銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

金融専門家の2021年ドル円予想の答え合わせ~予想は当たったのか~

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2022年がスタートしました。

新型コロナウイルス感染症の影響はまだまだ終わらず、本年も視界不良です。2021年の年始には2022年にはコロナの問題も過去のものとなっているだろうと予想していた方もいるでしょう。しかし、残念ながら現状は第6波の感染が広がっているのが今の日本です。

この不透明な中では、金融についても専門家の意見を聞きたいと考える方は多いのではないかと思います。

しかし、専門家と言われる人々の意見は本当に参考になるのでしょうか。(コロナでは専門家の意見は参考になったのか否かという難しい問題があるようにも思います。)

今回は、「2021年」における専門家の「為替見通し」が的中していたのか、検証してみたいと思います。

 

各社の予想

金融の専門家は、大抵は金融機関に勤めています。

そのため、金融機関が発表した2021年の為替見通しを確認出来れば、専門家の意見が正しかったのか、否かが分かるものと思われます。

為替見通しについては、最も一般的なドル/円相場に焦点を当てます。様々な金融機関が予想を行っているためです。

では、まずは三井住友DSアセットマネジメントからです。この会社は資産運用会社です。自らのハウスビュー(自社としての予想)を前提に投資信託等の運用を行っています。すなわち、一般の投資家同様にドル/円の巧拙が自社の運用成績に跳ね返って来ることなります。f:id:naoto0211:20220116112734p:plain

(出所 三井住友DSアセットマネジメント「2021年のドル円相場見通し2020年12月」)

このように三井住友DSアセットマネジメントは、2021年末のドル円は107円、年間の値幅は2021年もまた比較的小さいものにとどまると予想していました。

次に日本総合研究所です。シンクタンクですが、経済見通しを策定する際に、ドル円相場を予想することになります。

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(出所 日本総合研究所「為替相場展望2021年1月」)

 日本総合研究所では、2021年のドル円を上記の通り99~109円のレンジで予想していました。

みずほ総合研究所の予想は以下です。

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(出所 みずほ総合研究所「2020 年の回顧と 2021 年の展望」2021年1月8日 金融市場ウィークリー新春特別号)

みずほ総合研究所では、為替のドル円は100~111円のレンジ、期中平均値は105~107円程度と予想しています。

では、銀行系を離れて生保業界ではどうでしょうか。以下は第一生命経済研究所の予想です。

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(出所 第一生命経済研究所「マーケット見通し『向こう1年間の市場予想』(2021年1月号)」)

第一生命経済研究所では、2021年のドル円見通しは、楽観シナリオで100~115円、悲観シナリオで97.5~110円での予想となっていました。

ちなみに2021年のドル円相場見通しでは、証券系は以下と予想していました。

  • 為替レート(円/ドル) 103.9円(出所 大和総研「日本経済見通し(2021年1月20日)」)
  • 日本円/米ドル 103.0円(出所 野村アセットマネジメント「投資環境見通し 2021年新春号」2021年1月5日)

このように、各社の予想はドル円で100円台前半から半ばあたりが中心だったものと思われます。

 

その他予想

他に証券会社等のアナリストが、自らの意見として2021年初頭(もしくは2020年末)に発表した予想もあります。これは以下で引用します。

まずは楽天証券です。

現在のドル/円の水準は103円。円高、円安のバイアスを考えず、ここから上下に等しく5円ずつ動くと考えるなら、98円から108円が今年の大まかなレンジのイメージになります。ファンダメンタルズ要素を除外した中立な状態でも100円割れの確率は高いといえます。

(出所 楽天証券「毎ヨミ!為替Walker/2021年は円高スタート!今年のドル/円、上下のメドは? 100円割れはあるか?」2021/1/5)

次にマネックス證券です。

「コロナ後」米ドル全面安となった。その一因は、金利差とかい離した米ドル高の是正。それは円以外の通貨に対してはほぼ終わりつつあるが、対円ではなお続く可能性あり。
金利差との関係からすると、2021年にかけて100円割れ、いわゆる「超円高」の可能性あり。52週MAとの関係参考にすると、米ドル/円「下がり過ぎ」の可能性出てくるのは90~95円からか。

(出所 マネックス証券「2021年の米ドル/円を予想する ~「超円高」という可能性 ~吉田恒の為替デイリー」2020/12/15)

他に以下のような予想もあります。

21年に入っても当面はドル安円高の進行が見込まれる。では、どこまでドル安円高は進むのか。水準を予想することは難しいが、節目の100円、さらには2016年につけたここ5年の最安値98円台を割り込む動きは十分に現実味があると予想している。(中略)

ドル安基調からの反転の時期は、アフターコロナ次第で早ければ夏前、遅くなれば秋以降になろう。21年末までにはドル円は1ドル=110円を超えるような動きも十分期待できそうだ。

2020年12月26日 記

(出所 株探【特集】山岡和雅が読む2021年為替相場 <新春特別企画>)

以上、それぞれの予想は2021年初当時においては納得感の高いものでした。

 

「答え合わせ」と「まとめ」

では、実際のドル円相場はどのように動いたのでしょうか。

以下がドル円のチャート図です。

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(出所 日経新聞「22年投資戦略 為替は円高に転換・資源国通貨は上昇も」)

このチャート図を見て分かるのは、各社や各アナリスト等が想定していたようなドル安・円高は2021年を通じて発生しなかったということです。

結果として、2021年は、継続してドル高・円安で推移したのです。

この結果を見て「金融の専門家は信頼できない」と筆者はお伝えしたい訳ではありません。

金融の専門家は、様々な要素を織り込んで予想を行っています。そして、為替相場は、人の思惑で動きます。人の考えが相場を動かしていくのです。したがって、為替相場はマーケットの参加者が何を考えているのかを予想することで先回りできます。金融の専門家の考え方を参加者は当然に意識しながら取引を行っており、金融の専門家が役に立たない訳ではないのです。

それでも、1年という比較的短いと思われる期間であっても、ドル円相場では専門家の予想は外れます。これが現実なのです。

我々は金融の専門家の意見を無視はしない方が良いでしょう。しかし、それを絶対視するのも避けるべきです。ドル円相場のようなマーケットにおいては、予想をすると共に、何か想定外の動きがあった場合に、今までの自らの考えに固執することなく、柔軟に対応していくことが必要なのでしょう。