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オリックスにみる株主優待の問題点

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個人投資家にとって、新たな衝撃を与えたのはリース最大手のオリックスです。

株主優待を求める投資家に大人気であるオリックスが株主優待制度を廃止すると発表しました。

個人投資家に目を向けていたはずのオリックスはどうして株主優待を廃止するのでしょうか。

今回はオリックスが株主優待制度を廃止する理由について確認していきたいと思います。

 

オリックスの発表

2022年5月の決算発表と同時にオリックスは以下の発表を行い個人投資の一部に激震が走りました。

株主優待制度の廃止
1.廃止の理由
• 2010年より「株主カード」(当社グループが展開するサービスの割引優待)を開始。2015年よりカタログギフト方式の「ふるさと優待」を実施。
• 株主優待の拡充に加え、安定的かつ継続的な配当と機動的な自己株式取得を実施。
• 今般、株主の皆様へのより公平な利益還元のあり方という観点から、株主優待制度は廃止。今後は、配当等による利益還元に集約。
2.廃止時期
(1)株主カード:2024年3月31日時点の株主様へのお届けをもちまして廃止。カード裏面に記載される有効期限(2025年7月31日)までご利用いただけます。
(2)ふるさと優待:2024年3月31日時点の株主様へのお届けをもちまして廃止。

(出所 オリックスIR資料)

オリックスの株主数は2022年3月末時点で823,126名でした。

(出所 オリックスWebサイト)

議決権割合でいけば、金融機関等が36.9%、外国法人46.7%、個人が15.6%です。

但し、議決権割合ではなく、株主数で言えば、個人が圧倒的多数となります。

データが2021年3月末時点しかありませんが、株主数753,133名のうち、個人株主は748,779名(有価証券報告書の「個人その他」)です。すなわち、株主の99%以上が個人株主になるのです。

オリックスはコロナ禍において株主を増やしている日本企業のトップとされています。

2020年3月末時点の「個人その他」の株主数は600,283名でしたが、上記の通り2021年3月末時点では748,779名まで増加しています。コロナ禍においてオリックスは15万名弱も個人株主を増やしたのです。

その原動力の一つが、株主優待であったことは間違いありません。

 

オリックスの株主優待

オリックスが個人株主の人気になった理由は、株主優待が大きな要因であるとされています。

オリックスの株主優待は、オリックスグループの全国のお取引先が取り扱うご当地グルメ等の商品を厳選しカタログギフトに仕立てており、「ふるさと優待」と名付けられています。これがお得感を呼び個人株主を急増させてきた要因となりました。ふるさと優待開始前の2014年3月末の個人株主数は45,508名でしたので、すでに16倍以上に急増していることになります。

通常の株式取引で売買される売買単位の単元株=100株(2022年5月27日現在だと2,421円×100株=242,100円)を保有するだけで、お肉、お米等の食品のみならず、家電、雑貨等の優待物が受け取れるのです。

<ご参考:3年未満保有している株主向け優待物>

furusato_2021_b.pdf (orix.co.jp)

オリックスが株主優待に力を入れたのは、個人株主への知名度向上、個人株主増加による友好的な株主の確保を狙ったものと思われます。

但し、議決権割合でいけば、2022年3月末では前述の通り、金融機関等が36.9%、外国法人46.7%、個人が15.6%です。個人株主「数」がどれだけ増えても、金融機関等のプロ投資家や外国人投資家には割合で対抗出来ません。

あえて言うならば、一生懸命に個人株主を集めても、会社側にとってのメリットは乏しいと言えるでしょう。

 

株主優待の問題点

確かに株主優待を個人投資家は喜ぶかもしれません。実生活に活用出来るならば経済的なメリットを享受出来るからです。しかし、機関投資家(法人の投資家)や外国人投資家はどうでしょうか。

例えば、投資する企業から「お米」が機関投資家宛に送られてきたらどうでしょうか。

お米ならまだ保存が出来ますが、生の野菜だったらどうでしょう。お肉だったらすぐに賞味期限が来ます。もしくは、その企業の商品である掃除機や洗濯機が送られてきたらどうでしょう。

いずれも、機関投資家という法人(その法人で働く従業員ではありません)もしくは外国人投資家(こちらも普通は法人です)にとっては、意味の無い優待物です。機関投資家は実体がないのですから、自らお米を炊いて食べることはありません。お肉も掃除機も必要ありません。

このような機関投資家は、株主優待品が送られてきたら、業者を集めて入札を行い、換金しています。この実務の手間は相当なものがあり、保管にかかる倉庫等の費用もかかります。

また、外国人投資家の場合は、企業から海外までお米を送ってもらうことはありません。実際には、日本の信託銀行が代理人のような役割を果たして、上記のような換金処分を行っています。

すなわち、株主優待は個人投資家にとっては意味がありますが、機関投資家や外国人投資家にとっては、あまり意味の無いものです。これは、同じ株主であるにもかかわらず、メリットを感じる株主とそうではない株主のうち「メリットを感じる株主のみを優遇」しているとも言えます。言い方を換えれば「企業にとって操りやすい個人投資家を優遇している」ということになるのです。

株主優待は株主平等という観点で問題があります。本質的には株主を平等に扱うべきである以上、株主配当は全ての株主が納得する現金配当に置き換えられるべきという意見が出てくるのは当然でしょう。

また、株主優待を行うことにより、優待の選定や企画に貴重な従業員の時間が取られ、結果として企業の利益や配当を下げることになっているという主張もなされてもおかしくなりません。株主優待が本業ではないのですから当たり前です。

そして、企業価値ではなく株主優待によって人気化した株式の価値とは一体何なのかという疑問が出てくるでしょう。株主優待で人気となった企業の株式を購入しても本源的な企業価値と株価が乖離しているのであれば、どこかで調整が入るのは必然です。

株主優待は上場企業の経営陣にとって都合が良いから存在しています。筆者は、株主優待制度によって、株主が本来得られるはずの利益が棄損されている可能性が高いと考えています。株主優待は本質的・長期的には株式市場にとってマイナスなのではないかと思うぐらいです。

もちろん、株主優待はこれからも存続し続ける可能性は高いと思われます。企業にとってメリットがある間は廃止となることは無いと予想されるためです。

但し、投資家にとってみれば、どの企業が株主ときちんと向き合っているのかをチェックするモノサシの一つとして、株主優待の有無を考えてみるのは有効なのではないでしょうか。筆者が述べたように株主優待が本質的・長期的には、その企業の価値を棄損しているという仮定が正しいかもしれません。

オリックスの株主優待の廃止理由は、株主への「より公平な利益還元のあり方」という観点であり、配当等の現金による利益還元に集約すると説明されています。この理由についてしっかりと考えてみるのは、企業を見る上で、そして株式市場を見る上で、有用かもしれません。