銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

2024年初に金融の専門家は円安を予想していたのか?

最近、円安という言葉を聞かない日はないのではないでしょうか?

2024年4月29日、外国為替市場で円安が進み一時1ドル160円を突破しました。これは34年ぶりの円安水準です。

2024年の年初は1ドル140円台だった円相場は、これまで円安が続き4カ月で20円も低くなりました。

筆者は、今年は円高になっていくことを年初に想定していました。年間の平均では1ドル130円半ばあたりと考えていたのです。しかし現実は全く違う姿となっています。筆者は金融の世界に20年以上関わってきています。それでも、わずか4カ月後の為替水準も予想出来ないのです。

では、プロと言われるような金融の専門家や金融機関等は為替水準を年初にどのように予想していたのでしょうか。今回は「金融の専門家が信じるに足る人たちなのか」について見ていきたいと思います。

 

各社の予想

まずは、日本総合研究所(日本総研)の2024年1月為替相場展望の内容を確認しましょう。

日本総研は以下のグラフとコメントを年初に発表しています。

2024年のドル円相場を展望すると、当面は日銀の政策修正観測の高まりなどを背景に、円高地合いで推移するものの、堅調な米経済指標を受けた米国の利下げ観測の修正がドルを下支えすると予想。
今春以降は、ドル安・円高基調が明確化する見通し。FRBは春先にも金融引き締めスタンスを緩めると予想されるほか、日銀も春以降に金融政策の正常化を進めるとみられ、米日金利差の縮小により円高基調が定着する見込み。

(出所 日本総研「為替相場展望2024年1月」)

グラフを見ると分かるように、日本総研はドル円は150円を超えた円安になるとは想定していなかったことが分かります。年末は1ドル135円を中心にレンジで想定しています。

次は第一生命経済研究所です。

<ドル円予想コメント>

米国のインフレが峠を越したことで、FRBの利上げ終了が織り込まれつつある。日米金利差縮小を見込むドル売り・円買いは未だ初期段階だが、来年後半の利下げ開始が現実味を増せば、円高方向への推移が予想される。日銀の緩和修正観測も円高要因になる。

(出所 第一生命経済研究所「マーケット見通し『向こう1年間の市場予想』(2024年1月号) )

第一生命経済研究所は、円高を基本シナリオとしながらも円安リスクがあること明示しています。但し、155円が円安の限界とみており、160円を突破することまでは想定していません。

次に、野村総合研究所の予想は以下となります(こちらはコラムなので著者の予想とした方が正確かもしれません)。

FRBが2024年中に利下げに踏み切る可能性は高い一方、2%の物価目標達成が見通せるかどうかは別にしても、日本銀行がマイナス金利政策解除など正常化を志向していることは変わりなく、2024年の為替市場はそうした日米の金融政策の方向性の違いから、ドル安円高となりやすいと見る。2024年末時点で1ドル130円~135円と比較的緩やかな円高進行を予想する。

(出所 野村総合研究所「日米金融政策の観測が交錯する年明け後の為替市場」2024年1月9日)

今まで3社の事例を見てきましたが、2024年初は円高方向へ行くことが想定されていたことは明らかです。

もう少し見てみましょう。みずほリサーチ&テクノロジーズです。

2024年について、ドル円は足元の円高基調が継続し、秋口にかけて1ドル=120円台後半まで円高が進行後、年末にかけてやや値を戻す形で円安を予想する

(出所 みずほリサーチ&テクノロジーズ「2024 年のドル円、120 円台への円高を予想」2023年12月28日)

 大和証券系の大和アセットマネジメントの予想は以下です。

最近の日⽶5年国債⾦利差は3.7%程度ですが、⽶⾦利低下と国内⾦利上昇により同⾦利差は2024年末に3.2%程度へ縮⼩すると⾒ています。
過去1年間の日⽶5年国債⾦利差との相関からすると、⾦利差3.7%に⾒合う⽶ドル円の水準は137円程度であり、131〜143円のレンジに収まる確率が高いと⾔えます。実際の⽶ドル円は、リスクオンの円安が作用しているため、レンジの上限近辺にあります。2024年末に同⾦利差が3.2%へ縮⼩すると、それに⾒合う⽶ドル円の水準は129円程度となり、123〜135円のレンジに収まる確率が高いと⾔えます。(中略)

2024年は日⽶⾦利差の縮⼩とリスクオンの後退により、年末にかけて⽶ドル円は130円に下落すると予想します。

(出所 大和アセットマネジメント「2024年の為替相場⾒通し」2023年12月21日)

やはり、円高方向に振れることを想定していることが分かります。

これまでの事例は、筆者が「為替予想 2024年1月」でGoogle検索して出てきた検索結果から引用したものです。あえて円安を予想していた会社を排除したわけではありません。

 

所見

今回の記事では、円安の要因について触れている訳ではありませんし、円安を予想できなかった専門家を責めたい訳でもありません。

筆者が皆さんのお伝えしたいのは、金融専門家と呼ばれるような人たちの意見は、あくまで一つの意見であって鵜呑みにしてはいけないということです。

そして、筆者の経験則上は、特に為替相場については専門家と逆の方向に行くことが多いということです(あくまで感覚です)。

世の中は、そして特に金融マーケットは理論通りにいきません。筆者も年初には円高方向に行くと考えていました。しかしながら、米国の物価等が強く利下げが先送りされていき、前提がどんどんと変わっていきました。

新NISAをきっかけに資産運用を行っている個人の皆さんは、特に金融の専門家の予想を信用してはいけません。資産運用は上手く行く時ばかりではありません(そうでなければ世の中にはもっとお金持ちが溢れています)。常に専門家や自分の予想と反対方向にマーケットが動くことを想定しておくべきなのです(だからこそ損切は大事です)。