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不動産クラウドファンディングは玉石混交~i-Bondの事例~

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低金利環境下において、従来型の資産運用の選択肢は狭まってきています。コロナ禍において株式は上昇を続けてきましたが、もう一つの資産運用の柱であった債券は魅力が低下しています。

日本では国債のようなリスクフリーの投資利回りに比べて不動産の投資利回りが相応に確保されており、低金利環境だからこそ不動産への投資は注目されてきました。そのような中で、近時は小口の資金を集め不動産に投資する不動産クラウドファンディングが増加してきています。不動産クラウドファンディングは、小口で投資出来ること、利回りが比較的高いこと、株式市場に左右されないこと等を理由に個人の資金を集め、商品によっては発売後すぐに完売するものもあります。上場企業が不動産クラウドファンディングを手掛けることもあり、安心というイメージもあるのかもしれません。

では、不動産クラウドファンディングは本当に良い商品なのでしょうか。小口で投資可能な不動産投資商品であれば、J-REITも存在します。不動産クラウドファンディングの商品性について、今回はi-Bondという商品についてスポットを当て、そのメリットデメリットを見ていきたいと思います。

 

i-Bondとは

JASDAQ上場のマリオンが運営するi-Bondは1万円から手軽にスタート出来る不動産クラウドファンディングです。

予定分配率は1.5%となっており、普通預金利率の1,500倍である「第3のお金の置き場」として宣伝されています。申込・買取手数料は無料で、24時間365日買取請求がWebで可能な商品となります。

マリオンは不動産証券化商品の販売累計額が130億円を突破しており、不動産クラウドファンディングの大手と言えるでしょう。

対象物件は主に賃貸マンションとなっており、非常に分かりやすい商品です。通常の不動産クラウドファンディングであれば、予定分配率は4~10%程度となりますので、i-Bondの予定分配率は低くなっています。その代わり、いつでも買取請求=現金化が可能です。通常の不動産クラウドファンディングは途中解約が難しいものが多いため、i-Bondは流動性に優れているという点で、分配率が低くともメリットがあると考える投資家は多いでしょう。

そして、JASDAQ上場企業という信用力および不動産プロに不動産の運用を任せられ、いつでも現金化可能であり、1万円から手軽に投資可能な運用商品であるというのは十分に個人投資家を惹きつけるものとなっていると思います。

 

i-Bondの対象物件・仕組

このi-Bondが安心出来る仕組みなのか、もう少し細かく見ていきましょう。Webで公開している情報を見ると以下の物件・ストラクチャーで投資していることが分かります。

 

(1)対象不動産1

  • 物件所在地:東京都荒川区西日暮里
  • 物件種類:共同住宅、14戸
  • 築年 2019年2月築

(2)対象不動産2

  • 物件所在地:北海道札幌市中央区北12条
  • 物件種類:共同住宅、58戸
  • 築年:2007年6月築

(3)対象動産3

  • 物件所在地:東京都渋谷区代々木
  • 物件種類:共同住宅、15戸
  • 築年:2019年3月築

(4)対象動産4

  • 物件所在地:東京都練馬区中村北
  • 物件種類:共同住宅、13戸
  • 築年:2014年4月築

(5)対象不動産5

  • 物件所在地:愛知県名古屋市中区新栄
  • 物件種類:共同住宅、50戸
  • 築年:2007年5月築

 

それに対する出資の内訳は以下のようなっています(予定額含む)。

  • 出資予定総額2,867百万円
  • うち優先出資予定総額2,724 百方円
  • うち劣後出資予定総額143百万円

 

i-BondはJ-REITや不動産ファンドとは異なり借入を活用しておらず、全て出資(エクイティ)によって物件を取得しています。

そして、劣後出費はマリオン自身が拠出しています。もし投資不動産を売却して損が出たとしても、劣後出資部分まではマリオン自身が損失を被る仕組みとなっています。

また対象物件の鑑定評価額は2,880百万円となっており、割高な物件を購入している訳ではないことが説明されています。

これだけを見ると、悪くない立地・築年数の物件に思えますし、出資持分をいつでもキャッシュ化出来ることもあり、更にマリオンが一部リスクを負担しているため、非常に優れた投資に見えるでしょう。

 

i-Bond の問題点

i-Bondは非業に面白い仕組みの投資商品です。特に、1.5%の予定配当利回りでありながら、いつでも現金化出来るという点は特徴的です。

これは、銀行が良い水準の預金金利を預金者に提供出来ていないからこそ、魅力があるものと言えるでしょう。

但し、筆者はi-Bondはあまり「筋が良くない」商品だと考えています。

まず、上場企業であるマリオンが不動産下落リスクを一部負担しているため、安全であるという宣伝をしている点です。

出資総額のうちマリオンの劣後出資総額は5%となっています。

これは言い換えれば、対象物件売却価格が出資時よりも5%を下回る金額となった場合には、投資家が損失を被るということです。

一戸建ての話にはなりますが、2020年11月における首都圏の中古一戸建て平均価格は「前月比」-4.8%となっています(東京カンテイ調査)。あくまで平均ではあり、賃貸マンションではなく戸建を例として出しましたが、不動産価格は5%程度であれば比較的簡単に動きます。

もちろん売却しなければ顕在化することはありませんが、5%の劣後出資という「クッション」は安全とは言えないでしょう。

他の不動産クラウドファンディングの案件では2割程度を事業者が劣後出資を行っているものもあります。このような商品では、2割の下落リスクを事業者が引き受ける一方で予想分配利回りは4%以上となっていたりします。但し、投資の中途解約は出来ません。

