銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本銀行が保有する国債の含み損を現時点で気にすることはない

日本銀行(日銀)が保有する国債の含み損が2023年9月末時点で10兆5,000億円に拡大し、比較可能な2004年度以降で最大となったと報じられています。この理由は、日銀による金利操作の見直しで長期金利が上昇したことが主な要因と言えます。

円安で輸入物価が上昇する等、日本銀行の金融政策は日本円の価値の安定性に不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は、日銀の含み損について少し確認したいと思います。

 

中間決算における貸借対照表

まずは日銀の2023年度中間決算において、資産と負債の状況(貸借対照表)を確認しましょう。

2023年度上半期末における日銀の資産・負債状況をみると、総資産残高は、国債を中心に前年同期末と比べ55兆7,008億円増加(+8.1%)し、741兆4,910億円となりました。また、総負債残高は、預金(当座預金)を中心に前年同期末と比べ55兆2,606億円増加(+8.1%)し、736兆143億円となっています。

日銀の貸借対照表を見る機会は少ないでしょうから以下掲載しましょう。

(出所 日銀「第139回事業年度上半期財務諸表等」)

まず、資産の部では、長期国債が584兆6,107億円と前年同期末を48兆1,205億円上回っています。また、金融機関への貸出金は、共通担保資金供給オペ等の増加から、95兆5,308億円と前年同期末を15兆3,892億円上回りました。日銀の資産はこの二つでほとんど説明できます。

次に、負債の部をみると、当座預金(銀行からの預け金のようなもの)が、国債の買入れ等を通じた資金供給により、547兆1,928億円と前年同期末を54兆1,730億円上回りました。日本銀行券の発行残高は、120兆6,494億円と前年同期末を4,978億円上回っています。

日銀の資産と負債は、誤解を恐れずに言えば、当座預金で550兆円ぐらいを金融機関から集め、また日本銀行券(紙幣)で120兆円のお金を調達し、そのお金で国に約585兆円、金融機関へ95兆円へ貸し付けているようなものです(他の科目を無視していますが、大きく見るとこのような感じです)。

とにかく異常なまでに巨額の資産を保有していることが分かるでしょう。

 

中間決算における損益

次に日銀の損益についても確認しましょう。

(出所 日銀「第139回事業年度上半期財務諸表等」)

まず、経常収益(一般企業の売上高に近い概念)は、3兆4,389億円です。日銀は長期国債と金融機関向けの貸出金が資産の太宗を占めていますが、経常収益で見ると少し違う光景となります。

すなわち、経常収益のうち、国債利息は8,072億円、貸出金利息はわずか28億円です。それ以外の経常収益項目では、外国為替収益が1兆2,772億円、ETF(信託財産指数連動型上場投資信託)運用益1兆1,372億円となっています。日銀は、国債を大量に保有していますが、低金利であるため(自らがそのように金融政策で実施しているからですが)収益には貢献しません。その代わりに外国為替の差益や購入したETFからの配当等で収益を獲得しているのが日銀の現在です。

経常利益は、前年同期比1,765億円増益の3兆1,824億円です。

特別損益は、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の実施に伴って生じ得る収益の振幅を平準化する観点から、債券取引損失引当金の積立てを行ったほか、外国為替関係損益が益超となったことを受け、外国為替等取引損失引当金の積立てを行ったこと等から▲8,566億円となりました。

以上の結果、税引前当期剰余金は、前年同期比2,825億円増加の2兆3,257億円となり、法人税、住民税及び事業税を差し引いた後の当期剰余金は、前年同期比3,357億円増加の1兆9,282億円でした。

このように損益計算書では、日銀の決算は黒字になっています。

 

保有有価証券の状況

次に、日銀の保有する有価証券の状況を確認しましょう。

(出所 日銀「第139回事業年度(令和5年度)上半期財務諸表等について」)

国債は、2023年9月末時点で、簿価586兆8,781億円に対して時価576兆3,780億円となっており、▲10兆5,000億円と巨額の含み損が発生しています。ここをマスコミは取り上げている訳です。

日銀の純資産は5兆4,767億円(前掲)ですので、国債の含み損を勘案すると日銀は厳しい状況に置かれているとされています。

ただ、これを完全に鵜呑みにするのは危険です。以下をご覧ください。

(出所 日銀「第139回事業年度(令和5年度)上半期財務諸表等について」)

日銀はETF(信託財産指数連動型上場投資信託)を簿価で37兆1,160億円保有していますが、その時価は60兆6,955億円です。含み益は23兆5,794億円です。

すなわち、国債の10分の1以下の規模で購入したETFの含み益は、国債の含み損を上回っているのです。

従って、日銀は国債で巨額の含み損を抱えていても、ETFで巨額の含み益を抱えていて、実質的にも債務超過に陥ってはいません。日本銀行が保有する国債の含み損を現時点で気にすることはないのです。

日銀が保有する国債の含み損は、金融政策の変更(利上げ)によって更に悪化していく可能性があります。ただ、同時にETFの含み益のように日銀の資産全体を見据えながら、日銀の財務状況については理解することが必要でもあります。