銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

FRBパウエル議長がジャクソンホール講演で何を言ってるのか知りたくないですか?

2022年8月26日の米株式市場は急反落しました。ダウ平均の下げ幅は1,000ドル超となりました。

この要因は、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長による発言です。パウエル議長は、経済シンポジウムの「ジャクソンホール会議」の講演で利上げを継続し、インフレ抑制のめどが立つまでは金利を高水準で維持する考えを示しました。

金融マーケットでは、FRBは来年に利下げに転換すると予測されていました。今回のパウエル議長の発言は予想を超えてマーケットには厳しいものだったということになります。

8月26日のダウ平均終値は前日比▲1,008.38ドル(▲3.03%)の3万2,283.40ドルとなり、1日の下落幅・下落率としては、5月以来の大きさとなりました。下げ幅としては今年3番目です。

今回は、この大きな影響を与えたパウエル議長の発言について、少し確認してみることにしましょう。

 

パウエル議長発言

通常、要人の発言を一言一句確認することはなく、マスコミによってまとめられた記事等によって知ることが通常です。

今回のパウエル議長の発言もマスコミの記事を通じて認識している方がほとんどでしょう。

パウエル議長の今回の講演は約8分間と予定よりも短いものでした。昨年の講演の半分程度の分量だったとされています。そこで、この講演内容の全量を確認してみることにしたいと思います。報道では伝えられないニュアンスを読み取れるのではないでしょうか。

パウエル議長の講演内容は以下のリンク先に掲載されています。

www.federalreserve.gov

但し、当然ながら英語で読みにくいので、DeepL翻訳を使って、訳したものが以下です。(出てきた翻訳をそのままにしてあります)

 

<パウエル議長講演内容>

本日は、このような場でお話しする機会をいただき、ありがとうございます。

これまでのジャクソンホール会議では、刻々と変化する経済の構造、不確実性の高い状況下で金融政策を行うことの課題など、幅広いテーマについて議論してきた。本日は、私の発言はより短く、焦点を絞り、メッセージはより直接的なものとなる。

連邦公開市場委員会(FOMC)の現在の最大の焦点は、インフレ率を2%の目標まで引き下げることである。物価の安定は連邦準備制度理事会の責務であり、経済の基盤となっています。価格の安定がなければ、経済は誰のためにも機能しない。特に、物価の安定がなければ、すべての人に恩恵をもたらす強力な労働市場の状況を持続的に実現することはできない。高インフレの重荷は、それを負担する能力が最も低い人々に最も重くのしかかる。

物価の安定を回復するには時間がかかり、需要と供給のバランスをより良くするために我々の手段を力強く行使する必要がある。インフレ率の低下は、トレンド以下の成長を持続させる必要がありそうです。さらに、労働市場の環境も多少軟化する可能性が非常に高い。金利の上昇、成長率の低下、労働市場の軟化はインフレ率を低下させる一方で、家計や企業に何らかの痛みをもたらすでしょう。これらはインフレを抑制するための不幸なコストです。しかし、物価の安定を取り戻せなければ、もっと大きな痛みを伴うことになる。

米国経済は、パンデミック不況後の経済の再開を反映した2021年の歴史的な高成長率から明らかに減速している。最新の経済データはまちまちですが、私の見方では、わが国の経済は引き続き強い底力を見せています。特に労働市場は好調ですが、労働者の需要が供給を大幅に上回っており、明らかにバランスが崩れています。インフレ率は2%を大きく上回っており、高いインフレ率は経済全体に広がり続けています。7月のインフレ率の低下は歓迎すべきことですが、1ヶ月の改善では、インフレ率が低下していると確信するまでに委員会が確認すべき内容には程遠いものです。

我々は、インフレ率を2%に戻すために十分に制限的な水準に政策スタンスを意図的に移行している。直近の7月の会合で、FOMCはフェデラルファンド金利の目標レンジを2.25~2.5%に引き上げましたが、これはフェデラルファンド金利が長期的にどこに落ち着くかを予測するSEP(経済予測)の範囲に含まれるものです。インフレ率が2%をはるかに上回り、労働市場が極めてタイトな現状では、長期的な中立値の試算は立ち止まったり、小休止したりする場所ではない。

7月の目標レンジの引き上げは、この数回の会合で2回目の75bpの引き上げであり、私はその時、次回の会合でもう1回異常に大きな引き上げが適切である可能性があると述べた。現在、会合間期間の約半分を経過している。9月会合での我々の判断は、入ってくるデータおよび進展する見通しを総合的に判断することになる。金融政策のスタンスがさらに引き締まるにつれ、ある時点で、金融政策の引き上げペースを緩めることが適切となる可能性があります。

物価の安定を回復するには、しばらくの間、制限的な政策スタンスを維持する必要がありそうです。過去の記録は、早まった金融緩和を強く戒めている。6月のSEPで示された委員会参加者の最新の個別予測では、2023年末までのフェデラルファンド金利の中央値は4%をやや下回る水準にある。参加者は9月の会合で予想を更新する予定。

我々の金融政策の検討と決定は、1970年代と1980年代の高くて不安定なインフレと、過去四半世紀の低くて安定したインフレの両方から、インフレの力学について学んだことを基礎にしている。特に、我々は3つの重要な教訓から学んでいる。

