銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

2023年の物価動向を日銀はどのように見ているのか

2023年が始まりました。

街中には昨年と比べて人が溢れており、デパートも神社も混んでいたように思うのは筆者だけでしょうか。

昨年は戦争とインフレの年でしたが、今年はどのような年になるのでしょうか。

物価が次々と上昇しているのは生活の中で実感している方が多いのではないかと思います。

物価の番人である日本銀行(日銀)は2022年12月に政策変更を行いました。金融市場では事実上の利上げとして受け止められています。この政策変更の際に、日銀内ではどのような議論が交わされていたのでしょうか。この議論の流れを読むと日銀が日本の物価をどのように見ているのか、どのような政策が行われていくのかをある程度は予想することが出来ます。

新年ですので、まずは日銀が何を考えているのかを簡単に確認していきたいと思います。

 

日銀の金融政策決定会合

日銀の最高意思決定機関である政策委員会の会合のうち、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する会合を、金融政策決定会合といいます。この会合は、年8回、各会合とも2日間開催されます。金融政策決定会合は、原則として、年央頃を目途に、翌年の予定が公表されています。この日程がマスコミや金融関係者から常に注目されていることになります。

金融政策決定会合では、(1)金融市場調節方針、(2)基準割引率、基準貸付利率および預金準備率、(3)金融政策手段(オペレーションにかかる手形や債券の種類や条件、担保の種類等)、(4)経済・金融情勢に関する基本的見解等が議事事項とされています。

会合終了後、直ちに当該会合における決定内容は公表されており、同日には日銀総裁の記者会見がなされています。また、会合における主な意見は、原則として会合の6営業日後に公表されます。会合の議事要旨は、次回の決定会合で承認の上、その3営業日後に公表されています。

尚、「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」は年4回(通常1月、4月、7月、10月)の会合で審議・決定のうえ公表されています。

 

2022年12月金融政策決定会合の主な意見

直近の政策決定会合の主な意見は現在の日銀の認識と今後の方向性を示唆するものです。少し長いですが、抜粋致します。

【金融経済情勢に関する意見】

(経済情勢)

  • わが国経済は、持ち直している。先行きは、資源高や海外経済減速による下押し圧力を受けるものの、感染症や供給制約の影響が和らぐもとで、回復していくとみられる。
  • 海外経済は回復ペースが鈍化しており、先行き、世界的なインフレ圧力や各国中央銀行による利上げに加え、ウクライナ情勢や中国における感染再拡大の影響を受けて、減速していくとみられる。
  • 海外経済は減速感が強まっているものの、わが国経済は、コロナ禍で抑制されてきた設備投資や個人消費の増加にも支えられて、持ち直しの動きが続いている。
  • わが国経済は、賃金引上げモメンタムの強まりや、「人への投資」、DX投資の活発化等により、潜在成長率を上回る成長が期待されるため、来春の賃金改定や各種投資の動向を注視している。
  • 賃上げにかなり前向きな政労使のスタンス、総じて好調な企業収益、お互いに支えあう傾向の強いわが国の労使関係などを踏まえると、高めの賃上げが実現する可能性が相応にある。
  • 賃上げの持続性は企業の成長力によるため、2%の「物価安定の目標」には、企業の「稼ぐ力」を強化する供給サイドの変革も重要であり、そのバロメーターとして、一般サービスの物価上昇率に注目している。
  • 米国におけるサービス価格や賃金の上昇率の高止まりを受けたインフレ率の動向、中国における感染再拡大の影響など、海外経済・物価動向を巡るリスクは大きい。

(物価)

  • 生鮮食品を除く消費者物価の前年比は、本年末にかけて上昇率を高めたあと、来年度(筆者註:2023年度)半ばにかけてプラス幅を縮小していくと予想される。
  • 原油価格を含むコモディティ価格はピーク時から下落に転じており、輸入物価の前年比プラス幅は、11 月にはっきりと縮小した。
  • 消費者物価上昇率は、輸入物価の上昇圧力が減衰することや、電気料金に関する政府の支援策なども踏まえると、年明け以降、プラス幅を縮小していくと考えられる。
  • 物価は上昇し、インフレ予想も上昇しているが、足もとのサービス価格の上昇は原材料コスト高の影響によるところが大きく、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するにはまだ距離がある。
  • 消費者物価上昇率はコスト・プッシュ圧力の一巡後に2%を下回るとみている。その後再び2%に伸びを高め、それが継続するためには、名目賃金が十分に上昇し、サービスを中心とした消費者物価の粘着的な部分の伸びが高まることが必要である。
  • 企業の価格転嫁の動きが広がっており、これが物価上昇率の底上げに寄与する可能性や、企業業績の底上げを通じて前向きな循環につながる可能性がある。
  • 財だけではなく、サービス価格も次第に上昇率を高めているほか、刈込平均値や加重中央値も伸び率を一段と高めており、物価上昇のモメンタムが強くなってきている可能性がある。
  • わが国の消費者物価は、個別品目の価格上昇率の分布、及び、生鮮食品とエネルギーを除く指数の水準でみて、デフレ期以前の状態に近づきつつある。これはデフレに戻ることのない状況の実現に向けた動きと考えられる。

