銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金融専門家の予想を信用してはいけない理由

2023年が始まって1か月が経ちました。

年初の見通しから比べると米国ではインフレが落ち着いてきたとされていますし、日本も金利は一段の上昇とはなっていません。

2023年は、ロシアのウクライナ侵略がどうなるのか、エネルギー価格はどうなるのか、インフレは抑制されるのか、日本において金利は上昇するのか、米国は利下げに転じるのか等々、様々な要素があり、金融市場の投資家は難しいかじ取りを迫られているでしょう。

難しい状況の時には専門家に頼りたくなるものです。金融市場にも当然ながら金融の専門家が存在します。

しかし、金融の専門家は本当に信頼に足る人たちなのでしょうか。

専門家の予想通りに投資していれば間違いないのでしょうか。儲かるのでしょうか。

今回は金融の専門家の予想が信用できるのか、少しだけ事例を確認してみたいと思います。

 

ドル円

では、まずは円高・円安と報道される代表的な為替相場である「ドル円」について、専門家の予想を見ていきましょう。以下は、ネット検索で簡単に確認出来たものであり、予想企業(もしくは予想者)およびその予想時点となります。ドル円は年末時点の予想数値です。

  • 三菱UFJ銀行 内田チーフアナリスト個人見解 年末にかけて115円割れ(

    https://jp.reuters.com/article/column-minoru-uchida-idJPKBN2IM0FJ)(2021年12月時点)

  • ニッセイ基礎研究所 116~117円台(2022年1月時点)
  • 日本総研 117円(レンジ113~121円)(2022年1月時点)
  • 東京海上アセットマネジメント 124円(レンジ118~128円)(2022年3月時点)

2021年末から2022年初にかけてのドル円予想は110円台が多かったことがお分かりになると思います。3月にかけてロシアのウクライナ侵攻があり予想レンジが変わりました。

結果としては、ドル円は2022年12月末で131.11円となりました。秋にはドル円は150円を突破(円安)し大きな話題となったことも記憶に新しいのではないでしょうか。

ドル円については、年始の専門家予想が大きく外れた年だったと言えるでしょう。

 

日経平均株価

次に日経平均株価の予想についても見ておきましょう。以下はドル円と同じように簡単に検索出来た2022年の株価予想です。

  • 三井住友DSアセットマネジメント 2022年末時点の水準について、日経平均株価は32,000円を予想(2021年12月時点)
  • 広木 隆マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 日経平均予想レンジは2万9000円~3万9000円(2021年12月時点)
  • 鈴木 英之SBI証券 投資情報部長 新型コロナウイルスが収束し、インフレ高進が極端に進まなければ2022年末頃に日経平均株価は高値で33,000円も可能(2022年1月時点)
  • ダイヤモンド・ザイでは、アナリストなどプロ100人が、2022年1~12月の日経平均株価の値動きを予測。プロの予測から平均値を割り出すと、2022年の日経平均株価の安値は2万7501円、高値は3万2840円、緩やかな回復を描き12月に高値更新(2021年12月時点)

2022年12月末の日経平均株価は26,094.50でした。金融の専門家の予想は大きく外れていたことが分かるでしょう。

 

S&P500予想

今まで日本における専門家の予想が外れてきた事例を見てきました。

もしかすると日本の金融専門家は、頻繁に異動があり、しかも年功序列で処遇されてきた単なるサラリーマンであり、本当は専門家と呼べるほどではないのかもしれません。しかし、米国なら、本物の金融専門家がいるのではないでしょうか。ウォールストリートは世界の金融市場の中心です。

そこで、2022年初における2022年末の株価予想を確認してみましょう。年初の予測が年末に実際に当たっていたならば、米国の金融専門家は信用に足るかもしれません。

確認するのは、S&P500です。

S&P500(S&P500種指数)は、米国の代表的な株価指数の1つです。S&P500は米国株式市場全体に対し約8割の時価総額比率を占めており、米国市場全体の動きを概ね反映していると言えます。米国株式市場の代表的な指標と考えれば良いでしょう。

このS&P500の年初における有名金融機関各社の年末予想は以下の通りでした。

  • JPモルガン 5,100
  • ゴールドマン・サックス 5,050
  • シティグループ 4,900
  • バンク・オブ・アメリカ 4,600

これに対して、実際のS&P500は「3,839」でした。各社とも大外れです。

確かにロシアがウクライナに侵攻するというのは確率が低いと見積もられていました。ここまでのインフレも想定できなかったでしょう。

予想とは「そんなもの」なのです。

 

まとめ

以上、簡単に代表的な指標で金融におけるプロの予想がどのようなものなのかを見てきました。単純に言えば、予想は外れます。しかも、多数の専門家の予想を集計したレンジが外れることも普通にあり得るのです。

筆者は金融の専門家が能力が低いとか、適当な予想しか行っていないとお伝えしたい訳ではありません。

むしろお伝えしたいのは、金融の専門家と呼ばれているような人たちでも予想は当たらないということです。金融の専門家の予想通りに株式やFXで投資していたら損をすることは多々あるでしょう。はっきり言って金融専門家の予想は信用してはいけません。

金融の専門家の予想は、あくまで「その時点」で、金融市場に携わっている人たちがどのように相場を見ているか、の参考となるに過ぎません。

投資家は、金融専門家の予想を盲目的に信じることなく、マーケットに起きる事象に対して「対応」していくことで乗り切っていかなければなりません。起きてることが(すなわち価格が)正しいのであって、「こうだったはず」「○○が言っているから正しい」と思っても現実に起きていないのであれば忘れた方が良いのです。

例えば、有名なアナリストが年末に日経平均は4万円になると予想しており、我々はその予想を信じて3万円の時に日経平均に投資したとしましょう。しかし、現時点では日経平均が2万円になっている場合、自らの資産対比で損失許容額を超えているのであれば、損切した方が良い局面はいくらでもあります。確かに、本当に日経平均は年末に4万円になるかもしれません。しかし、損切をしなければどこまでも損失が拡大してしまう可能性があり、そして大きく損失が発生してしまえば取り返すのは簡単ではないのです。

マーケットで継続して生き残る秘訣は、損を抑え、利益を伸ばすことと言われます。当たり前と言えば当たり前なのですが、これが難しいのです。金融専門家を盲目的に信用せず、マーケットで生き残っていきましょう。