銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ストライキというものについて改めて確認してみる

ついに池袋西武(西武池袋本店)でストライキ(スト)が決行されました。8月31日は日本有数の売上高を誇る池袋西武が終日臨時休業に追い込まれた日になりました。

セブン&アイHD傘下の大手百貨店「そごう・西武」の労働組合は、従業員の雇用維持を求めてストを実施したとされています。百貨店でストが実施されるのは1962年の阪神百貨店以来61年ぶりとされています。まさに歴史的な日となりました。

日本ではストが行われることは極めてまれです。今回は、このストライキ(スト)について、少しだけ確認していこうと思います。

 

ストライキとは

ストライキ(スト)とは、労働者が労働条件改善などを要求し、団結して業務を停止する行為です。同盟罷業(どうめいひぎょう)とも言われます。非常に分かりやすく言えば、従業員が皆で仕事を放棄することです。

法に基づき、組合員投票で過半数の賛成が得られれば「スト権」が確立され、ストが実施できるようになります。スト期間中は会社の経営側はストに参加した従業員に賃金を支払う義務はなく、この間の組合員の賃金は労働組合が負担することになっています。

 

根拠法

ストの根拠法は、日本国憲法です。憲法第28条に「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する」とあり、この条文が労働者が団結して組合を結成する団結権利と、スト等を行う団体行動権を保障しています。

この団体行動権は、「団結権・団体交渉権・団体行動権」という労働三権の一つであり、労働基本権と言われています。労働三権は、日本国憲法で保障され、労働組合法で具体化されています。

労働組合法第5条2項は以下は以下の条文となっています。

2 労働組合の規約には、左の各号に掲げる規定を含まなければならない。

八 同盟罷業(筆者註=ストライキのこと)は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しないこと

労働組合法では、過半数による賛成があればストの開始が認められていることが分かります。

ただ、ストは労働者側にとっては交渉の手段であり、憲法によって保障された権利ですが、交渉が決裂し、強引にストが強行される場合等では、損害を被る会社側の経営者にとっては、違法ではないかと感じられることもあるでしょう。

ただ、適法に実施されたストについては、刑法上の違法性がなく、参加者には刑罰を科されません。

労働組合法第1条第2項の条文は「刑法第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。」となっています。そして、刑法第三十五条は「法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」とされています。

従って、きちんとしたストは刑罰を課されることはないことが分かります。労働者を守る権利としてストはきちんと法的な手当がなされているのです。但し、ストを行う際に暴力は認められません。労働組合法第1条第2項但し書きには「但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。」とされています。

また、会社側は、ストで損害を受けたとしても、労働組合又は組合員に対し損害賠償を請求することはできません。

労働組合法第八条は「使用者は、同盟罷業その他の争議行為であつて正当なものによつて損害を受けたことの故をもつて、労働組合又はその組合員に対し賠償を請求することができない。」と明記しています。

すなわち、ストは、憲法で保障され、刑事・民事共に不利益を被らないように法の手当がなされています。

 

労働争議の状況

次にストを含む労働争議の状況がどのようになっているのかを確認しましょう。

<労働争議の種類別件数の推移>

(出所 厚労省「令和4年労働争議統計調査の概況」)

2022年(令和4年)の労働争議の状況をみると、「総争議」の件数は270件、総参加人員は53,519人となっており、前年に比べ、件数は27件(9.1%)減、総参加人員は6,870人(11.4%)減となっています。「総争議」の件数は、過去2番目に低く、減少傾向にああります。このうち、「争議行為を伴う争議」の件数は65件、行為参加人員は6,447人となっています。

「争議行為を伴う争議」を産業別にみると、件数は「医療,福祉」22件が最も多く、次いで「情報通信業」13件、「製造業」11件となっています。

今回ストを決行したそごう・西武が属する卸売業・小売業では3件、行為参加人数17名となっており、争議行為が発生するという点で、そごう・西武が属する業界は珍しいことが分かります。やはり小売は競合先が多く、店舗を休みにしても代わりとなる(他社が経営する)お店は存在します。小売業界でストを実施することに否定的なマスコミ等の論調がある理由はここにあると想定されます。

件数については少し長い目線で見てみましょう。

<総争議件数の推移>

(出所 厚労省「令和4年労働争議統計調査の概況」附表より筆者作成)

ストを含む労働争議の件数は減少傾向にあります。ピークだった1974年には1万462件あったものの、1986年以降は大幅に減少し、現在では年300件前後にとどまっています。

そして(グラフは見えづらいとは思いますが)1980年代までは同盟罷業(=スト)が総争議の大半を占めていましたが、現在はほとんどストは行われていないことが分かります。

この間に、日本では雇用が一応守られ(非正規が急増しましたが)、法律も手当され、労使がぶつかることは減ってきたことが分かります。労使協調路線の名の下、ストは「時代遅れ」になったのです。

 

まとめ

今回、池袋西武でストが起きたことは、筆者には驚きでした。小売でストを決行することはリスクが高いことは間違いありません。そして、経営とも徹底的に決別することになります。私見でしかありませんが、そごう・西武の労働組合は完全に戦略を間違ったものと思います。

ただ、筆者はスト反対派ではありません。物価の上昇に賃金の上昇が追い付かない時期が続くのであれば、ストは労働者の正当な権利であり、交渉方法として実施されるべきだと考えています。日本では労働組合運動というものは怪しげで迷惑な印象があるかもしれません。しかし、我々の生活が苦しくなるならば、政府に頼るばかりではなく、自らで勝ち取りにいかなければなりません。

日本はお上頼みの風潮が強すぎます。これでは社会は徐々にしか変わりませんし、閉塞感が漂うことになります。

池袋西武のストは、「ストをやっても良い」という雰囲気を少しは醸成したように思います。企業別組合としての戦略という観点では失敗だったように思いますが、社会全体という観点では良い刺激を与えたのではないでしょうか。