銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

株主優待をもてはやす風潮は「株式市場を弱めている」可能性も

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多くの企業の中間期末である9月末が迫ってきました。

株式投資家にとっては中間配当が気になる時期ですが、株主優待に関する特集も様々な媒体で組まれています。

株主優待は個人投資家に人気で、株主優待生活を実践している有名投資家も存在します。しかし、株主優待をもらうぐらいならば汎用性の高い「キャッシュ」で配当を受けた方が良いとの考えもあるでしょう。

今回は株主優待の功罪について考えてみたいと思います。

 

株主優待とは

株主優待については東証が作成した図表が最も分かりやすいと思います。以下で画像を引用します。

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(出所 東証マネ部!2019.8.24/https://money-bu-jpx.com/news/article019595/

この株主優待制度は、どのぐらいの割合の企業が実施しているのでしょうか。日経マネーの記事では以下の通りとなっています。

上場企業が株主に様々な商品を送るのが株主優待制度。上場企業4096社の約37%、1521社が実施している。ここ数年は、毎年100社以上が制度を新設しており、廃止する企業の数を差し引いても実施企業数は増加傾向が続いている。
送られてくる優待品は、自社商品や自社サービスの利用券・割引券など、その会社に関係のある品物の他、お米やおこめ券、カタログギフト、飲料や名産品、QUOカードなどの金券までバラエティーに富んでいる。複数のコースの中から好きな優待品を選べる優待も多い。

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(出所 株主優待、実は上場企業の37%しか実施していない? 要チェック!株主優待の基本(上)日経マネー/2019.9.11https://style.nikkei.com/article/DGXMZO49267750R30C19A8000000?channel=DF280120166590&nra

株主優待は、上場企業にとっても株主にとっても「良いもの」に見えます。

上場企業にとっては安定株主が増える可能性があり、株主にとっては配当以外に価値のあるモノやサービスを貰えるという経済的メリットがあるからです。
 

企業にとっての株主優待のメリット

企業にとって株主優待を行うメリットの詳細については、日経マネーの記事が分かりやすいでしょう。

「優待は株主数を増やすための特効薬」(野村インベスター・リレーションズ)だ。制度を導入すると個人株主数が増え、長期優遇制度を導入すると、この傾向はさらに強まるという。株主優待を通して個人株主に商品やサービス、業務内容を知ってもらい、安定株主になってもらいたいというのが企業側の狙いだ。消費者に直接の接点がないBtoB(法人向け)企業は個人投資家の目を自社に目を向けてもらう好機と捉えている。

(出所 株主優待、実は上場企業の37%しか実施していない? 要チェック!株主優待の基本(上)日経マネー/2019.9.11)

これが企業の本音です。株主優待という「餌」を活用し、経営陣に安定的に味方するファン株主を増やしたいのです。 

そして、東証1部では上場基準があり株主数が2,000名に満たない時には東証2部に指定替えとなります。また、株主数が400名に満たない時には上場廃止となります。

BtoB(法人向け)企業は、知名度が低いこともあり、上場基準を保つために株主「数」を求めています。株主優待次第では企業の「対面」を保つための株主数確保が可能なのです。

 

株主優待の問題点

株主優待を個人投資家は喜ぶかもしれません。実生活に活用出来るならば経済的なメリットを享受出来るからです。しかし、機関投資家(法人の投資家)はどうでしょうか。

例えば、投資する企業から「お米」が機関投資家宛に送られてきたらどうでしょうか。

お米ならまだ保存が出来ますが、生の野菜だったらどうでしょう。もしくは、企業の新商品である掃除機や洗濯機が送られてきたらどうでしょう。

いずれも、機関投資家という法人(その法人で働く従業員ではありません)にとっては、意味の無い優待物です。機関投資家は実体がないのですから、自らお米を炊いて食べることはありません(当たり前ですが)。

このような機関投資家は、株主優待品が送られてきたら、業者を集めて入札を行っています。そして換金しているのです。この実務の手間は相当なものがあり、保管にかかる倉庫等の費用もかかります。

また、機関投資家が日本に存在すれば良いですが、実際には海外にいる場合もあります。海外までお米を送る訳にはいかないでしょう(実際には、日本の信託銀行が代理人のような役割を果たしています)。

すなわち、株主優待は個人投資家にとっては意味がありますが、機関投資家のような法人にとっては、あまり意味の無いものなのです。これは、同じ株主であるにもかかわらず、メリットを感じる株主とそうではない株主のうち「メリットを感じる株主のみを優遇」しているとも言えます。言い方を換えれば「企業にとって操りやすい個人投資家を優遇している」とも言えます。

 

所見

以上の例を見れば分かるように、株主優待は株主平等という観点では問題があります。

本質的には株主を平等に扱うべきである以上、株主配当は全ての株主が納得する現金配当に置き換えられるべきです。

株主優待を行うことにより、優待の選定や企画に貴重な従業員の時間が取られ、結果として企業の利益や配当を下げることになっているとも言えます。

また、企業価値ではなく株主優待によって人気化した株式の価値とは一体何なのでしょうか。そのような企業の株式を購入しても本源的な企業価値と株価が乖離しているのであれば、どこかで調整が入るのは必然です。

株主優待は上場企業にとって都合が良いから存在しているのです。株主優待制度によって、株主が本来得られるはずの利益が棄損されている可能性が高いと筆者は考えています。これは本質的には株式市場にとってマイナスなのではないでしょうか。

しかしながら、株主優待は恐らく存続し続けるでしょう。企業にとってメリットがある間は廃止となることは無いものと思われます。

投資家にとってみれば、どの企業が株主ときちんと向き合っているのかをチェックするモノサシの一つとして、株主優待を調査してみるのも良いかもしれません。