旅行業界最大手JTBが2021年3月期の決算を発表しました。
新型コロナウイルスの影響で国内外の旅行需要が落ち込み、最終的損益は▲1,051億円と過去最大の赤字となりました。
国内店舗および従業員の大幅削減等を打ち出していますが、JTBは企業として存続できるのでしょうか。
今回はコロナ禍で最も影響を受けている業界の一つである旅行業界の最大手、JTBの決算内容について確認していきたいと思います。
決算概要
では、JTBの2020年度決算(2021年3月期決算)の概要を確認していきましょう。
- 売上高 3,721億円(前期比▲71.1%、▲9,165億円)
- 営業利益 ▲976億円(赤字転落、前期比▲989億円)
- 経常利益 ▲743億円(赤字転落、前期比▲768億円)
- 当期利益 ▲1,052億円(赤字転落、前期比▲1,068億円)
- 純資産 475億円(前期比▲1,097億円)
- 自己資本比率 6.9%(前期比▲17.4ポイント、前期自己資本比率=24.3%)
これを見るといかにJTBがコロナウイルスの影響を受けたが分かるのではないでしょうか。
売上高は7割減、利益は一気に赤字転落となっています。
この赤字を受け、純資産は大幅に減少し、自己資本比率は6.9%と一桁台に急落しています。2020年3月期末時点で自己資本比率は24.3%ありましたので、財務体質は大幅に悪化しています。
セグメント状況
では、JTBの業績悪化の要因をセグメント別に確認しましょう。
- 国内旅行 売上高1,528億円(前期比▲66.4%)
- 海外旅行 売上高225億円(前期比▲94.9%)
- 訪日旅行 売上高38億円(前期比▲94.4%)
- グローバル旅行(※) 売上高117億円(前期比▲89.4%)
- ※グローバル旅行:日本以外の第三国間における旅行事業
こちらは解説する必要もないように、海外旅行、訪日(インバウンド)旅行、そしてグローバル旅行のセグメントが完全に止まっていることが分かります。国内旅行だけが少しは奮闘したというところでしょう。やはり国内旅行は重要だと感じられるかもしれません。
これを別の切り口で見ると、JTBの今後の課題と方向性が見えてきます。以下は少し異なるセグメント別の営業利益の状況です。
- 個人事業 営業利益▲505億円(赤字幅拡大、前期比▲461億円)
- 法人事業 営業利益▲66億円(赤字転落、前期比▲145億円)
- グローバル事業 営業利益▲348億円(赤字幅拡大、前期比▲316億円)
- シナジー事業 営業利益▲25億円(赤字転落、前期比▲33億円)
- その他事業 ▲3億円(赤字転落、前期比▲17億円)
個人事業とグローバル事業は前々期決算である2020年3月期でも赤字でしたが、この赤字幅が急拡大しています。これは店舗等の固定費が重いからです。
JTBがこれから行うべきことは、このセグメント別の営業利益が物語っています。
すなわち、個人向け事業のコスト削減です。
リストラ策
JTBは経営の立て直しに向けて、2021年度中(2022年3月期中)に、2019年度比で国内480店舗数を115店舗減少させ(約4分の1を削減)、かつ約2万9,000人いた国内外の従業員数を約7,200人減らす計画であると発表されています。
さらに、今年度の賞与支給見送り、給与減額を行い、当面は従業員の年収ベースで30%削減し、人件費を抑制するとしています。
これでコストを抑制しながら、旅行客の回復を待つということでしょう。(もちろんネットでの販売等の施策も実施していくことになります)
では、JTBの資金繰りに問題はないのでしょうか。
資金繰り
JTBがコストを削減したところで旅行客数が回復していかなければ赤字が続くだけとなるでしょう。
JTBは前述の通り、自己資本比率が一桁台になる等、財務内容が悪化しています。資金繰りに問題はないのでしょうか。
以下は資金繰りを見るためのポイントとなる数値です。
- 借入金増加額 899億円
- 現預金 3,692億円
- コミットメントライン(空き枠) 600億円
- 営業キャッシュフロー 228億円
- 販管費 2,057億円
すなわち、2021年3月期は約900億円の借入を実施、それにより現預金は約3,700億円まで積み上げ、更にいつでも借入を行うことができるコミットメントラインを600億円確保しており、実質的に手元資金は4,300億円保有しています。
一方で、本業でのキャッシュ流出は2021年3月期にはありませんでした(営業キャッシュフローはプラスを維持)。
少し暴論ですが、JTBが一切の収入が無くなり、販管費(これには減価償却費のような現金流出の無い費用も含まれる)が全てキャッシュアウトすると仮定したとしても、4,300億円÷2,057億円=2.09となり、2年間は資金繰りには問題がないことなります。
そして、JTBの借入残高は2020年3月末時点で177億円しかなく、実質的に無借金企業でした。2021年3月末時点でも1,076億円ですので、手元資金で返済が可能です。コロナ前の財務体質が良好であったことが功を奏していることになります。
そして、JTBは、財務基盤を強化するため、政府系の日本政策投資銀行に優先株を引き受けてもらう形で資本支援を要請する方向で検討を進めていることが明らかになっています。これによって低下した自己資本比率の改善を狙っています。
総じて言えば、現時点でJTBには資金繰りの問題は発生していません。まだ少なくとも2年程度は耐えられる状況にあるということになります。
所見
2021年度(2022年3月期)は保守的に見ても黒字化するとJTB社長が決算発表の場で説明したと報道されています。黒字化の根拠は、2020年度と比較して一定程度市況が回復する予想と、旅行外需要の獲得の手ごたえ、コスト構造改革の推進を踏まえたものとのことですが、筆者としてはこれについては判断がつきません。
しかし、前述の通り、JTBの資金繰りは足元問題ありません。2021年度(2022年3月期)が黒字化できなかったとしても破綻に追い込まれることはないでしょう。
ワクチンの普及、それに伴う旅行需要の回復がどのようになっていくか注目していきたいと思います。