銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

「#二回目の現金一律給付を求めます」は現実的に厳しいのではないか?

f:id:naoto0211:20210111121003j:plain

「#二回目の現金一律給付を求めます」

一都三県に緊急事態宣言が出される現状に、ネット上では「#二回目の現金一律給付を求めます」が数日前にトレンド入りしました。

緊急事態宣言が出された段階で予想されていたことではありますが、「自粛を国民に求めるなら生活の影響を受ける個人に給付金を直接欲しい」という個人がそれなりに存在しているということでしょう。

しかし、本当にこの個人へ配られる給付金は意味があるのでしょうか。

そして、その財源はどのようになるのでしょうか。

今回は「二回目の現金一律給付」について簡単に考察してみたいと思います。

 

一回目の定額給付金

まず全国民一律の定額給付金は、政府が消極的だろうと思われます。

その理由は、一回目の定額給付金が結局のところ預金に回ってしまっただけに終わったと政府が想定しているからです。

麻生副総理兼財務相が「10万円給付、その分だけ個人の貯金に回っただけだった」と発言したことが話題となりましたが、この発言は真実なのでしょうか。

日銀の統計によると、2020年4月の個人の預金は489兆円です。同年6月は502兆円となっており、4月と6月の預金額の差は13兆円です。尚、同年7月は504兆円(4月比+15兆円)、8月は507兆円(4月比+17兆円)となっています。

尚、普通預金だけを抜き出しても2020年4月が308兆円が同年6月に321兆円に増加しており、その増加額は13兆円です。尚、同年7月は323兆円(4月比+15兆円)、8月は325兆円(4月比+17兆円)となっています。

この預金増額の要因は夏のボーナス(賞与)によるものだろうと考える方もいるでしょう。

しかし、コロナの影響がない2019年で見ていくと、2019年4月の個人預金は475兆円、同年6月=477兆円(4月比+2兆円)、同年7月=476兆円(4月比+1兆円)、同年8月=477兆円(4月比+2兆円)となっています。

やはり2020年の個人預金増加の要因は、定額給付金によるものが大きいと想定されるのです。

定額給付金はご承知の通り国民一人に10万円ずつ給付されました。2020年4月1日現在、日本の国民は概算で1億2,596万人とされていましたので、定額給付金は総額で12.6兆円程度給付されました。

まさに、統計上は定額給付金の分が、そのまま預金に残ったと言えます。

 

税金を返せという声

「#二回目の現金一律給付を求めます」という声には、このような時だからこそ「税金を返せ」という声が散見されます。 

ただ、ほとんどの国民は既に何らかのサービスを受けています。例えば、以下のようなモノが分かりやすいでしょう。 

f:id:naoto0211:20210111122244g:plain

(出所 国税庁「公立学校の児童・生徒一人当たり年間教育費の負担額*平成 29 年度」)

子供一人当たりの受益は上記の通り多く、日本は子育てに優しくないとは思いますが、一方で相応の利益を親は得ているのも事実です。

また、以下のような日々の生活を守るためのコストも税金から支払われています。 

f:id:naoto0211:20210111122056g:plain

(出所 国税庁「身近な財政支出(国と地方公共団体の負担額合計)*平成 29 年度」)

筆者は国の回し者ではありませんが、「税金を返せ」と主張しても、実際にはかなりの人が税金(コスト)以上に利益を享受しているという現実があります。

以下は一つのシミュレーションです。 

夫婦子2人(片働き、大学生・中学生)のケースで、給与所得者の所得のうちその金額までは所得税が課されない給与収入(「所得税の課税最低限」)は日本の場合285.4万円です。これに一般的な給付措置を加味した際に、税額が給付額と等しくなる(実質的に負担額が生じ始める)給与収入は631.5万円と試算されています(2020年1月時点の場合)。

f:id:naoto0211:20210111121110g:plain

(出所 財務相Webサイト https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/b02.htm)

ちなみに上図の通り、夫婦と子供一人で片親が働いている場合には、税額が給付額と等しくなる(実質的に負担額が生じ始める)給与収入は534.6万円と試算されています。(筆者にはどうにも実感は湧かないのですが)子供がいるということはかなりの受益を税金で得ていることになります。

すなわち「税金を返せ」と主張しようにも、国の目線に立てば、かなりの確率で「返す税金は無い」ということになってしまうのです。これも我々国民としては認識しておくべき事実なのでしょう。

 

所見

現金の一律給付は国民一人当たり10万円だと12.6兆円が必要となります。

以下は国の一般会計における2020年度の当初予算です。

f:id:naoto0211:20210113175332p:plain

(出所 財務省Webサイト)

12.6兆円という金額はかなり巨額です。

公共事業と文教及び科学振興での歳出を合計すると12.4兆円公共事業と防衛における歳出を合算すると12.2兆円です。もしくは言い方を変えて、公共事業の歳出の2倍は13.8兆円です。前回の定額給付金の歳出規模がいかに巨額かが分かるでしょう。

無駄が多いと言われてきた公共事業でも国民一人当たり10万円の定額給付金の予算よりも圧倒的に少ないのです。

そして、この定額給付金が一回目の時には、一部の個人・世帯を救ったことは間違いないとはいえ、日本全体では貯金に回ってしまったという事実があり、効果的ではないと思われます。

そして、財源です。以下の図表は2020年度までの一般会計歳出と税収・国債発行額の推移です。ワニの絵が描かれているのは、ワニの口のように歳出と税収との差が広がってきていることを表しているのでしょう。

f:id:naoto0211:20210113181929p:plain

(出所 財務省Webサイト)

この図表を見て頂くと、日本は平時から医療費等社会保障費の増加等によって支出と収入のバランスが取れていません。(もちろん、支出と収入のバランスを今の段階では気にする必要はないという主張がコロナ前からあることは認識しています)

もちろん、今は、非常事態であることは間違いありません。

「国の借金を気にしてもしょうがない」「今が大事」という考えは当然にあるでしょう。

しかし、全体としては効果が薄いと思われる施策を何度もできるほどに、日本の財政に余裕があるとは筆者には思えません。困窮している国民を救う方法は、他にやり方があるのではないでしょうか。