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RIZAPの成長は岐路に立っている可能性も~2019年3月期1Q決算~

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(写真と本文は関係ありません)

RIZAPグループの2019年3月期第1四半期決算が発表されました。

業績としては大幅増収ながら、利益は赤字に転落しています。

筆者は近年はPIZAPグループの決算に注目しています。

RIZAPグループは印象に残る広告戦略を使い知名度を高めてきたことで有名ですが、一方で「新しいM&Aによる利益計上手法」を編み出し、利益を計上し、資金を集めてきました。

しかし、この利益計上方法はそろそろ岐路に差し掛かってきているようです。

今回は、RIZAPグループの決算内容を確認していくことにしましょう。

 

決算概要

まずはRIZAPの決算概要をみていきましょう。

<第1Q決算概要>(単位:億円)

  • 売上収益 521(前年同期比+235、182.1%)
  • 営業損益 ▲37(同▲64、-%)
  • 税引前利益 ▲40(▲65、-%)
  • 四半期利益 ▲33(▲58、-%)

売上収益は9期連続過去最高を達成し、前期比 182%と大幅増収になっています。

また、営業利益以下は赤字となっていますが、RIZAP関連事業およびグループ各社の成長投資等を実施した結果、 営業利益は一時的に減少したものの計画通りであると会社は説明しています。

その証左として 、直近5期平均の営業利益の構成比では、上期に18.2%、下期に81.8%の営業利益を計上しており、RIZAPグループは上期の先行投資を下期で回収するビジネスモデルであるとしています。

では、この会社説明に対してさらに確認していきましょう。

 

RIZAPグループの業績要因

RIZAPグループの第1Qの営業赤字転落要因は先行投資とされています。

RIZAPグループが発表している資料では以下がその先行投資となります。
  • マーケティング費用 の増加(広告宣伝費・販売促進費)+19億円
  • 新規出店・事業拡大に伴う費用(出店費・開業費・採用費・人件費等の増加)+10億円
  • その他 先行投資、構造改革費用等 +11億円
これらの主な先行投資等 合計40億円が赤字要因だとすると、前述の通り第1Qの減益幅▲64億円のうち▲40億円は説明ができますが、残り▲24億円はどのように理解すれば良いでしょうか。
この残り▲24億円を理解するキーワードは割安購入権です。
前年同期の決算説明資料では割安購入権が+20億円計上されています。
すなわち、RIZAPグループの第1Q決算における営業損益を整理すると以下のようになります。
  • 前第1Qの営業損益 +27億円
  • 先行投資等▲40億円
  • 前期に計上されていた割安購入権の剥落▲20億円
  • その他業績悪化要因▲4億円
  • 上記の結果、当第1Qの営業損益▲37億円
前第1Qから赤字転落した要因は確かに先行投資と呼んでいる費用なのでしょう。
そのうち、特に広告宣伝費の19億円は「積み増した費用」と言えるかもしれません。
しかし、RIZAPグループは当第1Qで大幅増収となっています。
これは見方を変えれば、売上を獲得(計上)するために費用が発生しており、増収が利益に結び付いていないとも解釈できます。
当第1Q決算の赤字転落要因が、先行費用だったのか、売上拡大が利益に結び付いていないのかは、今後のRIZAPグループ決算にて明らかになってくるでしょう。

なお、RIZAPグループの連結広告宣伝費(販促費含む)は前第1Qが33億円、当第1Qが52億円となっています。当第1Qの売上高が521億円ですから、売上高の10%を広告宣伝費として使用していることになります。

 

キャッシュフロー

RIZAPグループの第1Qにおける営業キャッシュフローは▲4,714百万円の資金流出です。

主な要因としては以下(単位百万円)となります。 

  • 税引前四半期損失 ▲4,005
  • 棚卸資産の増 ▲2,773
  • 営業債権及びその他の債権の減 1,493
  • 営業債務及びその他の債務の減 1,047
  • 法人所得税の支払額 ▲2,000

そして、他のキャッシュフロー項目、現預金の増減額は以下の通りとなります。

  • 投資キャッシュフロー ▲3,075
  • 財務キャッシュフロー +24,023
  • 現金及び現金同等物の増減額 16,248
  • 現金及び現金同等物の期首残高 43,630
  • 現金及び現金同等物の四半期末残高 59,879

RIZAPグループは急激な成長途上にあり、営業CF、投資CFが赤字となっても違和感がありません。

それを当第1Qでは増資(約300億円)により手当しています。 

なお、筆者が少しだけ気になっているのは2018年3月末と2018年6月末を比較すると、RIZAPグループの棚卸資産が約50億円増加していることです。

うち20億円程度はシカタ・湘南ベルマーレが保有している棚卸資産の可能性がありますので問題ありません。

もちろん急成長しているRIZAPグループですから棚卸資産の増加自体には問題はありません。最も在庫を持ちそうなライフスタイル事業(アパレル含む)は売上がほとんど伸びていませんので棚卸資産が増加するのは違和感があります。プラットフォーム事業も最も在庫を持ちそうなワンダーコーポレーションの第1Q(2018年2~5月)はほとんど在庫は増えていません。そうすると、主力事業である美容・ヘルスケア事業で棚卸資産が増加している可能性があります。この要因がどのようなものかについては若干ですが筆者としては気になるところです。

 

所見

筆者はRIZAPを批判している訳でも攻撃したい訳でもありません。

RIZAPはこれからも業績拡大を続けていくかもしれません。

しかし、筆者は「危うい」とは感じています。

その理由は、RIZAPの決算ではキャッシュが生み出されていないためです。

RIZAPは、IFRS(国際会計基準)に移行してからは、「業績は優れないが財務体質は良い会社」を次々買収しては、割安購入益(負ののれん)を計上し利益を拡大してきました。この利益増加を背景に投資家から増資という形で資金を調達してきたのです。

しかし、割安購入権は会計上の利益でしかなく、キャッシュを生み出す利益ではないのです。

そして、業績の優れない会社だからこそ「割安に」買収できる訳ですから、業績改善はそう簡単ではありません。

新たに招聘した新COOである松本氏はRIZAPグループの決算説明会で「主力事業に口を出す余地はない。問題は足を引っ張るグループ会社で出血を止めることが当面の仕事だ。」と発言したと報道されています。

恐らくその通りでしょう。

これからRIZAPグループは規模の拡大のみならず、本質的な利益改善、キャッシュフローの創出を追求していくことになるのでしょう。 

その中でRIZAPグループがさらに成長していけるのか、筆者としては注目したいと思います。