銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

2022年は「戦争とインフレ」の年

読者の皆さんにとって2022年はどのような年だったのでしょうか。

筆者にとっては、完全に流れが変わったと感じた年でした。

2020年からコロナ禍が始まり、時間が失われたり、止まったりしているように筆者は感じていましたが、それは幻想だったと思わされました。

世界は動き続けていたのに、気づいていなかったのでしょう。

今回は年内最後の記事として、2022年の重要事象について簡単に振り返っていきたいと思います。

 

2月/ロシアによるウクライナ侵攻

2月には、ロシアがウクライナ侵攻を始めました。

ロシアという軍事大国が本当に戦争を始めると考えていた人は多くなかったのではないでしょうか。可能性があるとは考えながらも、旧時代的な侵攻を行うとは想定されていなかったように思います。合理的に考えるトップなら、侵攻は行わないだろうと筆者も思い込んでいました。

21世紀の国家間の戦争は、物理的な攻撃を伴わない国家間の争いとなってきていました。これは、国家間で本当に戦争が起きると、総力戦や核戦争となり、勝敗に関わらず国家や国民をいたずらに消耗させることが要因です。

そして、資源を輸出する国であるロシアはウクライナに侵攻することで経済的に追い込まれる可能性があることは明白でした。

ところが、実際にはウクライナ侵攻という戦争は起きました。

戦争が今も起きること、「起こしても良いこと」が明らかになりました。

台湾の近くに立地し、尖閣諸島等への挑戦を受けている日本にとっても、対岸の火事ではないことになります。尚、7月には米下院議長が25年ぶりに台湾を訪問しています。

ウクライナの戦いを見ていると、やはり自国の領土は自国民によって守らなければならないことが分かります。どんなに援助を得ることが出来ても、その中心には自国民がいなければならないのです。日本が防衛費を増加させていく方向性自体は正しいのでしょう。本当に必要な防衛力の強化・維持のために税金が投入されていくことを望みます。

このウクライナ侵攻は、世界を経済的な統合から分断(ブロック化)の方向へ転換した歴史的な出来事だったと後世では語られるのかもしれません。

 

3月/米のゼロ金利解除

3月に米FRBはゼロ金利政策を解除し、金利引き上げが開始されました。コロナ禍で2年間続けてきたゼロ金利政策を解除し、金融の引き締めへと転換することになりました。その後も金利が上昇していっているのは記憶に新しいところでしょう。

この背景は、景気の回復に伴って雇用状況等が改善する一方、消費者物価の上昇率が40年ぶりの高い水準になり、FRBはこのインフレを抑え込むため、景気の下支えのための緩和策から金融引き締めへと政策を転換したというものです。

2022年は簡単には起こらないだろうと想定されていた高インフレが発生しました。そして、日本ですら物価が上昇することになりました。

我々が慣れてしまっていた、おカネが余っている時代は終わろうとしているのかもしれません。

4月には日本円が急落し一時1ドル131円台となり20年ぶりの円安と話題になり、更に10月には1ドル150円を突破し32年ぶりの円安となりました。円安が「日本にとって良くない(側面がある)」ということを、やっと日本の政治家もマスコミも理解したのではないでしょうか。

2022年は金融緩和の縮小がスタートした年であり、物価は上がるものだと認識された年となったのでしょう。

 

7月/安倍元首相死去

7月に安倍元首相が銃撃され死亡しました。一国の首相を長らく勤めた人物が、銃犯罪に無縁のはずの日本で、銃弾に倒れるというニュースは衝撃的なものでした。また、その後には銃撃犯の犯行動機が旧統一教会関連にあることが分かり、それをきっかけに旧統一教会と自民党にとっての「パンドラの箱」が開かれました。

国家と宗教は切り離して考えるべきであるとする政教分離の原則が憲法で規定されている日本ですが、自民党は旧統一教会と関係が深く、連立を組む公明党は創価学会の政党であり、筆者にとっては、日本は政教分離というよりは政教同一に近いように感じられます。

日本は民主主義の国家です。政治について、もう少し有権者一人ひとりが考えていかなければならないのでしょう。

 

9月の様々な出来事

9月には国内では政府・日本銀行(日銀)が24年ぶりに円買い介入を行い円安阻止に踏み切りました。

そして、海外ではエリザベス英女王が死去し、10月には就任したばかりだったトラス英首相が経済政策の失敗により金融市場の混乱を招き、わずか1か月半で辞任しました。

9~10月の英国での出来事は、金融マーケットの力を改めて見せつけられたものでした。この事象も対岸の火事ではありません。どう考えても日本の方が国の債務が多く、債券市場は(日銀が売買をコントロールしていて)機能不全です。ゆがんだマーケットでは投機家が虎視眈々と日銀に勝つことを狙っています。

日銀が、もしくは中央銀行が長期金利を長期間にわたってコントロール出来るというのはやはり幻想なのでしょう。日本は金利の相応の上昇を覚悟しなければならないものと思います。

 

最後に

2022年を簡潔に振り返れば、筆者にとっては、大半の人が「もう起きない」と考えていた「戦争とインフレ」が実際に起きてしまった年であったと認識しています。

20世紀型の戦争はもう起きないという幻想は打ち砕かれ、全世界的に見れば低位で会ったインフレ率が跳ね上がっています。仮にロシアや中国と、米欧がブロック経済化を志向していくことになれば、物価の更なる上昇も視野に入っていきます。

我々日本人にとってみれば、日本の国力低下を感じながら国の防衛について考えざるを得なくなった年となったのではないでしょうか。

コロナ禍からの活動正常化も含めて、2022年は後から思い出すと歴史の転換となった年だったのでしょう。

2023年がどのような年になるかは分かりません。少なくとも金融市場には不安が渦巻いているように感じます。しかし、変化が起こるならばチャンスもあります。2023年が皆様にとって良い年になるように願い、本年の最終記事を終わりたいと思います。

一年間ありがとうございました。

良いお年をお迎えください。