銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地方銀行から投資信託を購入しなくても良いですよね?

金融庁は、国民の安定的な資産形成を図るためには、金融商品の販売・助言・商品開発・資産管理・運用等を行う全ての金融機関等が「インベストメント・チェーン(投資家の投資対象となる企業が中長期的な価値向上によって利益を拡大し、それに伴う配当や賃金の上昇が最終的に家計にまで還元されるという一連の流れ、投資の連鎖)」におけるそれぞれの役割を認識し、顧客本位の業務運営に努めることが重要であるとの認識を持っています。

金融庁としては、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されるメカニズムを実現するため、定期的に各金融機関を横比較できるような共通の指標を公表しています。その指標は、リスクや販売手数料等のコストに見合ったリターンを長期的に確保できているかを国民が比較検討できるよう、各金融事業者が、リターンに関連する共通の定義による統一的な指標とされています。

この指標を見ると、銀行や証券会社等から投資信託を買うことについて、参考になったり、考えさせられるかもしれません。

今回はこの金融庁の発表資料を見ていくことにしましょう。

 

投資信託の運用損益別顧客比率

まずは、顧客に販売した投資信託の運用損益が全体としてどうなっているかを確認しておきましょう。

以下のグラフは、2022年3月末基準の投資信託の共通KPIを公表し金融庁に報告のあった金融事業者(255社)を単純平均で集計したものです。

(出所 金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2022年3月末基準>2023年1月20日)

2022年3月末の時点で、運用損益がプラスとなっている顧客の割合(全事業者255社の単純平均)は約8割と、2021年3月末時点とほぼ同水準でした。2022年3月末までの1年間の市場動向は、国内外の株式、債券の代表的な指数を見ると、国内債券は下落したものの、他は上昇又は横ばいでしたので、あまり変わっていないのも不思議ではありません。金融事業者の業態別に見ても、運用損益がプラスになっている顧客の割合は、各業態とも概ね8割となっており、2021年3月末時点から大きな変化は見られません。

但し、金融市場の代表的な指標が横ばいだったとしても、指標に連動する(インデックス)投資信託ばかりを金融事業者が販売している訳ではありません。いわゆるアクティブ投信と呼ばれるように、プロの運用者が投資対象を決め、金融市場以上の超過運用収益を目指している、手数料の高い投資信託も金融事業者は組成・販売しています。そう考えると、金融市場全体が国内債券を除き上昇又は横ばいだったことに照らせば、運用損益がプラスになっている顧客の割合は増えていてもおかしくはないかもしれません。

 

主要行等の状況

次に運用損益率がプラスの顧客割合が高い主要行等を確認してみましょう。

(出所 金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2022年3月末基準>2023年1月20日)

このグラフで見るとみずほ銀行やあおぞら銀行、オリックス銀行から投資信託を購入している個人が相応の含み損失となっています。大手の銀行だからといって安心な購入先であるとは全く限りません。

 

地方銀行の状況

地方銀行については、運用損益プラスの銀行も多数ある一方で、顧客全体の4割が含み損を抱えている(運用損益がプラスではない)銀行もあります。

(出所 金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2022年3月末基準>2023年1月20日)

そして上記グラフにあるように、全業態(主要行や証券会社等)平均を下回る銀行が多いということにも留意が必要です。

 

証券会社の状況

証券会社も運用損益率がプラスの顧客が全業態平均よりは少ない業態です。

(出所 金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2022年3月末基準>2023年1月20日)

もちろん証券会社ですので、銀行で買うよりもリスクが高くリターンも高いような商品を顧客は好んでいます。その観点で、顧客の運用損益率がマイナスになっていても不思議はないかもしれません。

しかし、グラフをよく見ると、基本的に運用損益率がマイナスの顧客割合が多い証券会社のほとんどは、地方銀行系の証券会社です。この点は無視してはいけません。

 

まとめ

今回は非常に簡単に、金融事業者の投資信託の運用損益率について見てきました。

筆者がお伝えしたいメッセージは一つであり、「地方銀行からのセールスで投資信託を購入しなくても良いのではないか」です。地方銀行本体のみならず地方銀行系証券会社も同様です。

地方銀行では仕組債の販売も問題になっていますが、地方銀行は収益が厳しい中で、「儲かる」商品を売ってきたのだと想定されます。つまり、顧客都合ではなく銀行都合のセールスです。販売手数料が高くて、購入してもなかなか運用損益率がプラスに浮上しないような投資信託を対面で売るようなビジネスがまだまだ残っているのです。近年、大手銀行や大手証券会社は顧客に回転売買を勧めるような形での収益獲得を止めてきましたし、販売手数料に依存するビジネスから預かり資産に応じた手数料ビジネスへ転換しようとしてきました。しかし、地方銀行はこれからです。例え、地方銀行の担当から対面でプレッシャーを受けても、安易に投資信託を購入する必要はありません。遠くない未来に、投資信託を強引に勧められることはほとんどなくなるものと想定されるからです。