銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

ヒゲダンのボーカルが働いていた島根銀行について簡単に確認する

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バンド「Official髭男dism」のボーカル 藤原聡さんがラジオ番組で銀行員とバンド活動を両立していた下積み時代を語ったと話題になっているようです。

藤原さんは島根銀行に働いていたとのことですが、島根銀行とはどのような銀行なのでしょうか。

今回は、島根銀行の業況についてスポットを当ててみたいと思います。

 

ラジオ番組の内容

Official髭男dismの藤原さんのインタビュー記事はなかなかに興味深いものでした。

まずは以下抜粋します。

「もう6年くらい前の話なんですけど、東京に出てくる前ですね。朝から夕方まで地元の銀行で働いて、その後に曲を作ったりバンドの活動をしたりとかしていた」

「(仕事のために)資格を取らなきゃいけなくて。ファイナンシャルプランナーとか。いつも資格試験の勉強をしながら仕事して、バンドして、みたいな感じだった。睡眠時間も切り詰めながらやっていたので、それよりしんどいタイミングは、ミュージシャン、バンド一本になってからは一度も訪れたことがないような気がしています」

「時間のない中で何をどう、効率的に勉強したらいいか、みたいなことは、そこから学んだものが(今に)生かされているかも、なんてのはありますけど。一番は『あんなにしんどいことをやっていたんだから、どれだけ忙しくても平気だろう』となるのが、いいことかもしれませんね。乗り越えた過去があると自信になるというのは、本当にそうなんだな、というのは思いますね」

(出所 J-CASTニュース https://www.j-cast.com/2021/03/02406218.html?p=all

この地方銀行員時代の苦労話がネットで大いに話題となっているようで、放送を聞いていたリスナーからは「壮絶に地銀disやってる」といった声が挙がっているそうです。

また「『感情のないアイムソーリー』という歌詞を生み出している時点でめちゃくちゃ説得力ある」というTwitter上のコメントが反響を呼んでいます。

ここまで、藤原さんが厳しいと感じた島根銀行とはどのような会社なのでしょうか。

 

島根銀行とは

島根銀行は、島根県を中心とした第二地方銀行です。愛称は「しまぎん」です。

1915年に設立されており、100年以上の業歴を誇ります。

SBIホールディングスとの資本・業務提携を行い、今は、SBIホールディングスの「第4のメガバンク構想」に参加しています。

2020年3月末時点では、第一地方銀行64行、第二地方銀行38行のうち、貸出残高のランキングでは、下から3番目、すなわち99位となっています。

地方銀行(地銀)の中では島根銀行の規模は小さい方であることが分かるでしょう。

 

島根銀行の業績

島根銀行の直近の業績は改善しています。

以下は2021年3月期3Q決算における島根銀行の業績です。

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(出所 島根銀行「2021年3月期第3四半期決算短信」)

銀行の本業利益であるコア業務純益(一般企業の営業利益に近い概念)では、2020年4~12月で黒字転換しています。

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(出所 島根銀行「2021年3月期第3四半期決算短信」)

本業の利益が黒字だったこともあり2021年3月期3Qの決算では、最終損益も黒字化しています。

島根銀行が本業で黒字になってきた要因の一つは、コロナ禍における取引先の資金需要でしょう。

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(出所 島根銀行「2021年3月期第3四半期決算短信」)

このように2020年12月末までに貸出残高は増加しています。

この貸出残高増加によって貸出金利息は前年同期比+69百万円の増加となっています。

また、有価証券利息配当金も+71百万円増加しています。これは、有価証券運用のSBIグループへの全面的委託が上手くいっているということだろうと想定されます。

そして、役務取引等利益も+149百万円増加しています。これは、島根銀行SBIマネープラザやSBI関連ビジネスマッチング手数料増加を主因としており、SBIグループとの連携によるものと島根銀行は説明しています。

コスト削減では、人件費費の削減および物件費(店舗費用やシステム経費)の削減です。人件費は前年同期比で約9%の減少、物件費は前年同期比で約10%の減少となっています。この2要因で300百万円のコスト削減を達成しています。

このような施策によって、島根銀行は第3四半期(4~12月期)としては2015年以来5期ぶりのコア業務純益黒字に転換しています。

 

島根銀行の課題

日銀の統計によると、全国の地銀(第一地銀+第二地銀)の貸出平均残高は2020年3月末から2020年12月末までに+4.2%となっています。

そして島根銀行のような第二地銀は同期間の貸出平均残高は+5.8%の伸びを示しています。

コロナ禍において企業は、厚めに資金調達を行っています。どの銀行も貸出残高は相当に増えているのが現状です。

ところが、島根銀行は同期間に+1.4%しか貸出残高(末残)が増加していません。

島根銀行が自行の営業地域の資金需要を把握できていないのか、それとも島根銀行の営業地域では資金ニーズが弱いのか、原因については現時点で判然としません。しかし、島根銀行の貸出残高の増加ペースの弱さを鑑みるに、島根銀行が本業で収益を改善していくのは簡単ではないと筆者は考えます。

 

まとめ

SBIグループは島根銀行の2割超の株式を保有する大株主であり、第4のメガバンク構想を掲げ、他地銀とも連携を進めています。

島根銀行もSBIグループの出資のみならず、様々な支援を得て、暫くは業績が改善する可能性があります。コロナ禍においても貸出残高の増加が鈍い等、収益改善は簡単ではないものと思われます。

そもそもSBIグループから資本を受け入れるぐらいです。島根銀行は、一時期は地銀で収益力が最下位と言われていた銀行だったからこそ、他社から資本を受け入れたのです。

人気バンドのボーカルである藤井さんが働いていた時期は生年月日から考えるに2015年前後でしょう。このあたりは本業の赤字が発生し、島根銀行がまさに収益力向上に向けて動き出した時期だと思われます。恐らく営業に対する数字のプレッシャーもすさまじいモノがあったと推察されます。

また、従業員数も継続して減少しています。2015年3月時点で405名だった島根銀行の連結従業員数は、2020年9月末時点で324名、すなわち2割も減少しているのです。わずか5年半で2割、すなわち5人に1人の割合で従業員が減少したのですから、島根銀行の従業員には、今もかなりの負荷がかかっているはずです。

有名バンドのボーカルが過去の銀行員時代を語ると「壮絶に地銀disをやっている」と思われるぐらい島根銀行の業績は過去も、そして現在も厳しいのです。