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タレント佐々木希氏の妊娠発表から考える日本の少子化

タレントの佐々木希(34歳)氏が自身のインスタグラムで第2子妊娠を報告し、ネット上では、“あの騒動”を乗り越えた佐々木氏への賛辞が相次いでいるとマスコミに報じられています。

佐々木氏の夫でお笑いコンビ・アンジャッシュの渡部建氏(50歳)は、2020年6月に公共の多目的トイレなどで複数の女性とみだらな行為をしていたと「週刊文春」に報じられ、不倫発覚時には大バッシングが巻き起こったことが記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この騒動等を乗り越え佐々木氏が第2子妊娠を果たしたことはご本人達にとっては喜ばしいことだと思いますが、筆者の関心は、このような報道がなされるときのタレントの名前の後に常に年齢が記載されていることが多いという点と、それ以上に佐々木氏の34歳での第2子妊娠は、年齢としては日本で一般的なのかという点にありました。

そのため、今回は日本における女性の出産年齢について簡単に確認していきたいと思います。

 

合計特殊出生率の推移

まず、日本における女性の出産動向について、マスコミ報道で一般的に見る合計特殊出生率の推移について確認しましょう。尚、合計特殊出生率は「15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの」で、一人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当します。

(出所 厚生労働省「令和3年度 出生に関する統計の概況」)

合計特殊出生率は、「第 1 次ベビーブーム」期には4を超えていましたが、その後、急激に低下し、1955年頃からは「2」前後で推移していました。第2次ベビーブーム期の1971年に2.16まで回復しましたが、1974年に2.05と人口置換水準(同年 2.11)を下回り、2005年には1.26と過去最低を記録しています。それ以降は緩やかな上昇傾向にあっりましたが、2016年以降は再び低下しており、2019年は1.36となっています。

 

晩婚化と母の出生時平均年齢

この要因は明らかに晩婚化が影響しています。

妻の平均初婚年齢は下の図の通り上昇傾向にあり、晩婚化が進んでいます。

昭和55年(1980年)に25.2歳、平成6年(1994年)に26.2歳と、1歳上昇するのに14年かかったところ、平成13年(2001年)に27.2歳(1歳上昇するのに7年)、平成18年(2006年)に28.2歳(1歳上昇するのに5年)、平成24年(2012年)に29.2歳(1歳上昇するのに6年)と、上昇のスピードが速い傾向にありましたが、令和元年(2019年)に29.6歳と、近年は緩やかな上昇となっています。

<妻の平均初婚年齢・母の出生時平均年齢・出生までの平均期間>

(出所 厚生労働省「令和3年度 出生に関する統計の概況」)

この晩婚化の影響により、母の出生時平均年齢も上昇傾向にあり晩産化が進んでいます。平成15年(2003年)に第2子が30.7歳でしたが、平成27年には第1子が30.7歳と12年間で1人分の差が生じています。平成27年(2015年)以降は第1子が30.7歳で横ばいとなっています。

尚、父母が結婚生活に入ってから出生までの平均期間は、第1子及び第2子はともに長くなり、第3子については6年台後半で推移していることが分かります。

日本は、晩婚化が進み、更に父母が結婚生活に入ってから出生までの期間も長くなりました。それによって上述の出生時平均年齢が上昇しているのです。

 

出生コーホート別分析

厚生労働省の統計では、出生コーホート別分析が合計特殊出生率以外に示されています。

「コーホート」という用語は聞きなれない用語かもしれませんが、コーホートとは、ある期間に婚姻・出生等何らかの事象が発生した人を集団としてとらえたものであり、出生によるものを「出生コーホート」と呼びます。出生コーホートによる年齢別出生率の合計(累積出生率)は、「出生年の同じ集団」の出生率を合計したものであり、当該集団に属する一人の女性が、合計した年齢までの間に生む子どもの数を表します。累積出生率を比較することによって「世代による変化」を分析することができることになります。このような「出生年の同じ集団」に関する分析を出生コーホート別分析というのですが、そのグラフが以下となります。 (グラフを見た方が分かりやすいでしょう)

<出生コーホート別にみた年齢別初婚率・年齢別出生率 - 昭和 40・45・50・55・60・平成2年生まれ ->

(出所 厚生労働省「令和3年度 出生に関する統計の概況」)

昭和40・45・50・55・60・平成2年生まれの女性について、婚姻・出生の状況をみると、昭和40年生まれの女性では、年齢別初婚率は「25歳」で高く、年齢別出生率は第1子が「26歳」、第2子が「29歳」、第3子が「31歳」で高くなっていることが分かります。世代を追うごとに年齢別初婚率と年齢別出生率のグラフは、それぞれ右下方向に動く傾向がみられます。右への動きは初婚年齢の上昇(晩婚化)と出生時年齢の上昇(晩産化)を示し、下への動きは初婚率と出生率のピークの低下を示しています。昭和55年生まれ以降、年齢別初婚率は「26歳」、年齢別出生率は第1子で「29歳」で高く、晩婚化、晩産化が緩やかになっています。

出生コーホート別分析では別のグラフも見てみましょう。

<出生コーホート別にみた累積出生率(令和元年までの累積)>

(出所 厚生労働省「令和3年度 出生に関する統計の概況」)

累積出生率を出生年別にみると、39歳時点における累積出生率は、昭和55年生まれ(令和元年に39歳)の女性では1.43となっていますが、34歳時点における累積出生率は、昭和60年生まれ(令和元年に34歳)の女性では1.16となっています。また、29歳時点における累積出生率は、平成2年生まれ(令和元年に29歳)の女性では0.59となっています。39歳・34歳・29歳の各年齢における累積出生率は、昭和30年生まれ以降、低下傾向となっていますが、52年生まれ以降は60年生まれまでほぼ横ばいで推移しています。一方、29歳の累積出生率をみると、60年生まれ以降再び低下傾向となっていることが分かります。

 

まとめ

冒頭に戻るとタレントの佐々木希氏はマスコミが報道してくれるので、34歳で妊娠、(おそらく)35歳で出産するものと想定されます。

佐々木氏の場合、2017年・29歳で入籍、2018年・30歳で第1子出産しています。令和元年(2019年)の平均でいけば、妻の初婚年齢は29.6歳、第1子出産は30.7歳ですので、まさに平均的な年齢です。

今回は35歳で出産すると令和元年の平均が32.7歳ですから、平均よりは少し遅れることになります(良いとか悪いとかの問題では当然ありません)。

日本の少子化の問題は晩婚化が大きな影響を及ぼしています(もちろん結婚を選択しなくなった個人が増えたという点こそが重要な点と思いますが)。

今回は失礼ながらタレントの方を例にして日本の晩婚化と晩産化の現状を確認しました。筆者は、晩婚化・晩産化が悪いと主張したい訳ではありません。個人が精神的に成熟した方が結婚生活の破綻は少なくなると感じていますので、個人ベースで考えた場合には晩婚化をむしろお勧めすることになるのかもしれません。

但し、日本の少子化の問題の原因の一つが晩婚化と晩産化にあることは間違いなく、それは個々人が自分の人生を選択していく中で必然的に発生しているということになります。

国家は、個々人の幸せを公共の利益に反しない限り追求するべきだと筆者は考えています。その中で、少子化という問題をどのように解決していくか、我々には知恵を絞ることが求められます。結婚した世帯での多産化、そしてそもそもは結婚数の増加をどのように果たすのか、合計特殊出生率を2以上にするにはどうしたら良いのか、あまりにも難しすぎる問いですが、我々は考えいかなければなりません。