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KNT-CTHD(近畿日本ツーリスト)の決算から見る旅行会社の苦境

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近畿日本ツーリスト、クラブツーリズム等を展開する大手旅行会社KNT-CTホールディングスが2021年3月期2Q(4~9月)の決算を発表しました。

コロナ禍において旅行会社の業績が苦戦するのは避けられないことではあるものの、KNT-CTホールディングスの決算状況は衝撃的です。

今回はKNT-CTホールディングスの2021年3月期中間決算について見ていくことにしましょう。

 

業績概要

決算の概要は以下のグラフをご覧ください。

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(出所 KNT-CTホールディングス「令和3年3月期 第2四半期決算・通期業績予想および事業構造改革について(補足資料)」)

上記のグラフをご覧いただければ分かる通り、KNT-CTホールディングスの業績は驚くほど苦戦しています。

2020年4~9月の売上高は前年同期比で▲92.6%です。ほとんどの期間を営業停止していたようなものです。

その結果として、前年同期から比べると営業利益は266億円悪化し、▲232億円と大幅営業赤字となりました。もちろん、経常利益、当期利益ともに赤字です。

そして、この大幅な赤字により財務面で大きな問題が生じています。

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(出所 KNT-CTホールディングス「令和3年3月期 第2四半期決算・通期業績予想および事業構造改革について(補足資料)」)

上図表はKNT-CTホールディングスの貸借対照表です。

ここでポイントになるのは、純資産が大幅な赤字により棄損し12億円となっていることです。自己資本比率は1.4%となっており、かろうじて債務超過を免れていることになります。

2020年4~9月では最終の損益は▲168億円でした。2021年3月通期の業績予想は▲170億円ですので、通期でも債務超過転落には至らないというのがKNT-CTホールディングスの見通しです。

尚、上図表のように一株当たりの純資産は44円となっていますが、決算発表後の2020年11月12日の株価(始値)は920円となりました。PBRはかなりすごいことになっています。

 

業績改善策

KNT-CTホールディングスは、債務超過に転落する可能性はありますが、資金繰り面ではまだ追い込まれるまでには至っていません。

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(出所 KNT-CTホールディングス「令和3年3月期 第2四半期決算・通期業績予想および事業構造改革について(補足資料)」)

2021年3月期2Q(4~9月)では、2020年9月末時点でキャッシュ(現金および現金同等物)は445億円残っています。2020年3月末がはキャッシュが482億円でしたので、この4~9月の半年間は、赤字額に比べれば現金流出は少ない状況にありました。

それでも、出血を止めることは必要です。今回の中間決算発表と同時にKNT-CTホールディングスはコスト構造の見直しを発表しました。

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(出所 KNT-CTホールディングス「令和3年3月期 第2四半期決算・通期業績予想および事業構造改革について(補足資料)」)

上図表のようにグループ会社の合併による重複業務の整理等、4年半で従業員の3分の1(約2,100名)削減早期退職募集等を実施するとしています。また上図表にはありませんが、全国138店舗の個人向け旅行店舗を2022年3月末までに3分の1に縮小することも併せて発表しました。

このようなコスト削減策により2022年度には約200億円のコスト削減を見込んでいます。

 

今後の動向

KNT-CTホールディングスは上場企業ではありますが、近鉄グループホールディングスが53.55%の株式を持ち(2020年3月末時点)、他の近鉄グループ各社も株式を保有している近鉄グループホールディングスの連結子会社です。

もしKNT-CTホールディングスが破綻した場合には、近鉄グループホールディングスの信用問題にもなるでしょう。普通に考えると、近鉄グループホールディングスから資本支援を受けてもおかしくない局面です。

もちろん、近鉄グループホールディングス自体の業績も苦しいため、KNT-CTホールディングスへ支援をする余裕がないという考え方もできます。しかし、近鉄グループホールディングスとしてもKNT-CTホールディングスを見捨てた場合の影響は大きいのです。そんな簡単な話ではありません。

従って、そう遠くない将来にKNT-CTホールディングスからは何らかの資本政策の発表があるのではないかと筆者が考えています。但し、それが近鉄グループホールディングスからの資金調達となるのか、それとも全くの第三者からになるのか(実質的に独立を果たしていくのか)については不透明です。

旅行会社はどこも事業継続に苦戦しています。徹底的にコスト削減し、ネットでの対応力を磨くことが生き残りの道なのでしょう。そのような観点では、KNT-CTホールディングスはリアルな業態である近鉄グループホールディングスから離れ、独自の強さを誇る他企業と連携を組むというのも十分に選択肢になるのではないかと考えます。