京都⼤学レジリエンス実践ユニット(ユニット⻑:藤井聡)が、新型コロナウイルス感 染症への対策に伴う経済活動の縮⼩が、実質GDP成⻑率、失業率、⾃殺者数に与える影響について試算しました。
この試算はあくまで一つの考え方でしかありませんが、筆者には衝撃的な話でもありましたし、納得できるものでもあります。
今回は、この京都大学の自殺者数に関するシミュレーションについて確認しましょう。
ウィルス感染症拡大阻止と経済活動の回復という二択があるのだとしたら、どちらを選ぶのかについて、考えさせられるのではないでしょうか。
試算概要
今回採り上げる京都大学の試算は、失業率が上がれば⾃殺者が増えるという関係性が明確に存在していることに問題意識があるようです。
今⽇の緊急事態宣⾔下における経済活動の⼤幅⾃粛を伴う感染症対策を⾏うことで、⼤幅なマイナス成⻑が記録され、それを通して、⾃殺者数が不可避的に拡⼤してしまうことが危惧されると、京都大学のレポートは述べています。恐らく、その警鐘を鳴らすために、感染症対策を含めたコロナショックによって、どの程度の自殺者数が拡大しうるのかを推計したと思われます。
試算の概要は以下の通りです。
- 過去のデータより、GDP成長率が下落すると失業者が増え、自殺者が増えるとい う相関関係があることが実証的に明らかにされている。
- これら実証データで⽰された成⻑率、失業率、⾃殺者増の統計的関係に基づき、⾃殺者数の推移を推計した。
- GDP成⻑率の低下については、⺠間シンクタンクにより報告されている、2020年度のコロナショックによる成⻑率下落予想値を⽤いた。
- 感染症が1年後に収束する「楽観シナリオ」と2年後に収束する「悲観シナリオ」の双⽅を検討した。
- 結果、次のように極めて深刻な被害がもたらされる可能性が⽰唆された。
- 実質GDPが2020年度において14.2%下落
- 失業率はピーク時に6.0%~8.4%に到達
- 累計自殺者数が、14 万人~27 万人増加
これは衝撃的なシナリオではないでしょうか。
試算の補足
以下でこのレポートの留意点・補足点に触れておいた方が良いと筆者が考えるポイントを抜粋します。
- 失業者が増えれば、⾃殺者が増えるという傾向が統計的に存在しないという確率は0.1%にも満たない。
- そして、その傾向を定量的に⾔うなら、「失業率1%上昇すると、約2400人、年間自殺者が増える」 となる。
- 失業率の上昇により、 楽観シナリオの年間自殺者数ピークは34,449人(2019年度より14,280人増) 悲観シナリオの年間自殺者数ピークは39,870人(2019年度より19,701人増) となる。
- そして、それ以後、経済が復活し、少しずつ成⻑するに伴って失業率も低下していくことを通して、年間⾃殺者数は下落していく。しかし、2019年の⽔準に戻るまで、それぞれ19年間と27年間の時間を要すると推計された。ちなみ に、1997年増税に伴うデフレ化による⾃殺者数の増加が、元の⽔準に戻るまで20年を要した事を踏まえると、今回の回復時間についての推計値は、おおよそ同程度にあると考えることができる。
尚、コロナウィルス感染症による死亡者数は、2020年5月3日現時点において、日本では500人超(世界全体で24万人超)です。
所見
批判を恐れずにあえて言うならば、日本においては、新型コロナウィルス感染症で無くなる個人と、これからの失業率上昇に伴い自殺する個人だと、後者が多くなるのでしょう。
今回の緊急事態宣言の延長においては、「日本経済が持たない」という観点の議論は、(今もなされているはずですが)きちんとするべきでしょう。その効果の総括や検証も必要でしょう。
大阪府の吉村知事が発言したと報道されていますが、「経済で人の命を失わせない明確な方向性を」です。
筆者は、コロナウィルス感染症対策をおろそかにすべきだとは思いませんが、より現実に即した、柔軟な施策をする必要はあるように感じています。
但し、新型コロナウィルス感染症は「今そこにある危機」、失業率増加に伴う自殺者数増加は「将来あるかもしれない危機」です。
感情等に流されず、冷静な判断を行うのは、マスコミではなく政治家の役割です。政治家にとって腕の見せ所ではないでしょうか。
尚、筆者は今回のコロナショック以降、日本における世代間対立の芽を感じています。
感染拡大防止という自粛(=主に高齢者を守る)と、将来の自殺者増を防止するための経済活動の再開(=現役世代を守る)という観点が、よりクローズアップされてくるように思います。
(以下は新たに立ち上げたブログの記事です)