銀行員のための教科書

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銀行のATM手数料が高すぎる

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銀行のATM手数料が高いと思ったことはありませんか?

銀行によってはコンビニATMで現金を下ろすと330円取られることもあります。銀行に預けていても、ほとんど預金金利はつきません。もはや現金を平日に下ろしておかなかった人への「何かの罰ゲームか」と思うほどです。

筆者は銀行に手数料を取られたくないので、この5年でクレジットカードを使う機会が圧倒的に増えました。

では、なぜ銀行のATM手数料は高いのでしょうか。今回は、銀行のATM手数料の背景について簡単に見ていくことにしましょう。

 

三菱UFJ銀行のATM手数料

まずは、銀行のATM手数料について確認しておきましょう。

メガバンク最大手の三菱UFJ銀行のATM手数料はどの程度の水準なのでしょうか。

  • 三菱UFJ銀行のATMの場合は、全日8:45~21:00は無料、それ以外は110円

このように三菱UFJ銀行が設置しているATMの手数料は分かりやすいと言えます。

では、利便性が高いコンビニのATMを利用した場合の手数料はどの程度なのでしょうか。

三菱UFJ銀行は2021年1月8日にローソン銀行ATMの手数料の引き上げを発表しています(適用は2021年4月1日から)。

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ちょっとわかりにくいですが、ローソンとセブン‐イレブンのATMを使う場合は、8:45~18:00は220円、それ以外の時間は330円がかかります。現金を引き出すだけなのにです。

ローソンの場合は、毎月25日と月末日だけ手数料が安いですが、これは給料を引き出す人向けの対策というところでしょう。

三菱UFJ銀行の普通預金の金利は年0.001%です。

平日の8:45~18:00に預金を引き出す220円という手数料を銀行の預金金利で稼ごうとすると、どの程度の預金額が必要なのでしょうか。

答えは、22百万円(22,000,000円)です。22百万円を1年間預けると220円の利息になります(税金については考慮せず)。

そして、時間外の手数料である330円というのは、33百万円(33,000,000円)を1年間普通預金で預けた時の金利です(こちらも税金考慮せず)。

現行の預金金利水準から考えると、特にコンビニATMを利用した場合の手数料は高すぎると預金者が考えるのは当然でしょう。

 

なぜATM手数料は高いのか

では、なぜATMの手数料は高いのでしょうか。

答えは、ATMを運営していくコストが高いからです。

ATMは機能によってかなり価格差がありますが、今は一台300万円ほどまで下がっているでしょう。さらに、設置していると一台当たり30万円/月の費用が発生するとされています。これは警備費・現金運搬費等です。

(参考:https://gihyo.jp/assets/files/book/2020/978-4-297-11319-3/9784297113193-01.pdf

企業が資金不足で、金利が相応にあった時代には、銀行はATMも整備して、預金を集めることが収益につながりました。預金を集めれば貸出先があるので儲かったのです。従って、ATMの運営経費が多額だろうと、全体で見れば全く問題ありませんでした。

しかし、今は低金利時代です。預金を集めても全く儲かりません。そのため、ATMの手数料だけでATMの運営費を賄いたいと銀行は考えています。

では、ATMの運営費を稼ぐためには、ATMはどの程度の稼働が必要なのでしょうか。

ATM一台当たりの毎月の経費が30万円だと仮定します。

そして、ATM手数料は時間外で110円を徴収するとしましょう。

そうすると経費30万円÷手数料110円=2,727回/月の時間外手数料を預金者から貰えれば、ATM一台は設置していても経費だけは賄うことができることになります(ATM購入費は別ということです)。

では、1ヵ月当たり2,727回という時間外の利用は現実的なのでしょうか。

ATMの使用件数については、セブン銀行が開示しています。

2020年3月期において、一台当たり一日92.1回、すなわち月2,763回(30日換算)利用されていると発表されています。取引一件当たりの受入手数料は130.9円です。尚、この利用件数には、残高照会、電子マネーチャージ、暗証番号変更、利用限度額変更を含んでいません。それでも、立地の良いセブン銀行で月2,763回が平均利用件数なのです。

上記の通り、時間外手数料で稼ぐしかない銀行のATMは、昼間を除いた時間帯に1台当たり2,727回の110円の手数料を月間に稼がないと運営経費で赤字になります。セブン銀行の取引件数を比較してみれば分かる通り、これは現実的とは言えないのではないでしょうか。

そして、ATMの利用に一人当たり3分かかると仮定しましょう。2,727回を1日に換算すると90.9回(30日換算)です。一取引3分×90.9回=272.7分=4.5時間です。三菱UFJ銀行の場合だと、8:45~21:00以外の時間で1日4.5時間、ほとんどフル稼働で手数料を稼がなければATMは赤字ということになります。

ATMは預金者が並んでいるところは多々ありますが、それでも時間外にかなりの高稼働をしているとは思えません。

そして、そもそもATMの購入費は上記の計算でも考慮していません。ATMはセブン銀行の場合だと5年で償却しています。一台当たり300万円だとすると300万円÷5年=60万円の費用を更に追加で回収しなければ、ATMを導入しても結局赤字ということになります。

尚、今までの試算は、あくまで時間外の預金引き出し手数料だけでATMの経費を賄うことができるかという試算です。実際には、振込手続を行う預金者もいますので、引出手数料が無料の時間帯であったとしても振込手数料でATMが稼ぐことは可能です。しかし、ATMを使っての振込件数は恐らくどの銀行も低下してきているでしょう。ネットやアプリからの方が手間もかからず、手数料も安いからです。

 

まとめ

以上の試算は、かなり単純化したものでした(振込手数料が考慮されていない等)。

それでも、ATMが赤字となっている理由は掴めたのではないでしょうか。銀行がATM手数料の値上げをする背景はこのようなものです。

しかし、銀行側の理屈は理解できても、預金者個人としては、銀行にここまで手数料を取られるのは勘弁して欲しいと思う方が大半でしょう。

但し、日本の低金利環境は簡単には変わりません。日本は「低金利の罠」とでも言える状態にあり、金利を上昇させることは現実的に難しくなってきています。金利が上昇すると日本政府は予算繰りが成り立たなくなるかもしれません。日銀も通貨・金融市場の安定のために政府の財政に目配りせざるを得ないでしょう。

結局のところ、預金者が望む形で預金金利が上昇することは考えにくいのです。

そのため、ATM手数料を取られるのが嫌ならば、銀行取引で無駄が無いように注意するしかありません。「給与振込口座に指定すると月に2~3回はATM手数料がタダになる」というようなサービスは多くの銀行にあります。そのようなサービスを駆使して、無駄な出費を抑えることが預金者にとっては必要なのでしょう。

尚、筆者は個人的にはネット銀行のサービスが最もマシではないかと考えています。自前のATMが多くあったり、立派な店舗がある方が信用が置けるようには思えますが、ネット銀行も財務体質が悪い訳ではありません。冷静にサービスを見比べてみると新たな発見があるのではないでしょうか。