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RIZAPの問題点が浮き彫りに~2019年3月期中間決算~

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RIZAPが2019年3月期中間決算を発表しました。

売上高は大幅増収となりましたが、営業損益以下赤字に転落しました。

これは突然の赤字転落と言えるでしょう。

今回は、RIZAPの2019年3月期中間決算について確認しましょう。

 

報道内容

まずは、RIZAPの決算内容についての報道を確認します。以下、報道記事から抜粋して引用します。

RIZAPが赤字転落、急ピッチのM&Aがあだに 瀬戸社長「見通し甘かった」

2018/11/14  ITmedia ビジネスオンライン

 「ステークホルダーの皆さまの期待を裏切る結果となり、おわび申し上げる。ここ1~2年はM&A(買収・合併)に注力して(傘下の)会社を増やしたが、見通しが甘かった」――。RIZAPグループの瀬戸健社長は、11月14日に開いた決算会見でこう謝罪した。
 同日発表した2018年度上半期(4~9月)の連結決算は、売上高が前年同期比74.3%増の1091億500万円、営業損益が88億2900万円の赤字(前年同期は49億8700万円の黒字)、純損益が85億3200万円の赤字(前年同期は29億3200万円の黒字)に転落した。
●多くの子会社が損失計上
 RIZAPグループはこれまで、主力のボディーメーク以外に事業を広げるため、アパレル企業、出版社、エンターテインメント店などを傘下にするM&Aを積極的に展開。経営再建ノウハウを生かして立て直しを図り、成長の原動力とする施策を採ってきたが、今期は再建の進捗(しんちょく)が当初の見込みから遅れ、多くの子会社の赤字幅が拡大したことが響いた。
 不調だった子会社は、CD・DVD・書籍販売店「新星堂」などを展開するワンダーコーポレーション、化粧品販売のジャパンゲートウェイ、フリーペーパー制作のサンケイリビング新聞社とぱど、住宅会社のタツミプランニング――など、過去1年以内に傘下に迎えた企業。
 一時は再建が進み、成長を遂げつつあった婦人下着販売のMRKホールディングス(マルコから社名変更)の業績回復も、新商品の生産遅延の発生や、新CMなどの投資がかさんだ影響で減益となった。
●今後は新規のM&Aをいったん凍結
 今後は従来の方針を変更し、新規のM&Aをいったん凍結。業績改善が見込める傘下企業の構造改革に注力する。本業とのシナジーが見込めず、短期的な投資回収・収益改善が見込めない企業は売却する。現時点では、アミューズメント施設運営のSDエンターテインメントを売却する方向で基本合意しているという。

 「これまでは経営再建が完了する前に新規M&Aを行っていたが、これからは既存事業の改善が見えるまで再建に集中する」(瀬戸社長)
●通期でも赤字予想、無配に
 一連の問題により、19年3月期通期では、再建の遅れによる影響額として71億6000万円、構造改革関連費用として83億5000万円、新規M&Aの凍結による影響額として103億6000万円、その他影響額として4億3000万円――の各種損失が発生する見込み。
 これを踏まえ、同社は19年3月期の通期業績予想を下方修正。売上高は前回予想から191億円減の2309億円、営業損益は263億円減となる33億円の赤字、純損益は229億4000万円減となる70億円の赤字を見込む。
 従来は5.73円を予定していた期末一括配当も見送り、今期は無配とする。

(以下略)

これが報道内容です。

「ここ1~2年はM&A(買収・合併)に注力して(傘下の)会社を増やしたが、見通しが甘かった」と社長は説明しているようです。

 

決算のポイント

では、RIZAPの2019年3月期中間決算についてのポイントを見ておきましょう。

  • 連結営業利益の推移は、2017年3月期中間=63億円、2018年3月期中間=49億円、2019年3月期中間=▲88億円となっており当期では赤字転落。
  • この前年同期比▲138億円の連結営業利益減(赤字転落)となった主な要因は「子会社の減益」。①非上場子会社=前年同期比▲18億円、②上場子会社=前年同期比▲79億円、③先行投資(マーケティング費用+新規出店等)=▲79億円。
  • 通期の連結営業利益の当初見通しについては230億円。今回予想を下方修正し、連結営業利益を通期▲33億円に変更。この減益要因は、①子会社の経営再建遅れ=▲71.6億円、②構造改革関連費用等を含む損失=▲83.5億円、③新規M&Aの原則凍結=▲103.6億円。
  • 営業CFは▲76億円、投資CFは▲88億円、財務CFは+299億円。キャッシュを稼ぐ力は変わらず弱い。
  • 保有現預金は572億円。

このポイントを見れば分かる通り、RIZAPは新規M&Aの凍結にて▲103億円の減益を予想しています。これは当期も経営不振企業を買収し「割安購入益=負ののれん」を計上して決算を作ろうとしていたと考えられます。それが、決算の通期見通しに含まれていたということです。これはかなり「微妙」でしょう。

そして当期で増資をしていますが、株主にとっては非常に問題の多い時点での増資となりました。

なお、現預金が572億円あるため、短期的な時間軸における資金繰りの懸念は僅少でしょう。

RIZAPは会計上の実質的な抜け穴を使いながら企業グループを拡大してきました。しかし、会計上の利益だけを追い求めた結果、キャッシュ創出力と利益との乖離が大きくなってきていたのです。すなわち、そろそろM&Aによる負ののれん計上スキームが成り立たなくなってきたということかもしれません。

RIZAPの問題は、本質的にはキャッシュを稼ぐ力を構築できていないということです。

「ここ1~2年はM&A(買収・合併)に注力して(傘下の)会社を増やしたが、見通しが甘かった」と社長は説明していますが、これは正確ではないでしょう。むしろ不振企業を買収することによって利益を確信犯的に拡大してきたのです。一過性の利益は、見通し通りに計上できたのです。しかし、経営再建が想定よりうまくいっていないというだけです。これはRIZAPの企業買収スキームが抱える根本的なリスクであり、だからこそ他社は同じスキームを実施しないのです。

本質的にはRIZAPに経営再建のノウハウ・能力はないということになるのかもしれません(もう少し時間をかけて評価する必要があるとは思います)。

松本氏を迎えたRIZAPの構造改革には相応の時間がかかるでしょう。

 

(割安購入権=負ののれんの説明等は以下の記事をご参照ください)

www.financepensionrealestate.work