第一の教訓は、中央銀行は低位で安定したインフレを実現する責任を負うことができ、また負うべきであるということです。今となっては、中央銀行関係者やその他の人々が、かつてこの2点について説得を必要としていたことは不思議に思えるかもしれないが、ベン・バーナンキ前議長が示すように、大インフレの時代には、いずれの命題も広く疑問視されていた。現在では、これらの問題は解決されたと考えている。現在の高インフレは世界的な現象であり、世界の多くの国々が米国と同等かそれ以上のインフレに直面していることは事実である。また、私の考えでは、米国の現在の高いインフレは強い需要と制約された供給の産物であり、FRBの手段は主に総需要に作用していることも事実である。いずれも、物価の安定を達成するという連邦準備制度に与えられた任務を遂行する責任を弱めるものではありません。需要と供給をより一致させるために、需要を緩和することが必要なのは明らかである。我々はそれを行うことを約束する。

第二の教訓は、将来のインフレに対する国民の期待が、長期的なインフレ経路を設定する上で重要な役割を果たしうるということである。今日、多くの指標から見て、長期的なインフレ期待はよく固定されているように見える。これは、家計、企業、予測担当者に対する調査や、市場ベースの指標に広く当てはまります。しかし、インフレ率がしばらく我々の目標を大きく上回って推移してきたことを考えると、それは自己満足の根拠にはならない。

インフレ率が長期にわたって低位で安定的に推移すると国民が期待するならば、大きなショックがない限り、そうなる可能性が高い。しかし、残念ながら、高くて不安定なインフレに対する期待も同じである。1970年代、インフレ率が上昇するにつれて、インフレ率の高さへの期待が家計や企業の経済的意思決定に定着していった。インフレ率が上昇すればするほど、人々はインフレ率が高止まりすると予想するようになり、その確信を賃金や価格決定の中に組み込んでいったのである。1979年の大インフレの最中にポール・ボルカー元議長が述べたように、「インフレはそれ自体を餌にしている。だから、より安定した、より生産的な経済への回帰の仕事の一部は、インフレ期待の支配を解かなければならない」。

インフレが持続的に高い場合、家計や企業はインフレに細心の注意を払い、経済的な意思決定に反映させなければならない。インフレ率が低く安定しているときは、家計や企業の関心は他のことに向けられ、自由である。グリーンスパン前議長はこのように言っている。「すべての実際的な目的のために、物価の安定とは、平均的な物価水準の予想される変化が十分に小さく緩やかであり、企業や家計の財務上の意思決定に重大な影響を与えないことを意味する」。

もちろん、インフレは今、誰もが注目していることであり、今日の特別なリスクも浮き彫りになっている。現在の高インフレが長引けば長引くほど、インフレ期待が定着する可能性が高くなる

第三の教訓は、「やり遂げるまでやり続けなければならない」ということである。歴史が示すように、インフレ抑制のための雇用コストは、高インフレが賃金や物価の設定に定着するにつれて、遅れれば遅れるほど増大する可能性が高い。1980年代初頭に成功したボルカー・ディスインフレーションは、それ以前の15年間、インフレを引き下げる試みに何度も失敗してきた。高インフレを食い止め、昨年春までのような低位で安定したインフレ水準に引き下げるプロセスを開始するためには、最終的に非常に制限的な金融政策の長期間が必要とされたのである。私たちの目標は、今、決意をもって行動することで、そのような結果を避けることです。

このような教訓をもとに、私たちはインフレを引き下げるための手段を用いています。私たちは、需要が供給とより良く調和するよう、強力かつ迅速な手段を講じており、インフレ期待を安定させるよう努力しています。私たちは、仕事が終わったと確信できるまで、この仕事を続けていきます。

(www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。)

 

如何でしょうか。これがパウエル議長の講演全文です(DeepLの翻訳は精度が高いです)。

 

所見

筆者はパウエル議長の講演からFRBの金融政策の方向性は以下と認識しました。

  • 中央銀行の役割は物価の安定である(株価ではない)
  • 高インフレの状況を長く続けることは危険であり、インフレを抑制するまで継続的に利上げを行う
  • 利上げは家計や企業に痛みをもたらすが、インフレを抑制しなければより大きな痛みを伴うため、インフレ抑制を優先する
  • 次回9月の利上げ幅はその時点のデータ等で総合判断する
  • 2023年末までは利下げに転じない可能性があり、一方で、利上げの効果次第では利上げのペースを緩やかにする可能性がある

皆様はどのように講演内容を認識したでしょうか。

今回のパウエル議長の講演が「衝撃的」だったのは、2023年には利下げに転じると考えている人が多かった金融マーケット関係者に認識を改めてさせたということでしょう。すなわち、高インフレ状態は簡単には収まらないかもしれないとFRBが考えているということです。そして、中央銀行としてのFRBの役割は、当然ながら株価の安定ではなく、景気の維持でもなく、雇用の維持でもなく、物価の安定であると明確に示したことでしょう。

今後、株式相場や金融市場がどのように動くかは筆者には分かりません。しかし、FRBが来年にも利下げに転じるという予測が市場を覆っていましたが、このシナリオの修正は避けられそうもありません。それはすなわち、株価や債券には逆風となるでしょう。