「港区女子と足立区男子は永遠に出会えない」という説をご存知でしょうか。
東京都の二つの区が、独身男女の厚い壁となっているというような話です。
都内在住の独身者は男女によって住むところに傾向があり、簡単には出会えないということなのです。
女性独身者はセキュリティーのしっかりした賃貸物件の多い場所に住む傾向がある一方、男性独身者は家賃が安い地域に住み、その分、飲食費にお金をかけているのが理由とされています。
では、この傾向は本当に存在するのでしょうか。
今回は港区女子と足立区男子が本当に存在しているのかについて確認していきましょう。
(今回の記事は筆者の過去の記事を再構成したものです)
「港区女子と足立区男子は永遠に出会えない」説を簡単に検証する - 銀行員のための教科書
港区女子
まず「港区女子」を探してみましょう。
この場合には「住民基本台帳による東京都の世帯と人口のデータ」にある「第6表 区市町村、年齢(各歳)及び男女別日本人人口(令和2年1月)」を使用します。
(元データ:https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/juukiy/2020/jy20000001.htm)
このデータは、簡単に言えば、各区の年齢毎の男性・女性の人口が公表されているものです。この統計データから、独身である可能性が高いと想定される20~40歳の男女のデータを抜き出し、男性の人口から女性の人口を控除します。そうすると、男性が多ければプラス(男性がこの地域には多い)、女性が多ければマイナス(女性がこの地域には多い)ということになります。
元データは結婚の有無は関係なく全属性ですが、結婚している場合は同じ区に住んでいる(同居している)と仮定すれば、このデータを使っても傾向は確認することができると思われます。
では、まずは港区を確認しましょう。
右に行くにしたがって年齢が上がり、上に行くのは男性の超過、下に行くのは女性の超過となります(横軸の数値は「年齢」、縦軸の数値は「人」です)。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
このグラフを見ると分かるように29歳以降は40歳まで女性の数が男性よりも多いことが分かります。強いて言えば「港区には大人の女性が集まっている傾向がある」とでも表現できるでしょう。
では、足立区男子の存在も確認できるのでしょうか。
足立区男子
同じ東京都のデータを使った足立区の状況は以下の通りです。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
キレイに全ての年齢で男性の方が女性よりも多いことが分かります。
これだけを見ると足立区は男性が集まる傾向にありそうです。
ここで、東京都区部全体のデータも確認しておきましょう。もしかすると東京都区部全体では、女性か男性かいずれかの方が全体としては多い傾向にあり、港区や足立区が実は特別ではない可能性があるためです。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
これが東京都区部全体の状況です。強いて言えば、20歳代前半は女性が都内都区部に多く、20歳代後半からは男性が都区部には多いことになります。
そのため、少なくとも港区に女性が集まっているというのは、全体から見ると特異な傾向があるということになります。
中央区女子・目黒区女子
ここまでで、港区女子と足立区男子が存在しそうであることについて見てきました。
ただ、港区ばかりに女性が住むわけではないでしょう。
他の地域で女性が集まっている地域はないのでしょうか。
以下のグラフをご覧ください。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
これらは中央区と目黒区の状況です。
いずれの区もほとんどの年齢区分で女性の数の方が多くなっています。
港区、中央区、目黒区に女性が比較的集中する傾向にあるということになります。
江戸川区男子・葛飾区男子
では、男性には女性の中央区・目黒区のような地域はないのでしょうか。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
圧倒的に男性が多い区は上記の江戸川区、葛飾区です。
いずれも比較的家賃が低い地域ということが出来るでしょう。
特徴的な区
女性については港区、中央区、目黒区に集中している傾向があると述べてきましたが、少々家賃が高い傾向にある地域でもあります。
女性によっては、より庶民的な地域はないものでしょうか。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
これは杉並区と練馬区の状況です。
いずれも庶民的とまでは言えませんが、少なくとも港区よりは家賃的に住みやすい傾向にあるでしょう。
この杉並区と練馬区は30歳代前半までは女子の方が居住者が多い地域です。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
大田区は20歳代前半だけ女性が多い地域です。大学を出て初めての一人暮らしをする、もしくは会社の寮に入る、そのような地域であるものと想定されます。
同じような動きが板橋区にもあります。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
板橋区の場合は、20歳代は女性、30歳代は男性が居住する傾向にあるということになります。
一方で、男子は足立区、江戸川区、葛飾区と比較的家賃が安い傾向にある地域を挙げてきました。他にも男子が集まる区はないのでしょうか。
(出所 東京都の統計より筆者作成)
中野区、新宿区、豊島区、北区については、20歳代後半から男子の数の方が多くなっていきます。
どうやら男性は20代後半になってくると新宿や池袋という大規模ターミナル駅付近に住みたくなるのかもしれません。
まとめ
このように東京都内においては、女性・男性の居住傾向に偏りがあることが分かります。
「港区女子と足立区男子は永遠に出会えない」という説は、婚活において唱えられている話ですが、実際には不動産賃貸において重要かつ面白い説ではないかと筆者は考えています。
女性はどのようなイメージの地域に住む傾向にあるのか、男性は家賃の安さを重視しているのか等、非常に示唆に富む説なのではないでしょうか。
そして以下の図表をご覧ください。
①高潮リスク
②洪水リスク
(出所 国交省ハザードマップポータルサイト)
これらのハザードマップでリスクの高い地域として挙げられている足立区、江戸川区、葛飾区は男性が多い地域です。すなわち、男性は水害リスクのような災害リスクを比較的気にしない人が多い可能性があります。
このように、少なくとも男女では住む地域には傾向が出ていることは間違いなさそうです。
もちろん、あくまで「区単位」という広い地域の傾向であり、駅からの距離等の方がより個別の物件の競争力を左右する重要な要素であることは間違いありません。しかし、「この区に住みたい」「この要素でこの区には住みたくない」と考える傾向が、少なくとも女子にはありそう(男子は家賃が安ければ良い可能性がある)というのは、否定できないでしょう。
不動産賃貸経営において、どの地域に、どのようなコンセプトの住宅物件を保有するのか、建築するのか、そのようなことを考えていく上で、「港区女子、足立区男子」を思い出すのは、少しは役に立つかもしれません。