銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

三菱UFJ銀行の振込手数料引き上げの背景と今後

邦銀最大手の三菱UFJ銀行が2023年10月より振込手数料を引上げると話題になっています。この手数料引き上げは、窓口だけではなく、三菱UFJ銀行のATM やコンビニATMでの振り込み手数料も引上げるというものです。ネットバンクを除く全ての振込手数料が引き上げられると説明した方が分かりやすいかもしれません。

今回は、この三菱UFJ銀行の振込手数料引き上げについて、少し考察してみたいと思います。

 

現在

まず、三菱UFJ銀行の振込手数料が現状どのようになっているのかを確認してみましょう。

【窓口】

  • 三菱UFJ銀行の口座宛は、3万円未満の振り込み330円、3万円以上550円
  • 他行の口座宛は、3万円未満594円、3万円以上770円

【三菱UFJ銀行 ATM(同行のキャッシュカード利用の場合)】

  • 三菱UFJ銀行の同一支店口座宛は0円
  • 三菱UFJ銀行の他店宛は110円
  • 他行宛は3万円未満の振り込みの場合209円、3万円以上は330円

【インターネットバンキング】

  • 三菱UFJ銀行の口座宛は0円
  • 他銀行宛は3万円未満154円、3万円以上220円

 

この手数料体系が2023年10月からは以下のように変わります。

【窓口】

  • 三菱UFJ銀行の口座宛は880円
  • 他行宛 990円

【三菱UFJ 銀行 ATM (同行のキャッシュカード利用の場合)】

  • 三菱UFJ銀行の同一支店口座宛は110円
  • 三菱UFJ銀行の他店宛は110円
  • 他行宛は 275円

【インターネットバンキング】

  • 手数料変わらず

これまであったような3万円未満と3万円以上という区分は無くなり同一の手数料水準に統一されることになりました。

個人のお客様にとって恐ろしいのは、窓口では他行宛の振り込みが990円になるということではないでしょうか。

1万円を振り込む場合、手数料は990円取られるわけですから、約1割の手数料です。一方で、普通預金金利は年0.001%ですので、1万円を預けると年間の利息は計算上は0.1円でしかありません。実際には、1円未満の金利端数は切り捨てが銀行の一般的な取り扱いであり、実際に貰える利息は0円です。

銀行の窓口で振り込むことは、あまりにも割高であり窓口で送金する意味は低下していくでしょう。

 

今後の銀行

このような振込手数料引上げは、三菱UFJ銀行だけではありません。例えば足利銀行と栃木銀行も手数料の引き上げを発表しています。

長引く日銀の低金利政策でメガバンクのみならず地銀も収益力が低下しています。銀行のビジネスモデルは、預金を集めて貸出をすることで利鞘を稼ぐというものでしたが、貸出の金利が低くなり過ぎて預金を集めることが儲からなくなっています。

以前は、預金を集めるために銀行の窓口やATMがありました。利便性の高いところに支店を出したりATMを置くことで、その銀行に預金が集まって来たのです。振込という銀行の機能も、銀行の預金という商品を「便利」 にするための機能です。銀行がなければ現金を書留で郵送したり、直接持って行かなければなりませんでしたが、そのような手間を銀行は振込という機能で改善しています。銀行がそのような機能を提供しているから銀行には預金が集まってきていたのです。

今回の銀行の振込手数料の引上げの意味は、まさに「銀行が窓口やATMをあまり使って欲しくない。現金を極力取り扱いたくない」という意思表示と考えれば良いでしょう。

人手をかけて現金を集めたくない、人手をかけて現金を扱いたくない、そのような意味です。ATMはシステムじゃないかと思われる方はいますが、ATMは現金が入っており、この現金の補充・回収には警備会社等の費用が掛かっていますので、窓口と本質はあまり変わりません。

銀行が目指すものは、キャッシュレス化です。インターネットバンキングの手数料が他の振込手段よりも圧倒的に優遇されているのは、この文脈です。データだけで預金を動かすことで、現金の扱いを減らすことが銀行にとってのコスト削減になるのです。

日本における銀行が管理するATMの設置台数は10年前から約2割減少しています(ゆうちょ銀行やコンビニATMは除く)。

これは、銀行がコストを減らしたいという考えもある一方で、キャッシュレスでの支払い手段が充実したことで、個人もATMを使わなくなったという背景があります。銀行の窓口に何年も行っていない人は多いでしょう。本当に必要なことが無い限り、あんなに待たされる銀行窓口になんて誰も行きたいとは思わないでしょう。

但し、現金を扱わないことは、銀行の機能を弱めることに繋がる側面もあります。三菱UFJ銀行のような大手はともかく、地方銀行などは顧客離れを引き起こす可能性が捨てきれません。地方銀行を使う個人は、給与振り込み口座になっているから、支店やATM網が自分の生活圏において充実しているから、その銀行を使っていることが多いでしょう。銀行で新たに口座を作るのが面倒だから、以前に会社で作った口座をそのまま使っていることも多いはずです。

地方銀行の強さは、その地域における現金を使えるポイントの多さでした。今後、振込手数料などを引上げ、キャッシュレス化が進んでいけば、暫くはコスト削減になって銀行経営には良い影響を及ぼすでしょう。しかし、地方銀行がインターネットバンキング(アプリ等)で大手銀行やネット専業銀行よりも良い商品・サービス・使用体験を提供できるでしょうか。キャッシュレス化が進むほど、ユーザーインターフェースが優れた一部の銀行に預金が集まっていく流れになることは容易に想像できます。その時になって初めて、現金を扱っていたことの強みを地方銀行は実感するのではないでしょうか。