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ASEAN主要国における不動産規制~ベトナム・マレーシアの事例~

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日本の不動産価格は高止まりが続いています。そろそろピークを迎えるのではないかと言われながらも、下落に至っているわけではありません。

しかし、日本の人口動態を見れば、長期的には確実に人口対比で不動産が余剰となります。

そのため、個人として投資するならば、経済成長の続く海外への不動産投資の方が良いと考える方もいらっしゃるでしょう。もしかしたら様々な不動産業者から既に勧誘があるかもしれません。しかし、海外では国によって日本では想定していない不動産の規制があります。

近時は、成長が期待出来るASEAN各国への不動産投資が特に企業において多く見られるようなってきていることから、ASEAN主要国における不動産投資規制について見ていくことにしましょう。前回はタイとインドネシアを取り上げました。今回はベトナムとマレーシアを見ていきます。

 

ベトナムの事例

では、ベトナムの不動産について簡単に確認していきましょう。

ベトナムでは「土地は国民の共有財産」であり、政府の管理下に置かれています。

外資系企業、事業協力契約の外国当事者は、投資案件の実施にあたり土地を所有することは出来ません。すなわち、政府から土地を賃借することになります。

費用は、2014年6月30日付2014/TT-BTNMに従い、土地、水面、海面の使用量を算定し、賃借料を支払うことになります。

以下、ジェトロのサイトを引用します。

<外国企業の土地所有の可否>
外資系企業、あるいは事業協力契約の外国当事者は、投資案件の実施に際して、土地を所有することは認められず、ベトナム政府から土地使用権を取得する形になる。

<土地使用権>
ベトナムでは、土地は国民の共有財産であるとともに、政府の管理下に置かれている。政府が土地を使用する者に土地使用権を付与する。
外国の組織は、外交の機能を営むもの(領事機関、国連に属する組織の代表組織など)を除き、土地使用権の付与の対象にはならない。外国の組織が土地使用権者から転借することは可能である。
他方、外資系企業(100%外資企業、合弁企業など)は、次の場合には土地使用権を取得することが可能である。

<外資系企業が、現物出資として土地使用権を受け入れる場合>

  • 外資系企業が、販売および賃貸の目的で居住用家屋を建設する投資プロジェクトを実施するため、政府から土地使用権の割当を受ける場合
  • 外資系企業が土地使用権を保有するその他の会社を取得することにより、土地使用権を取得する場合
  • 土地使用権を保有するベトナム現地企業が、外国の投資家の出資を受けることにより外資系企業となる場合
  • 外資系企業が国家から土地使用権を賃借する場合
  • 外資系企業がべトナム政府より年払いで賃借している土地に付属している資産を取得する場合(べトナム政府は売主から土地を引上げ、買主に残存期間賃貸する)

(出典 ジェトロホームページ)

なお、2015年に外資系企業や外国人に対して住宅の所有制限が一部緩和されています。

これについては以下、国土交通省のサイトからも引用します。

2015年7月1日から施行された改正住宅法で、企業など外国の組織と外国人に対する住宅の所有制限が一部緩和された。ベトナムに入国を許可された外国人は住宅を所有でき、賃貸も条件付きで可能となった。ただし、所有率は集合住宅1棟当たり30%までで、1戸建ても1つの町村で250戸を超えてはならない。また、購入できるのは、住宅建築プロジェクトにおいてのみで、既存の一般住宅街では原則認められない。

ベトナム政府は、ベトナムへ投資する外国企業に対して優遇措置を用意している。投資プロジェクトの土地使用の期間は50 年を超えないものとなっているが、投資額が大きくて資本の回収に時間がかかるプロジェクトや社会的・経済的条件が困難な地域への投資プロジェクトについては70 年を超えないものに緩和される。

外国人がアパートやマンションを購入する場合には、所有権の存続期間は50年(延長可能)であり、居住以外の投資目的等で購入することはできない。また購入することが できる外国人の要件にも制限がある。購入可能な外国人は「ベトナムで入国許可を得た者で、外交特権を有しない者」とされている。

(出典 国土交通省ホームページ)

上記の条件から、マンション1棟丸ごとの買い占めや、大規模開発の分譲住宅を全て買い占めるような購入は不可とされています。

また注意しなければならないのは、日本人がベトナムで新築のコンドミニアム(いわゆるマンション)を購入しようとした場合、対象のコンドミニアムが他外国人により全体の30%分を購入されていると、購入したくとも買えないということです。また、基本的には中古物件の購入は外国人に認められていません(外国人の所有物件を引き継ぐという方法はあるようですが)。

