女優の方がTwitterで「デート代、なんで男が払わなくちゃいけないのって言葉 女性はそのデートの為に準備して洋服、メイク、美容代も入ってると思う 全部安くない。リップだってブランドなら4000円はする」「可愛いって言って欲しくて、その為に凄く早起きして準備してる それを考えた上で、女性に出してあげて欲しいって思う!」とツイートしたところ、批判的なコメントが集中し、ツイートを削除したと話題になっています。
筆者はこの方のツイート内容に何の違和感もありません。筆者の妻は、妻の父からずっと同じようなことを教えられてきたと申しておりますし、筆者の周囲の男女とも同じような感覚だと思いますが、仕事や育児等に追われ、恋愛とかデートというような言葉を忘れて随分と経った世代の意見でしかありません。
筆者は、男性がデート代を払うのは当たり前と思っておりましたが、どうも世の中における感覚には変化があるようです。
今回は、男性がデート代を払うのが当たり前なのか、そんなことを言ったら批判を受けたり炎上するような世の中なのか、少し考察してみたいと思います。
意識調査
では、まずは世の中の感覚について確認しましょう。
少し偏りがありそうな気はしますが、参考となる政府の調査があります。内閣府男女共同参画局が公表している「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」という調査です。
この調査は、性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)について、気づきの機会を提供し、理解を促すことでその解消を図るという目的で実施されているものです。対象者は全国男女20代~60代、調査手法はインターネットモニターに対するインターネット調査、調査回収数は10,330人です。偏りが無いように、全国を北海道、東北、関東、北陸、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄の9地域とし、地域ごとに「政令指定都市」「中核市」「人口10万人以上の市区町村」「人口10万人未満の市区町村」の4層で分け、9地域×4層の36分類の中で性別、年代(20代~60代)を均等に回収する設計としています。
この調査では、性別役割について、「そう思う」 「どちらかといえばそう思う」「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」の4段階で聞いています。男性女性ともに上位2項目は、5割前後の高い割合となりました。そして、上位10項目のうち9項目は、男性の方が高い割合となっています。
男女差が大きく開いたのは、「男性は~べきだ」という次の4項目です。
- 「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」 (男性37.3%、女性22.1%)
- 「男性は人前で泣くべきではない」 (男性31.0%、女性18.9%)
- 「家を継ぐのは男性であるべきだ」 (男性26.0%、女性15.6%)
- 「男性なら残業や休日出勤をするのは当たり前だ」(男性20.2%、女性10.3%)
(出所 内閣府男女共同参画局「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」)
家庭・コミュニティといった切り口では、女性より男性の方が仕事と家事の分担に関して性別役割意識(「そう思う」傾向)が強いと分析されています。デートや食事についてもこの家庭・コミュニティという切り口に入っています。
この調査だけを見ると、デートや食事のお金は男性が負担すべきだと考えている「日本人」は少数派であることが分かります。また、男性は37.3%であるのに対して、女性は22.1%です。男性以上に女性の方が、デートや食事で男性に費用を出すことを求めていないことが分かります。
次に以下のグラフをご覧ください。
(出所 内閣府男女共同参画局「令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」)
このグラフ(2つ目はグラフを拡大したもの)は「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という設問に対する回答を、性別・世代別に分類したものです。
「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」と考えているのは特に男性50~60代の世代であることが分かります。この世代は、家計や結婚について、特徴的な考えを持っており、今の若者世代とは価値観に開きがある傾向にあります。
この調査結果によれば、今の日本においては、デートや食事のお金は男性が負担すべきだと考えている人は少数派と言えそうです。男性は(上の世代の価値観を聞いているからか)若い世代でも女性対比では負担すべきと考えているが、それでも「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という価値観は大半を占めている訳ではないのです。
価値観が異なる背景
次に、少し考慮に入れておくべきデータも見ておきましょう。以下は男女間の賃金格差の国際比較です。
(出所 内閣府男女共同参画局Webサイト「基本データ/男女共同参画に関するデータ集/男女間賃金格差(我が国の現状)」)
日本は、男女間の賃金格差の大きい国です。女性の賃金は男性の2割ダウンです。大きな差と言えるでしょう。但し、これでも男女の賃金格差は縮小してきているのです。
(出所 内閣府男女共同参画局Webサイト「基本データ/男女共同参画に関するデータ集/男女間賃金格差(我が国の現状)」)
バブルの時期には女性の賃金は男性の4割ダウンでした。それが当たり前だったのです。そして、女性は結婚すると退職するものでした。筆者も社内恋愛で結婚した後輩達で、女性が退職せずにそのまま働くと聞いた時には、時代が変わったと実感したことを鮮明に覚えています。
このような時代においては、収入の多い男性がデート代を出すことは当たり前だったように思います。そうしなければ、女性はあまり男女で遊びに行けなかったかもしれません(実際には実家暮らしの方が多かったと思いますので、そこまでではないでしょうが)。
この時代を生きた50~60代の男性は、相対的に「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という価値観が根付いているのです。但し、50~60代の女性はそのような価値観がありませんので、「男性の独りよがり」だったのかもしれません。
所見
今回は、「デートや食事のお金は男性が負担すべきだ」という価値感について見てきました。冒頭に触れた女優の方のツイートは、日本全体の価値観の中では少数派であるということなのでしょう。今回、そのツイートにどのような世代・性別の方による批判が殺到したかは分かりません。しかし、少なくとも女性側は男性におごってもらいたいとは考えてないのでしょう。そして、男性も過半数は男性が出すべきだと考えていないのです。収入が多い女優の方の発言ということで反発が起きた可能性はあるでしょう。
今回、筆者はこの論点について少数派であることを改めて実感しましたが、女性が美容代で月に平均7,000円程度かかっているという調査もあります(「ホットペッパービューティーアカデミー」~令和時代のオトナ女性~美容意識・行動調査)。女優の方の主張もかなり正論だと思うのです。少なくとも、男性が女性を誘ったならば、誘った責任として費用を出すというのはおかしくないのではないかと思うのですが、そのように主張するのも今の時代では批判を浴びるのでしょうか。悩ましいところです。