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スルガ銀行の2019年3月期中間決算評価~不良債権処理が一段落したかは不透明~

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スルガ銀行の2019年3月期中間決算が発表されました。

事前の報道にあった通り、大幅な赤字となっています。

今回はスルガ銀行の決算状況がどのようになっているのかについて簡単に見ていくことにしましょう。

 

決算概要

スルガ銀行の中間決算の概要をつかむため、まずはBloombergの記事を引用します。 

スルガ銀は4-9月期986億円の赤字、不動産融資関連の引当金積み増し

2018年11月14日 Bloomberg

 スルガ銀行は14日、4-9月期の純損失が986億円になったと発表した。シェアハウス関連融資などに関連して貸倒引当金1074億円を追加で計上したことが響いた。今期(2019年3月期)の純損益も従来の250億円の黒字から975億円の赤字に転落するとの見通しを明らかにした。

 メガバンク3行が軒並み数千億円規模の純損失を計上した09年3月期以来、上場している銀行が1000億円近い赤字を計上するのは初めて。スルガ銀は東証で開示した資料で9月末時点の貸倒引当金が1944億円と、6月末の870億円から拡大したことを明らかにした。

  シェアハウス向け不正融資問題では、スルガ銀の外部委員会が9月、融資の審査書類などに改ざんや偽造があり、多くの行員が関与していたと認める報告書を公表。金融庁は10月、スルガ銀に対し投資用不動産向け融資などの新規取り扱いを6カ月停止させる行政処分を出した。

 スルガ銀は来年4月までの業務停止命令期間中に不動産投資向け融資を全件調査すると公表、中間決算でその時点での追加損失を計上する方針を示していた。

 同日に静岡県沼津市内で会見した有国三知男社長は、資金繰りが悪化した場合に備え、日銀と連携して適格担保を元に資金供給を受けられる準備をしていることを明らかにした。その上で、現預金が5000億円超あり、すぐに資金供給が必要な状態ではないと強調した。シェアハウス向けの不正融資問題が起きて以降、預金流出が続いており、9月末までの半年間で6697億円減少した。

(中略)
 同社の発表資料によると、9月時点のシェアハウスローンの延滞率は30%と、他のローンの延滞率を大きく上回った。この状態について、有国氏は支払いの催促などをせず法的措置をとらないことも明言しているために顧客が様子を見ているためと説明。
 シェアハウスローンの残高を保護するための担保や引当金などによる「保全率」は9割を超えており、主力の1棟収益ローンの延滞率は低いことなどから、今後損失がさらに拡大する可能性は限定的との見方を示した。他社との資本・業務提携の可能性について「当社の価値が上がるなら」検討する考えだが、「現状話は来ていない」とした。

(以下略)

 以上が報道内容でした。

 

決算のポイント

以下、スルガ銀行の決算におけるポイントを挙げます。

  • 資金利益(貸出利息等)は555億円(前年同期比▲4.8%
  • 資金利益は前年同期(2017年4~9月)からは減少しているものの、2016年4~9月期の548億円を上回っている水準
  • 実質業務純益(業務純益+一般貸倒引当金繰入額)は301億円(前年同期比▲9.1%)
  • 実質業務純益の水準は高く、例えばコンコルディアFGの中間時点における実質業務純益は416億円(同行Gの貸出金残高は12兆円超でありスルガ銀行の4倍)
  • 実質与信費用は1,196億円と1,163億円の増加
  • 貸出金期末残高は3兆858億円(前年同期比▲6.0%
  • 貸出金利回りは前年同期比▲0.22%低下の3.36%
  • 預金期末残高は3兆4,159億円(前年同期比▲16.1%
  • 預貸率(預金額に対する貸出額の割合)は前年同期比+9.7%の90.3%
  • 主なローン種別毎の延滞率は、住宅ローン=0.24%、ワンルームローン=0.20%、1棟収益ローン=0.50%シェアハウスローン=30.13%、カードローン(無担保)=0.37%
  • シェアハウス「関連」融資残高2,537億円に対して、保全額(担保等による保全額に一定割合を乗じた保全見積額)952億円、引当額1,362億円となり、保全率91.2%
  • 投資用不動産ローン(ワンルームローン、1棟収益ローン、その他有担保ローン)に対する貸倒引当金残高は303億円であり、投資用不動産ローン残高1兆6,770億円に対する割合は1.8%(シェアハウス関連融資残高2,537億円に対する貸倒引当金残高は1,362億円であり、割合は53.6%)
  • 金融再生法開示債権(いわゆる不良債権)は2,750億円であり、総与信額3兆1,047億円の8.9%(前年同期比+8.0%)※地銀最大手コンコルディアFGの場合=1.4%
  • 金融再生法開示債権2,750億円に対する保全は、担保・保証1,013億円、貸倒引当金1,381億円であり、保全率は87.0%
  • 担保・保証で保全されていない部分に対する引当率は前年同期比+34.0%の79.4%

以上がポイントとして挙げられる数字等です。

 

スルガ銀行の2019年3月期中間決算の評価

上記でスルガ銀行の決算のポイントを列挙しました。この決算を評価するとどのようになるでしょうか。

筆者としては以下の通りと考えています。

  • 銀行はストック商売であるため、貸出残高も簡単には減少しない
  • そのため、過去に行った貸出によってスルガ銀行の収益は高い水準を確保している
  • この収益水準は将来的には低下していく(貸出が返済を受け減少していく)ため、新たな施策を検討する必要はある
  • シェアハウス向け貸出以外のローンにおける延滞率は低く、シェアハウス関連融資における処理はほぼ完了していることから、不良債権処理は一段落したとするスルガ銀行の主張は正しい可能性がある
  • しかし、投資用不動産ローンの貸出における全件調査は未済である
  • その観点から留意すべき数値が以下
  • 横浜銀行の自己査定における貸出全体に占める要注意先(要管理先+要管理先以外の要注意先)の割合は7.8%
  • 一方で、スルガ銀行の場合は、貸出全体に占める要注意先の割合が39.7%と非常に高い
  • すなわち、現在は延滞率が低いとされている投資用不動産ローン(シェアハウス向け以外)についても、要注意先に分類されている貸出(≒不良債権予備軍)がスルガ銀行は圧倒的に多い
  • この要注意先の貸出について調査を行った場合に、追加の処理が必要となる可能性はある
以上が筆者の考えです。
不良債権の処理については外部から推測することは非常に難しいため、スルガ銀行の全件調査結果の発表を待つしかありませんが、不良債権処理が一段落したと判断するのは早すぎるかもしれません。加えて、各行とも不動産ローンについては厳しくなってきています。そのため、不動産市況自体が崩れる可能性もあり、この場合には不動産担保評価の下落(=すわなち更なる貸倒引当金の追加)という問題も出てくるかもしれません。
また、預金の流出スピードには留意が必要です。すでに預貸率が90%まで来ていますので、更に預金が減少した場合には、貸出が簡単には回収できない以上(同行の貸出は投資用不動産ローンや住宅ローンが主なため)、他行から資金を借りてくる必要が出てくる可能性があります(スルガ銀行に資金を貸したくない銀行は多いでしょう)。日銀も含めたバックアップは図られているようですが、留意が必要でしょう。