金融庁が、投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果を発表しました。
スルガ銀行のシェアハウス融資問題を発端に、金融庁では、個人が投資目的で居住・宿泊用不動産(アパート・マンション、シェアハウス等)を取得するための投資用不動産向け融資に関して、金融機関における融資の規模や管理態勢の状況を横断的に把握するため、幅広い金融機関に対してアンケート調査を行っていました。
このアンケート結果からは、金融庁の対応方針が見えてくると共に、銀行が投資用不動産向け融資をどのように運営していくのかについての方向性が想定出来ます。
今回は金融庁の投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果について確認しましょう。
報道内容
まずは金融庁のアンケート結果についてどのように報道されているかを確認しましょう。概要がつかめると思います。
投資用不動産融資、8割が確認不十分 金融庁調査
毎日新聞 2019年3月28日金融庁は28日、全国の金融機関を対象にした投資用不動産向け融資の実態調査の結果を公表した。顧客の財産に関する書類について、銀行の82%、信用金庫・信用組合の78%は確認作業が不十分だった。投資用不動産市場が拡大する中で、融資の不適切な審査がまん延していたことが明らかになり、金融庁は立ち入り検査などで改善を促す方針。
調査はスルガ銀行の不正融資問題を受け、昨年10~11月に実施した。投資用不動産向け融資の実行額や残高のほか、スルガ銀の問題が浮上した昨年3月期以前の融資審査なども調査項目に据えた。
銀行121行の投資用不動産向け融資の実行額は、16年度の5.4兆円をピークに減少に転じ、18年4~9月の半年間は1.9兆円だった。金融機関がスルガ銀の問題発覚以降、融資を縮小していることが分かった。
金融庁は融資の可否を審査する際、顧客の財産や収入を証明する書類の偽造を防ぐため、原本を確認するよう金融機関に求めている。しかしスルガ銀は、顧客との間を仲介する不動産関連業者がこうした書類をコピーして改ざんしたことを認識しながら融資を繰り返していた。
預金通帳など財産の現状を示す書類について、調査に回答した銀行115行のうち原本を確認していたのは18%にとどまった。9%は全く確認せず、残りは一部の顧客の書類しか確認していなかった。信金・信組の原本確認は22%で、全く確認していないという回答は12%あった。
また不動産関連業者との取引を停止する規定がある銀行は16%、信金・信組は1%だった。不正を把握しても業者を排除できない可能性がある。
以上が概要でした。
アンケート調査結果報告書のポイント
まず、アンケートを全国の銀行に対して提出するように求めた金融庁の問題意識について確認しておきましょう。
富裕層の顧客が相続税対策等を目的として、自身が所有する土地に建物を建設するための資金を融資するといった従来のアパートローンとは異なり、給与所得者等の顧客が資産形成目的で土地・建物を一体として取得するというレバレッジの高い投資に対して資金を融資するものであり、顧客・金融機関双方にとって相対的にリスクが高い。一方で、返済期間が長期にわたり、一般的に融資期間の初期にリスクが顕在化することが少ないと考えられている中で、中長期視点からのリスクの検討が不十分なまま高額かつ高利回りの担保付融資を積み上げるといった、融資規律の緩みが生じていないか。
事業意欲のある顧客が金融機関に直接借入の申込みを行うのではなく、不動産関連業者が顧客に投資用不動産の取得を勧誘し、取得資金を融資によって得させるために金融機関に対して当該顧客の紹介を行う(以下、こうした不動産関連業者を「紹介業者」という)。 この際、金融機関は顧客の資金需要の掘り起こしや顧客からの審査関係資料の受領等の事務を紹介業者(またはこうした融資の保証を行う保証会社)に依存することで、金融機関と顧客とのリレーションが希薄となり、事業・収支計画、顧客のリスク理解度や財産・収入の状況等を把握しづらくなるといった事態が生じていないか。
金融機関が過度に業績を追求し紹介業者への収益面での依存を高めることで、紹介業者が力関係上優位となり、金融機関が紹介業者に不利となるような融資審査・顧客説明を十分に行えなくなるほか、紹介業者の業務に係る適切性を検証することが難しくなるといった事態が生じていないか。(出典 金融庁/投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果)
