸出利回りと調達利回りがいずれも低下するもとで、調達利回りの低下幅が相対的に小さく、貸出利鞘は縮小に転じた。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

貸出利鞘は限界まで縮小しているように筆者は感じますが、まだ下げ止まったと言える状況にはありません。

国際業務については、大手行は比較的安定した利鞘を確保してきましたが、調達コストの拡大が気になるところです。 

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貸出利率別の貸出残高(円貨・国内店)の推移をみると、大手行、地域銀行とも、低金利ゾーンでの貸出残高の増加が続いた。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

貸出利率別の貸出残高は、まさに低金利ゾーンで増加が続いています。比較的信用力の高い取引先に貸出を集中してきたことが分かります。 

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国内貸出利益の変化を貸出利鞘・残高要因別にみると、大手行、地域銀行とも、貸出残高の増加が利益を押し上げる以上に、利鞘の縮小が利益を押し下げており、貸出関連の利益の減少が続いている。

(出所 日本銀行「2019年度の銀行・信用金庫決算」)

国内の貸出残高は近時増加してきました。

普通に考えれば貸出残高が増加すれば、銀行は儲かるはずです。

しかし、実際には、貸出利鞘が縮小しており、結果として貸出利益は減少し続けています。

 

所見

これまで、銀行の決算の状況、本業の利益の推移、貸出利鞘・利益の推移について見てきました。

これらを見ると分かるのは「銀行が構造不況業種であるという事実」です。

銀行はビジネスモデルとして収益の源泉である利鞘を稼げなくなってきています。完全に借入人優位の状況が続いているのです。

銀行は様々な策を考えてきたのでしょうが、恐らく根本的な解決にはなりません。

この構造不況の原因は、資金需要が民間に少ないことにあります。

以下は日本銀行が発表している2020年3月末時点の資金循環表です。

これを見れば、日本において家計も民間非金融法人のような民間の資金が余剰であり、実際に資金が足りないのは政府であることが分かるでしょう。

政府は徴税権があり信用力が民間よりも高い以上、銀行が政府に貸出(国債の購入含む)を行っても、民間ほどには利鞘を確保できません。

そして、民間は全体で見ると資金余剰なのですから、借り手優位は続くのです。

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銀行が今後も生き残るためには、「貸出業務ではない何か」で収益を獲得するビジネスモデルを作り上げなければなりません。それまでは、利鞘が下げ止まるまで、コスト削減を続けるしかないように筆者は思います。