銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

地銀から金融商品のセールスを受けたら、断った方が良い理由

金融庁は2022事務年度(2022年7月~2023年6月)の金融行政方針を発表しました。

「貯蓄から投資へ」の流れを加速させるため、少額投資非課税制度(NISA)の恒久化を含め制度を抜本的に拡充し、金融リテラシーの底上げへ国家戦略として金融教育を推進する体制を検討していると報道されています。

この金融行政方針は、金融庁が当該年度において「何をやるか」を記載している訳ですから、金融庁にとっての問題意識・課題が明確になります。

今回の金融行政方針では、「国⺠が安定的な資産形成を行うためには、⾦融商品の組成・販売・管理等の各段階において、⾦融機関による顧客本位の業務運営を確保することが欠かせない。こうした中、一部の利用者からは、安定的な資産形成を目指す顧客にはふさわしくない商品を⾦融機関が販売しているといった相談も寄せられている。」と説明がなされています。

金融庁は、金融機関が安定的な資産形成を目指すことが出来る商品を販売するように求めているのです。そして、この金融行政方針では、地域銀行、すなわち地方銀行(地銀)に対して問題意識があることが分かります。

今回は、地銀に対する金融庁の問題認識について確認していきたいと思います。

 

金融行政方針における記載

まずは、金融庁が説明する実績と計画について確認しましょう。

<業種別モニタリング方針>

○地域金融機関/地域銀行 

【昨事務年度の実績】

⾦融庁に寄せられているリスク性⾦融商品販売に係る苦情やその発⽣原因・背景等の検証結果を基に、顧客本位の業務運営に関する論点にくわえて、経営理念を踏まえた経営戦略におけるリテールビジネスの位置付けといった地域⾦融機関としての経営のあり方について⾦融機関との対話を開始した。

【本事務年度の作業計画】

リスク性⾦融商品の販売に関し、⾦融庁に寄せられる苦情やセグメント別の収益状況等の検証結果を基に、顧客本位の業務運営に関する論点にくわえて、経営戦略における位置付けについて、地域銀行との対話を実施していく。 

○準大手証券会社・地域証券会社 

【昨事務年度の実績】

地域銀行系証券については、仕組債を含む商品販売の状況やグループ内の銀行との連
携状況について対話を行い、ビジネスの中心が仕組債の販売となっている先が少なく
ないことや、銀証連携の推進に当たって、顧客本位の業務運営の実践や、業務を⽀える人材育成等に課題がある事例を確認した。 

(出所 金融庁「2022事務年度 金融行政方針」より抜粋)

このように地銀ではリスク性金融商品の販売に関して、購入者等から苦情が寄せられているようです。そして、地銀系の証券会社のビジネスは仕組債の販売が中心となっている先が少なくないとしています。

金融行政方針のコラムでは更に地銀のリスク性金融商品販売ビジネスについて掘り下げ、以下のような記載をしています。

「地域銀行における金融商品販売を含むリテールビジネスの持続可能性」

地域銀行における金融商品販売を含むリテールビジネスの持続可能性を確保する観点から、セグメント別の収益管理状況を調査した。 

その結果、地域銀行 100 行の金融商品販売セグメントについて、収入・⽀出の収益管理ができる状況にある地域銀行は、調査票ベースで 39 行であった。なお、収益管理ができていない要因については、金融商品販売業務に掛かる人件費・物件費・システムコスト等の費用が算出できない銀行が多かった。 

また、収益管理ができる状況にある地域銀行 39 行について、2022 年3月期の金融商品販売セグメントの収益状況を確認したところ 15 行が赤字となっており、間接部門等のコストを加味した場合は赤字行が 13 行増加し 28 行が赤字となるなど、金融商品販売に投入した人件費等のコストを賄いきれずに⽀出が収入を上回る状況にある銀行が相応に存在する。

(出所 金融庁「2022事務年度 金融行政方針」より抜粋)

この記載を見る限り、地銀は金融商品販売セグメントにおいて、高い割合(28÷39=71%)で赤字となっていることになります。この赤字をカバーしようとすると、地銀は販売者にとって収益性の高い金融商品を売りたくなるのでしょう。以下のように分析されています。

地域銀行の金融商品の販売構成を見ると、外貨建て一時払い保険や仕組債といった販売手数料の高いリスク性金融商品の販売が多い先が見受けられ、顧客からの苦情の状況等を踏まえると、真の顧客ニーズに基づく販売が行われているか懸念がある。 

例えば、グループに証券会社がある銀行群とそれ以外に分けて比較すると、前者は後者に比べて仕組債の販売(紹介)の割合が多くなっているなど、販売会社の営業姿勢が、顧客が選択する金融商品に影響している可能性も否定できない(図表3)。 

(出所 金融庁「2022事務年度 金融行政方針」より抜粋)

地銀の金融商品販売構成を見ると、外貨建て一時払い保険や仕組債といった販売手数料の高いリスク性金融商品の販売が多い先が見受けられると金融庁は指摘しています。そして、グループに証券会社がある場合には、仕組債の販売が多いとしています。

仕組債は金融機関にとって収益性が高い(販売時に多額の収益を獲得出来る)商品として有名です。この仕組債についても金融庁は説明をしています。

仕組債のうち EB 債(他社株転換可能債)について、複数の販売会社からデータの提供を受けてパフォーマンスの分析を行った結果、リスク・リターン比で他の資産クラスに劣ることが明らかになった。また、短期間で収益を上げるため、回転売買類似の行動に対する誘因が販売会社側に働きやすい商品性であることも指摘した。これらを踏まえると、取り扱い⾦融機関各社や業界団体が自主的にデータを集計して定期的に公表するとともに、重要情報シートで組成・販売それぞれの実質コスト(元本と公正価格の差)を開示するなど、顧客向けの情報提供を充実させることが望ましい。

(出所 金融庁「2022事務年度 金融行政方針」より抜粋)

仕組債の中でも有名なEB債について金融庁はリスクとリターンが他の投資資産に比べて見合っていないと説明しています。ここでEB債について詳しくは触れませんが、筆者もEB債については金融機関が収益を抜きすぎであり、基本的に投資家のためになっていないと考えています。

このEB債販売に力を入れている地銀が多いのでしょう。だからこそ、金融庁が取り上げるのです。

 

所見

今回は2022年度金融行政方針から、地銀の金融商品販売について取り上げました。

今回の金融行政方針から見て取れるのは、地銀が収益性の高い商品を、顧客のためではなく「自分たちのために」販売している傾向です。地銀は金融商品販売セグメントでは赤字のところが多く、黒字化させるために自らにとって収益性の高い商品(=顧客にとっては収益性は不芳)に注力しているのです。そして販売しているのはEB債が多い傾向にあるのです。

EB債は表面的には高い利子が受け取れますが、「ハイ」リスク・「ミドル」リターンと言われるほど投資家にとって不利なことが多い金融商品です。長期的な運用というよりは目先のギャンブルに近いかもしれません。とても個人に投資をお勧めしたいような商品ではありません。

これは筆者の考えですが、基本的には銀行から投資信託や保険、そして仕組債を買うことは、銀行を儲けさせるだけです。もちろん資産運用が上手くいく可能性はありますが、投資信託を買うぐらいなら自分で現物株式を購入した方が手数料を取られない分、運用利回りは向上します。銀行から勧められて資産運用を行い、仮にうまくいったとしても、本来はもっと儲けることが出来ていた可能性が高いのです。

少なくとも現時点では、地銀から金融商品のセールスを受けたら、断るのが正解と筆者は考えています。