金融庁の問題意識は理解できる面もあります。
土地建物一棟での投資案件は、自身が保有していた土地を活用する場合等と異なり資産対比で借入割合が大きくなる可能性が高いことは間違いありません。
そして、そのような一棟建向け融資について金融庁は以下のようにアンケート結果報告書に記載しています。
一棟建(土地・建物)向け融資は住宅ローンと異なり、賃貸事業が長期的に生むキャッシュ・フローの水準が債務の返済を大きく左右し、融資額も大きくなる(事業性融資の性格が強い)。これを踏まえれば、金融機関においては、
- 融資の主な返済原資は物件が生み出すキャッシュ・フローであると捉えたうえで、
- 物件がキャッシュ・フローを生む期間(耐用年数)をできる限り客観的に検証し、当該耐用年数と整合的な融資期間を設定し、
- ストレスも勘案した完済までの収支シミュレーションに基づき、賃貸事業としての妥当性や返済可能性を見極めることが重要。
(出典 金融庁/投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果(主なポイント))
ここまで金融庁が意見を述べるということは、上記の仕組みに従うことを求めていると考えて良いでしょう。
この考え方は、投資不動産向けの融資を投資家・オーナーが受けることがかなり難しくなることを示しています。
多くの銀行は、融資の返済原資を「物件が生み出すキャッシュ・フロー(=賃料)」のみならず「債務者の給与所得」等物件以外の定期収入を加えて検討しています。そのため、少々収益性が低い(購入金額が高過ぎる)物件であろうと、定期的な収入があれば貸出が行われてきたのです。
物件が生み出すキャッシュ・フローを主な返済原資とすることは不動産の選別が今以上に行われると共に、価格の上がっている物件に対して融資が付かなくなる可能性が高くなります。
そして耐用年数を客観的に検証して融資期間を決めるとするならば、通常の金融機関は保守的に考え始めます。そのため、築年の古い中古物件に融資が付きづらくなるでしょう。
また、以下のように貸出実行後も貸出債権の管理を精緻化するように求めています。
融資実行後に個別に信用格付の更新を行うか否かについて一定の残高基準を設けている金融機関が多い。
- 実行後に空室率・賃料を確認する比率が低い金融機関もあり。
- 実績を踏まえた収支見込の更新を「一切行っていない」とする金融機関が約半数。期中に返済可能性の見直しが行われないケー スが多数と推察。
(出典 金融庁/投資用不動産向け融資に関するアンケート調査結果(主なポイント))
このように金融庁は投資用不動産向け融資につき、貸出実行後も管理を求めています。一度貸出を行ったら放置するのではなく、物件の状況等について確認を続けるべきとしているのです。これは銀行からすると債権管理コストが上昇する=収益が低下することになり投資用不動産向け融資を行うインセンティブが低下します。特に、管理コスト(主に人件費)は貸出金額の多寡にかかわらずほぼ一定のため、少額の投資用不動産向け融資を銀行側が忌避するようになる可能性があります。
所見
以上で見てきた通り、金融庁は投資用不動産向け融資について、アンケートの調査結果を用いながら、かなり具体的に銀行に対してベストプラクティスを示しています。
この動きによって、金融庁が勧めている考え方を採用しない銀行は、金融庁から相当なプレッシャーを受けることになるでしょう。
銀行は規制業種であり、許認可は金融庁が握っています。銀行は本質的には「お上」に逆らえないのです。
そのため、投資用不動産向けの融資は、前述の通り大きな影響を受けるでしょう。個人投資家にとってみれば、融資を受ける難易度はかなり上昇します。そして、融資を受けられたとしても想定よりも少ない金額しか融資されないこともあるでしょう。
この動きは、結果として不動産マーケットの一部を低迷させます。融資が付かなければ不動産マーケットが調整されるのは過去の事例が示しています。そして、不動産マーケットの調整が明らかとなれば、さらに融資の基準は厳しくなっていくのです。
これが今後起こる可能性があることです。