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日本を日本人はどのように見ているのか

世界第3位の市場調査会社であるイプソスが 「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」を公表しています。

この調査では、既存の政治体制に対する国民の不満と、国を立て直すために指導者が「ルールを破る」ことを望む国民の意思等を調べています。

筆者は、ポピュリズム、すなわち大衆からの人気を得ることを第一とする政治思想や活動が世界中で拡がっているように感じています。これは世界中で既存政治への不満や社会への閉そく感、格差の拡大や固定化が背景にあるのでしょう。ポピュリズムは本来であれば大衆のための政治や活動のはずですが、実際には特定の人種やエリート等少数勢力などへの差別をあおる排外主義に結びつきやすく、攻撃的になりがちです。

先に挙げたポピュリズムによる調査では、日本の回答者が「日本についてどのように思っているか」も明らかにされています。日本の今後を占う上で参考となるデータだと思いますので、今回はこの「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」をご紹介したいと思います。日本のデータだけではなく、他国の状況と比較することで、日本の「今」 が見えてくるかもしれません。

 

データで見る世界と日本

では、データを見ていきましょう。

<Q.自国の社会は崩壊している>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

世界各国の平均では57%が自国の社会は崩壊していると回答しています。

一方で、日本は44%に過ぎません。スウェーデンは73%、ドイツは 67%と高く米国も65%です。

日本はともかく調査対象国はどこも社会が崩壊しているかのようなデータとなります。

 

<Q.自国は衰退している>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

次に自国は衰退しているかという設問ですが、世界各国の平均は58%です。その中でも南アフリカ、オランダ、スウェーデン、フランスは70%を超えており、国民が強く自国の衰退を危惧していることが分かります。ただ、日本も68%が自国は衰退していると感じています。そして日本では2016年は40%だったことを鑑みるとコロナを経て日本国民は日本という国が衰退しているとの思いを強くしたことが分かります。

尚、先進国で唯一の人口増加が見込まれている国であり、経済が好調である米国でも 59%が自国は衰退していると回答がなされています。今年は米国の大統領選もあります。閉塞感を打ち破るために有権者が変化を望む可能性もあるということになります。

 

<Q.自国は金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

「自国は金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている」との設問では、世界各国の平均は63%が「そう思う」と回答していますが、米国は66%が「そう思う」と答え、世界各国の平均を上回っています。

一方で、日本は55%であり強いリーダーを相対的には期待していないということでしょう。

尚、欧州各国は比較的強いリーダーを必要としている割合が低く、特にドイツは38%しかありません。これは歴史的な反省が背景にあるものと思われます。

 

<Q.自国を立て直すためには、あえてルールを破るような強いリーダーが必要である>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

「自国を立て直すためには、あえてルールを破るような強いリーダーが必要である」という設間には世界各国平均で49%が同意しています。特に同意した率が85%のタイや79%のインド、66%の韓国が割合としては高くなっています。

日本は52%であり、平均よりは少し上に位置しますが、「自国は金持ちや権力者からこの国を取り戻す強いリーダーを必要としている」という設問とも同意割合が近く、微妙なところです。

一方、米国は40%の同意に留まっており、ルールをあえて破ることを国民が求めている訳ではないと言えるでしょう(これはトランプ前大統領にとっては向かい風か)。この設問ではやはりドイツの同意割合が低く27%となっています。

 

<Q.私たちの社会では、一般市民と政治や経済のエリートとの間に大きな格差がある>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

格差・エリートとの分断という観点では、「私たちの社会では、一般市民と政治や経済のエリートとの間に大きな格差がある」という設問がなされています。世界各国平均では67%が同意しています。日本は75%が同意しており、これは世界各国の中でも高い部類に入ります。格差が問題になっている米国は60%、韓国も60%です。日本は一般的な感覚としては既に大きな格差社会となっていることになります。

 

<Q.自国政府が追加の公共支出のために増税することについてどの程度同意するか>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

自国の政府が追加の公共支出のために増税することについて、どの程度同意するかという設問については、世界各国の平均は19%となっており「大きな政府」となることを一般市民は望んでいないことが見て取れます。日本はその中でも低い部類に入り、増税への同意は14%となり世界平均を下回っています。

 

<Q.自国政府がインフラ(道路、橋、鉄道網と空路網、水道、電気、ブロードバンドなど) についての支出を増加すべき、または減少させるべきだと思うか>

(出所 イプソス「ポピュリズムに関するグローバル調査2024年」)

また、自国政府がインフラ(道路、橋、鉄道網と空路網、水道、電気、ブロードバンドなど) についての支出をどの程度増加すべき、または減少させるべきだと思うか、という設問については、世界各国の平均は62%が増加させるべきでした。ところが日本では 39%が増加させるべきと回答しており調査国中では最下位でし た。この設問は主に先進国が低い割合となっています。

ただ、日本一般市民の政府支出増加嫌い(≒増税嫌い) はかなりのもので、教育への支出を増やすべきかという設問に同意したのは43%であり、韓国に次いで低い水準でした。世界各国平均では 69%が同意していますので、日本は衰退しているとされているのに、教育で挽回しようと考えている一般市民が少ないことが分かります。尚、日本は医療でも最下位であり、 医療への支出を自国政府が増やすべきかという設問に対しては同意しているのが52%です。世界平均は75%であり、政府の支出増を嫌う米国ですら62%が同意しています。防衛及び国家安全保障への支出についても、世界平均で51%のところ、日本は最下位で、32%が増やすべきとの回答でした。

 

何を読み解くか

以上アンケートの調査を見てきました。

これから読み解けることなどのようなことでしょうか。

筆者は、日本が全体として「衰退している」というよりは「衰退を望んでいる」ように思えて仕方がありません。

現在の世界は、人のアイディアや知恵によっておカネが極端に集中する世界です。GoogleやApple、マイクロソフト、Amazonに富が集中しています。この傾向は情報技術が進化しSNSが市民権を得、情報が誰でも発信できるようになった以上、簡単には変わらないでしょう。少数が世界の富の大半を集めることになります。この原動力こそが「人であり、アイディア」です。

すなわち、「人」は製品を製造するためのコストではなく、製品そのものであり、競争力の源泉になってきているのです。

それなのに、人に対する投資(教育)を増やさず、国防にもお金を掛けず、インフラにもお金を掛けず、とにかく政府のこれ以上の支出を歓迎しないのが日本の一般市民の感覚なのではないでしょうか。そして、強いリーダーに期待している訳でもありません。この結果では、日本の一般市民は政治に「これ以上何もしない」ことを望んでいるのではないでしょうか。

今回紹介した調査は、あくまでポピュリズムが台頭しているか否かの調査でしたが、まさに日本の今を表しているように思います。変わらない日本、変わりたくない日本、それが示されているのではないでしょうか。

ただ、我々はこのままでいられる訳はありません。変化して初めて現状維持が出来ると思った方が良いでしょう。

そして、我々は他国の一般市民も自国が衰退していると懸念を持っていることを知るべきです。隣の芝生は青く見えますが、我々とそこまでの違いはありません。日本には閉塞感があるかもしれませんが、他国も同じです。過度に悲観的にならず、前を向いて進まなければ、日本という国を次世代に受け継いでいけないのではないでしょうか。少しでも良い未来を後の世代には残したいものです。