銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ETFでの含み損を免れた日本銀行の決算

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日本銀行(日銀)が発表した令和元年度の決算は、2020年3月末の国債などの総資産残高が前年度比8.5%増の604兆円と、8年連続で過去最高となりました。もちろん、総資産が600兆円を上回るのは初めてです。総資産で日本のGDPを軽く超えている状態にあります。

日銀は、2020年3月の新型コロナウィルス感染症拡大に伴う株価急落時に、積極的にETFを通じて株式を購入しました。一時期は日銀が実質的に債務超過に陥るのではないかと懸念されていました。

日銀の決算はどのようなものだったのでしょうか。

なかなか見る機会の少ない日銀の決算について確認しましょう。

 

日銀の決算を確認する意味

金融市場は、日銀が行うオペ(例:債券を買ったり売ったりしながら金利を調整すること)等に影響されて動きます。

日銀が「命令」したからといって、金融市場がその通りに動くことはありません。

日銀は自らのバランスシートを使って様々な政策を行います。国債を売買したり、株式を売買したりして、自らが目指す金融施策の効果を発現させるのです。

今の現状は、まさに日銀が自らのバランスシートを使って大量の国債と株式等を購入しています。それによって、日銀が目指す金融政策を実現しているのです。

そのため、現時点では、日銀の決算で最も重要なのはバランスシート(B/S、貸借対照表)の状況と筆者は認識しています。

それでは、日銀の第135回事業年度(令和元年度)決算、すなわち2020年3月期決算を確認していきましょう。

 

日銀の2020年3月期決算

以下が日銀の第135回事業年度(令和元年度)決算における日銀の貸借対照表です。

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(出所 日銀Webサイト)

日銀のバランスシートで分かることは、異常なまでの国債の残高です。そして、かなり資産が膨張しています。

当該期の決算では、総資産残高は、外国為替や国債を中心に前年度末と比べ47兆4,602億円増加(+8.5%)し、604兆4,846億円となりました。

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(出所 日銀Webサイト)

日銀は、国債や株式を大量に購入したイメージを報道で持たれている方もいるとは思いますが、実際に増加率が大きいのは外国為替です。

外国為替が、米ドル資金供給オペの実施により、25兆9,662億円と前年度末を19兆2,340億円上回っています。前年度末比だと3.9倍程度となり、まさに急増です。新型コロナウィルス感染症拡大に伴い金融市場が混乱し、基軸通貨であるドルを確保しようとする動きが急激に強まったことに対応し、日銀が邦銀へのドルの貸し付けを拡充したため資産が急増したものと思われます。

また、国債は、買入れを進めるなか、485兆9,181億円と前年度末を15兆9,642億円上回りました(前年度末比+3.4%)。もはやこの規模になると実感が持てないでしょう。日本のGDPは550兆円程度ですから、かなり近い数字となります。

貸出金は、「貸出支援基金」による貸付けの増加及び新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペの実施等から、54兆3,286億円と前年度末を6兆8,924億円上回りました(前年度末比+14.5%)。これは日銀から銀行等への支援、施策の意味合いです。

やはりポイントは、金銭の信託です。

金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託≒株式のETF)は、買入れを進めるなか、29兆7,189億円と前年度末を4兆9,340億円上回りました(前年度末比+19.9%)。

金銭の信託(信託財産不動産投資信託≒REITのETF)は、同様に買入れを進め、5,753億円と前年度末を574億円上回りました(前年度末比+11.1%)。

これが日銀の令和二年(2020年)3月末時点におけるバランスシートです。 

 

日銀の含み損益

では、マスコミ等から最も気にされていたETFを購入したことによる日銀の含み損益はどのようになったのでしょうか。

まず保有する国債の含み損益は、3月末時点で13兆4,439億円のプラスとなっています。

次に、保有する上場投資信託(ETF)の含み損益は3,081億円のプラスでした。

前年同月末の3.9兆円のプラスからは92%減少し、8年ぶりの低水準になりました。

日銀の黒田総裁は3月半ばの国会答弁で、日銀保有のETFの評価損が「2兆~3兆円規模に達している」との試算を示したと報道されています。その後に相場が持ち直し、3月末の日経平均株価は損益分岐点とされている1万8500円程度を上回ったため、含み損となることは避けれました。

但し、ETF購入の拡大や長期化に伴い、株安に弱い財務体質になっているとは言えます。

また同様に保有する不動産投資信託(REIT)の含み損は、467億円のプラスと6割近く減少しました。そして、個別の保有銘柄の急落を受け、2010年にREIT購入を始めて以来、初となる減損処理を実施したことが公表されています。

 

所見

新型コロナウィルス感染症拡大に伴う金融市場の混乱に対して、日銀が取ったETF購入の拡大という施策について筆者は間違ったものではないだろうと考えています(今は中央銀行の施策は何でもありの世の中です)。

しかし、「平常時」からETFを通じて株式を購入し続けていたため、いざという時に保有額の大きさがクローズアップされてしまっているのも事実でしょう。

そして、危機を乗り切ったとしても、国債を含めてETFという株式・REITの出口(売却)をどのようにしていくのかという重すぎる課題が残ります。

経済成長をするしか問題の解決はないように筆者は思いますが、今後も日銀の動きは注視していきたいと思います。