【金融政策運営に関する意見】

  • 「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続すべきである。
  • 現在は、2%の「物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するうえで重要な局面であり、金融緩和の継続が必要である。
  • 企業業績は全体として高水準であり、労働需給はタイトで賃金上昇の動きがみられるなど、好循環の兆しが出てきているが、「物価安定の目標」が達成されたとは考えていないため、当面の金融政策に関しては、金融緩和の維持が適当である。
  • 現在は、賃金と物価の好循環が実現できるかの重要な局面にあり、金融緩和の継続によって経済をしっかりと支え、企業が賃上げしやすい環境を実現していくことが適当である。
  • わが国の金融環境は、全体として緩和した状態にある。ただし、債券市場の機能度が低下しており、こうした状態が続けば、企業の起債など金融環境に悪影響を及ぼし、金融緩和の効果の波及を阻害する惧れがある。
  • 債券市場の機能度が低下する中で、投資家のセンチメントが慎重化し、社債金利のスプレッドは拡大している。発行金額・件数面を含めれば、社債の良好な発行環境は維持されているとみられるが、注意を要する状況にある。
  • わが国経済の持続的成長には長期金利を低位で安定させることが必要であるが、市場機能への悪影響も懸念されるため、長期金利の変動幅を拡大させつつ長短金利操作を継続することが適当である。
  • 長期金利の変動幅の拡大は、債券市場の機能度改善を通じ、2%の「物価安定の目標」の実現に向けた現行の金融緩和を、世界的インフレのもとでより持続可能にするための政策対応であり、金融緩和の方向性を変更するものではない。
  • 市場機能の低下への対応のため、長期金利の変動幅の拡大が必要である。その場合でも、インフレ予想の上昇もあって、実質金利の低下を通じた強力な緩和効果が続くことは変わらない。
  • 国債のイールドカーブ上、10 年債の価格形成に歪みが生じている。これによる悪影響を回避する観点では、長期金利の変動幅の拡大が必要と考えられる。ただし、これは金融緩和の出口に向けた変更ではなく、国債買入れを通じて現状の緩和姿勢は維持されるべきである。
  • 長期金利の変動幅の拡大は、イールドカーブ・コントロールの持続性強化に資する。また、イールドカーブを全体として低位に安定させるべく、全年限で国債購入額を増額したうえで、状況に応じて機動的な買入れを実施することも、金融緩和の持続性強化につながる。
  • イールドカーブ・コントロールの運用見直しは市場機能の改善に資する。マーケットがどこに、どのように落ち着き、市場機能がどれだけ改善するのか、謙虚にみていくことが大切である。
  • 持続的な賃金上昇に必要な経済・賃金構造変革の動きを後押しするうえでは、金利水準を低く抑えることが重要であり、そのために、イールドカーブ・コントロールの持続性を強化することが必要である。
  • 低金利の長期継続を前提とした資金運用・調達が続いてきただけに、将来の出口局面では、金利上昇に伴うリスクの所在や市場参加者の備えの確認が必要になると考えられる。
  • 現時点では、金融緩和の継続が適当であるが、いずれかのタイミングで検証を行い、効果と副作用のバランスを判断していくことが必要である。
  • 2%の「物価安定の目標」について、目標値を含めて点検・検証が必要との議論があるが、目標値の修正は、目標を曖昧にし、金融政策の対応を不十分なものにする惧れがあるため、適当でない。

 

所見

日銀の金融政策決定会合の主な意見をお読みになってどのように皆さまは考えたでしょうか。

日銀(の政策委員)は、賃上げが高めの上昇率となる可能性がある(もしくは期待している?)としています。そして、一般サービスの物価上昇率に注目しているようです。

但し、消費者物価上昇率は、輸入物価の上昇圧力が減衰することや、電気料金に関する政府の支援策なども踏まえると、2023年はプラス幅を縮小していく可能性があると日銀は想定しています。すなわち、「2%の物価安定の目標」を持続的・安定的に達成するにはまだ距離があると日銀は考えているのです。

従って、日銀は金融緩和を継続する必要があるとの認識です。金利は低位に保つことが必要と意見もされています。今回の政策変更(長期金利の変動幅の拡大)はあくまで債券市場の機能を改善するためのものであり、金融緩和の方向性を変更するものではなく、金融緩和の出口に向けた動きでもないとしています。

これらの意見を全て妄信する必要はありませんが、金融緩和を継続する必要があり、金利は低位に保つという点は、日銀のコンセンサスでしょう。

2023年においては、長期金利が少々上昇していくことはあるかもしれませんし、マイナス金利政策の解除がなされる可能性もあります。もちろん、ETF(上場株式、REIT)の購入をストップする可能性もあるでしょう。

しかし、全体としては、日銀は物価が持続的・安定的に2%の上昇とはならないため、金融緩和を続けるという考え方なのです。

これは、日本円が急激な円安に見舞われたり、資源価格の急上昇が無い限りは、そう簡単に変わらないのではないかと筆者は考えています。

面白くない結論かもしれませんが、2023年も日銀の金融政策はそう簡単には変わらないと筆者は予測しています。