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TATERUの2018年度3Q決算分析~資金繰り問題が発生する可能性も~

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TATERUという企業をご存知でしょうか。

スマートデイズのシェアハウス問題では、購入希望者の預金残高が水増しされる等の事象が発生し、その改竄された資料を基に、スルガ銀行からオーナーへの融資が実行されました。

TATERUでも同様の問題があったことが発表されています。この問題によりTATERUの決算が変調を来しています。

今回は、このTATERUの決算について確認していきましょう。

 

報道内容 

まずは、TATERUの2018年度3Qにおける業績概要について以下の記事を引用します。

TATERU、今期純利益15%減に下振れ 融資資料改ざんで受注減

2018/11/12 日経新聞

東証1部上場でアパート開発・管理を手掛けるTATERUは12日、2018年12月期の連結純利益が前期比15%減の33億円になる見通しだと発表した。21%増の48億円との従来予想から一転して減益予想となる。顧客の融資資料を改ざんしていたことが発覚し、顧客からの受注取り消しや工事の進捗悪化による引き渡しの遅延が発生。今期計画していた引き渡し予定数が900棟から約180棟減少することを見込む。24億円の投資有価証券売却益を計上したが補えない。

売上高は8%増の722億円となる見通し。従来予想は766億円だった。不動産投資型のクラウドファンディング事業で10月以降、新規ファンドの組成を停止している影響も出た。営業利益は48%減の30億円となる見通し。従来予想の21%増の71億円から大幅に下振れする。土地の仕入れ単価が計画を上回ることも響く。

同時に発表した18年1~9月期の連結純利益は72%増の32億円だった。売上高は20%増の508億円、営業利益は13%減の25億円だった。

これがTATERUの決算発表の概要です。

では、以下でもう少し詳しく見ていきましょう。

 

TATERUの決算におけるポイント 

2018年8月にTATERUの従業員が、顧客から提供を受けた融資関連書類を改ざんしていたことが発覚し、主力のアパートメント事業の受注が大幅に悪化しています。

アパートメント事業の成約は、2018年12月期2Q(4-6月)は255件でしたが、事件発覚後の3Q(7-9月)は45件に減少。そして、2Qで成約した255件も、133件が契約取り消しになったと発表されています。

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(出典 TATERU2018年度3Q決算発表資料)

TATERUは、2018年5月に公募増資により131億円を調達し、2018年度中間決算時点では188億円の現預金を保有していました。

また、2018年9月に保有株式の売却により24億円の利益を計上していますので、それ以上の現金を獲得したと思われます。

一方で、2018年度3Q決算期末(2018年9月末)の現預金は70億円となっています。

この要因は、販売用不動産と仕掛販売用不動産の増加です。

<2018年9月末時点>

  • 販売用不動産 149億円(2017年12月末=18億円、2018年6月末=34億円)
  • 仕掛販売用不動産 49億円(2017年12月末=14億円、2018年6月末=26億円)

以上の通り2018年6月末比では+138億円の資産増加となっています。

会社側の説明では、「4Q竣工引渡しのための着工数増加による季節的変動」「受注キャンセル及び引渡遅延による増加」「TATERU Fundingの新規ファンド中止による一時的増加」とされています。 

2018年6月末の現預金188億円+株式売却24億円(保守的想定)=212億円ですので、212億円-138億円=74億円となります。

すなわち、TATERUに現在起こっていることは、アパートメント事業でキャンセル、クラウドファンディング事業でもファンド組成の中止が発生し、自社で抱えるはずではなかった不動産を販売用不動産等として抱えざるを得ないということです。

そして、他の事業ではキャッシュが生み出せていないことも示しています。

TATERUが増資していたからこそ資金繰り破綻はしていませんが、本当に不動産を引き取らなければならない契約を締結していたのであれば、TATERUは資金ショートいていたでしょう。

TATERUは2018年9月末時点で借入が31億円となっており、借入負債が重すぎることはありません。

しかし、アパートメント事業でさらに在庫不動産の仕入れをせざるを得ない(すなわち既に売買契約を締結している等)のであれば資金繰りにかなりの問題を抱えていることになります。

また、増資は以下の資金使途のために実施しています。この計画が完全に狂ってしまっており、対投資家の信頼を取り戻すのは難しいでしょうから、再度の増資によって資金調達を行うというのは現実的ではないでしょう。

<増資における資金使途>

①既存事業及び新規事業における事業拡大資金

(ア) ITエンジニアをはじめとする人材採用にかかる費用、当社グループの事業拡大及び開発力増強のための人員増員等に伴う人件費及び安定した人材確保のためのオフィス移転や開発環境充実のための内装工事の費用として平成32年5月までに1,600百万円

(イ) 「TATERU」の知名度向上のためのブランディング費用及び会員獲得のためのインターネット広告費用として平成32年5月までに2,400百万円

(ウ) 機械学習技術を用いた業務自動化等、不動産業界にAI(人工知能)やIoTの技術を活用することを企図した調査研究活動を実施するために要する人件費等として平成32年5月までに200百万円

(エ) クラウドファンディング事業の事業展開を加速するために要する用地取得、建築費用等の運転資金として平成32年5月までに2,500百万円

(オ) IoT事業における機器の仕入に伴う運転資金として平成32年5月までに1,000百万円

(カ) 新規事業である不動産ポータルサイト「TATERU Buy-Sell」の立ち上げ資金として平成32年5月までに400百万円

②リアルエステートテック企業として更なる成長

・シェア拡大のための投資及び出資資金として平成31年4月までに1,500百万円

なお、上記投資又は出資が計画通り進行しなかった場合、TATERU Apartment事業の事業規模拡大に伴い増加する受注済み工事原価の資金の一部に充当する予定であります。

③短期借入金の返済資金として平成30年12月までに約1,674百万円、1年内返済予定の長期借入金及び長期借入金の返済資金として平成30年12月までに1,900百万円

以上が筆者が簡単に評価するTATERUの2018年度3Q決算です。

将来のことは分かりませんが、TATERUには相応にリスクがあると考えます。

 

もし、TATERUの株式に投資を考えている方、TATERUの開発物件に投資家を考えている方がいれば、少し立ち止まって考えてみるのも良いかもしれません。