ベトナムにおける不動産投資では、居住目的以外、すなわち投資目的での購入は出来ないとされていますが、個人は賃貸物件として家賃収入を得ることが出来ているようです。一方、住宅分野では企業での購入物件は賃貸することが禁じられているようです。従って、ベトナムで投資目的でレジ物件を購入する場合は個人名義で購入することになります。

ベトナムは登記に1年かかるような国でもあります。

ベトナムへの不動産投資は徐々に喧伝されているようですが、様々なリスクを踏まえて投資すべきでしょう。

 

マレーシアの事例

次にマレーシアです。

外資、外国人による不動産取引は可能です。

ただし、土地・不動産の所有に関しては政府の認可が必要となります。

また、商業物件は、現地法人の設立が必須となります。

不動産取得に関してはマレーシア経済企画庁よりガイドラインが出されています。

最低取得額については、マレーシアの土地は州の管轄ですが、外国人または外資50%超の現地法人による100万RM以上の不動産取得については州政府および他所管庁の認可により保有が可能となっています。

こちらも以下でジェトロのサイトから引用します。

<外国企業の土地所有の可否>
マレーシア国内の土地は州によって管轄されており、土地・不動産を所有するためには、州当局の認可を得て土地の登記を行う必要がある。住宅に関しては、外国人個人による登記も認められているが、商業物件、工業用地、農業用地については、現地法人を設立して登記しなければならない。
不動産の取得に関しては、経済企画庁(Economic Planning Unit:EPU)がガイドラインを発行している。
GUIDELINE ON THE ACQUISITION OF PROPERTIES (270KB)(現行2014年3月発行)

当該ガイドラインの概要は次のとおり。

  • EPUの承認と取得条件を満たす必要がある不動産取得価値が2,000万リンギ以上の不動産を外国企業が直接取得する場合で、その結果、ブミプトラ関係者(ブミプトラ個人、ブミプトラが支配する現地会社)および/または政府機関が保有する不動産の所有権が希釈化する場合。
  • 資産総額の50%超の不動産を所有する会社の非ブミプトラ関係者(非ブミプトラ個人、非ブミプトラが支配する現地会社)による株式取得を通して不動産を間接的に取得した結果、ブミプトラ関係者および/または政府機関の所有する会社の支配が変化することになり、かつ不動産の価値が2,000万リンギを超える場合。
  • 外国企業による不動産取得の条件は、次のとおり。ブミプトラ資本が30%以上
  • 最低払込資本金:マレーシア人が50%超所有する現地会社の場合:10万リンギ
  • 外国人、外国の会社が50%超所有する現地会社の場合:25万リンギ

最低取得額2014年3月1日より、外国関係者による不動産取引については、最低取得額が50万リンギから100万リンギに引き上げられた。
外国人または外資50%超の現地法人による100万リンギ以上の不動産取得については、EPUへの申請は不要だが、州政府やその他の所轄官庁による認可は必要。
農業用地の取得については、取得額が100万リンギ以上、もしくは5エーカー以上の面積の物件で、次の目的での使用に制限されている。

(中略)
なお、外資50%超の現地法人が従業員寮の物件を取得する際は、最低取得額が1戸当たり10万リンギとなる。
その他「マレーシア・マイ・セカンドホームプログラム」の下での滞在者用住居に対しては、EPUガイドラインの規定が免除されている。

土地取得にかかる申請先は土地登記局を含む各州の当局であるが、EPUガイドラインが適用される場合は、首相府経済企画庁(Economic Planning Unit )にも申請しなければならない。

(出典 ジェトロホームページ)

マレーシアにおいては、最低取得額について注意することがポイントとなります。

また、マレーシアでも投資資金が流れ込んできたこともあり、不動産価格がそもそも上昇していると認識しておいた方が良いでしょう。またコンドミニアムも地域によっては乱立し供給過剰となっている可能性があります。利回りが低く、そもそも賃借人が見つからない物件に投資してしまう可能性もあるのです。また、ベトナム同様に為替の変動リスクも留意すべきです。

ASEAN各国は成長性が期待されていますが、リスクもかなりのものがあります。リスクが少なく、投資して儲かるのであれば、世界中から誰もがその国に投資するでしょう。自分・自社だけが上手くいくと信じる根拠はないのです。