そのような商品と比べると、i-Bondは、いつでもキャッシュ化が出来る流動性がある代わりに、予想分配率が低く、安全性も低いのです。そして、投資した元本は(恐らく)変動しないでキャッシュ化される仕組みとなっています。どちらの商品が良いかは、投資家の運用に対する考え方によるでしょう(どちらが良いとか悪いということはありません)。

但し、そもそもキャッシュ化がいつでも出来るということが「何を意味するか」を考える必要はあります。

不動産へ投資する商品は、基本的に簡単にキャッシュ化は出来ません。これは当然と言えば当然で、収益不動産は一旦投資してしまうと、売却しない限り賃料しか入ってきません。そして不動産は一部分だけを売却することも難しく、物件丸ごとであったとしても簡単に売買が成立するほど流動性がある資産ではありません。出資者がキャッシュ化をしたいと望んだ場合には、通常だと物件全体を売却しなければならないのです。但し、それだと運用を継続したい他の投資家に迷惑が掛かってしまったり、時期的に低い価格でしか売ることが出来ないこともあり得ます。そのため、不動産投資商品は、通常はキャッシュ化に何らかの制限を設けています。

出資者にとって、いつでも出資持分をキャッシュ化出来ないというのは大きなデメリットです。そこで、出資者にとっての流動性を確保するために、上場リートは出資者間での出資持分の売買を株式市場を用いて行っています。投資した物件を売却するのではなく、出資者間で投資した権利の売買をすることで投資家のキャッシュ化を容易にしているのです。これが上場リートの特徴です。

i-Bondの場合は、上場リートのような仕組みは取れません。それでも、24時間365日キャッシュ化出来るということは、投資家から買取(=キャッシュ化)の申し込みがあった際には、恐らくマリオン自身が買い取っているものと想定されます。そのため、i-Bond は不動産ク ラウドファンディングとして、不動産への投資ではあるものの、かなりマリオンという運営事業者のリスクに依拠していることになります。

 

マリオンの業績

では、上場企業としての信用力を売りにしているマリオンの業績はどのような状況でしょうか。

 

<2020年9月期業績概要>

  • 売上高3,769百万円(前年同期比+37.8%)
  • 経常利益386百万円(同+20.1%)
  • 当期純利益258百万円(同+16.6%)
  • 総資産16,079百万円
  • 純資産3,810百万円
  • 現預金1365百万円
  • 自己資本比率23.7%

 

少なくとも2020年9月期の業績は堅調であり、自己資本比率も相応の水準にあります。信用力がある程度あることは間違いないでしょう。

但し、2020年9月時点では現預金が1,365百万円となっている一方で、i-Bondの外部からの出資額(実績)は1,795百万円です。24時間365日換金可能という商品性ではあるものの、i-Bondの投資家が一斉に出資額を現金化したいと申し入れをした場合には、マリオンは対応が出来ません。もちろんi-Bondのために銀行からいつでも資金を借り入れることが可能な融資枠を確保していれば対応は出来ますが、少なくとも手元の現預金という観点からは留意が必要でしょう。

JASDAQ上場企業だとしても、必ずキャッシュ化が出来るということではないのです。

 

まとめ

今回は、不動産クラウドファンディングの一つの例として、マリオンが運営するi-Bondについて確認しました。

i-Bondは24時間365日換金可能という点では非常に面白い商品です。しかし、上述のようにこの商品は不動産投資商品というよりは、換金リスクをマリオンの信用力に依拠しているという点で、実質的にはマリオンに不動産担保融資を行っているようなものです。

マリオンは、2020年9月期で支払利息を83百万円計上しており、長短合わせた借入金は6,220百万円です。単純計算すると年間の調達金利は1.33%となります。モノ言わぬ個人から1.5%で資金を調達するのはマリオンにとっては悪くない取引なのではないでしょうか。

不動産クラウドファンディングは、何か画期的な新しい運用商品ではありません。あくまで、「資金の集め方が新しい」だけなのです。基本的な仕組みは、収益不動産に投資し、投資収益を出資者に配るだけです。

不動産クラウドファンディングだからといって投資利回りが高くなることはあり得ません。あくまで小口投資が可能であるといったメリットが投資家にあるだけなのです。

一方で、不動産クラウドファンディングを運営する事業者の側から見た場合には、不動産クラウドファンディングには取り組むためのメリットがあります。

個人からWebを活用して小口で資金を集めるため、今までは投資家ではなかった層が投資家になる可能性があります。個人は、プロの投資家ほどには利回りや仕組みにうるさくありませんので、低い利回りでも許容する可能性もあります。また、法人の投資家が買わない物件だったとしても、個人の投資家なら買ってくれるかもしれません。

これは言葉を換えれば、知識・経験の浅い個人をカモに出来るということになります。不動産クラウドファンディングといっても、通常はプロの不動産会社が開発した物件を、SPCを通じて個人に売るというだけです。これは、スマートデイズが「かぼちゃの馬車」を個人に販売していたのと基本的には変わりません。一棟を小口化して大勢の個人に売るか、一棟をそのまま個人に売るかだけの違いとも言えます(i-Bondの場合は、現金化可能なので、完全に一緒ではありませんが)。

不動産クラウドファンディングだろうと、不動産投資の基本は「物件」です。立地、築年数、賃料水準、空室率といった重要なポイントを押さえなければなりません。物件がダメな不動産投資は、いずれにしろ失敗します。投資家としては「騙されないように」「カモにされないように」当たり前に注意が必要なのです。