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GPIFの2019年度運用実績~足元の大幅赤字だけに注目すべきではない理由~

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公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(通称GPIF)が2020年1~3月期の運用実績を発表しました。

このGPIFの運用実績が3ヵ月間で過去最大の18兆円弱の赤字となったとして話題となっています。

今回はGPIFの公的年金資金運用について見ていくことにしましょう。

 

報道内容

2020年1~3月期のGPIFの運用実績については以下の記事が概要をつかめると思います。時事ドットコムニュースから引用します。

公的年金運用、17.7兆円の赤字 新型コロナで過去最大―1~3月期
2020年07月03日 時事ドットコムニュース

 公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は3日、2020年1~3月期の運用損益が四半期として過去最大となる17兆7072億円の赤字になったと発表した。赤字は5四半期ぶりで、新型コロナウイルスの流行に伴う株安が大きく響いた。この結果、19年度の運用損益は8兆2831億円の赤字に陥った。

 1~3月期の保有資産別の運用損益は、外国株が10兆2231億円の赤字。国内株も7兆4185億円の赤字を余儀なくされた。また、国内債も損失を計上する一方、外国債は黒字を確保した。
 19年度の損失額はリーマン・ショックが直撃した08年度(9兆3481億円)に次ぐ大きさで、収益率はマイナス5.2%。ただ、市場運用を始めた01年度からの累積収益は57兆5377億円と高い水準を維持している。

(出所 時事ドットコムニュース https://www.jiji.com/jc/article?k=2020070300837&g=eco

この記事で分かる通り、2020年1~3月期の公的年金運用の損失額は、▲17.7兆円となり四半期(3ヵ月間)としては過去最大となりました。

これにより2019年度の公的年金運用の収益率は▲5.2%となりました。

損失額はリーマンショックによってマーケットが大混乱を来した2008年度に次ぐ大きさです。

この巨額の運用損失を我々はどのように理解すれば良いでしょうか。そして、我々の公的年金の支給額に影響が出てくることはないのでしょうか。

 

運用実績

では、2019年度を通したGPIFの運用実績について、GPIFの発表資料を基に、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

 

まずはGPIFの市場運用開始(2001年度)からの収益額と収益率の推移です。

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(出所 GPIF Webサイト)

このグラフは、左軸に収益の絶対額、右軸に収益率としたものです。

2002年度、2008年度、2019年度が▲5%を超える収益率が悪化した年度です。

一方で、+10%を超える運用実績を確保した年度も多数あります。

すなわち、金融市場で運用をするということは、このようにアップダウンがあるのは当たり前であり、長期目線で徐々に運用リターンを獲得していけば良いのです。

特に、公的年金は100年安心という言葉が政治家から発せられたことがあるように、超長期の運用となります。

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 (出所 GPIF Webサイト)

これが2001年度から2019年度までのGPIFの累積収益のグラフです。

累積収益率は年率2.58%、累積収益額は+57.5兆円となっています。

2020年1~3月期に▲17.7兆円という運用損を出したとはいえ、累積収益率・額とも相応の結果が出ていると考えて良いでしょう。

そして、GPIFの2019年度末の運用資産別構成割合(年金積立金全体)は以下の通りです。

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(出所 GPIF Webサイト)

ご承知のように2020年4月以降では株価は大幅に回復しています。GPIFが上記の資産構成割合を変えていなければ、2020年4~6月期は大幅な利益が出るでしょう。

 

まとめ

GPIFの運用実績の報道は、常に損失が発生した際には大きく報道され、利益が出た時には小さな扱いとなります。

長期に運用収益を確保すれば良い公的年金の運用実績を一喜一憂するのは、あまり良いことだと筆者は思えません。

また、GPIFの運用が赤字となった場合には、公的年金が減らされるのではないかと心配される方もいらっしゃるでしょう。

ただ、この点については、あまりにも心配する必要はありません。

公的年金(厚生年金、国民年金)の給付総額は、約 55 兆円です。そのための財源の約7割は現役世代からの保険科収入でカバーされています。さらに2割強は税金(国庫負担) が投入されています。保険料収入と税金ではカバー出来ない部分(給付総額の1割未満)を GPIFが運用している年金積立金が補っています。

すなわち、年金積立金は、あくまで年金制度を安定させるためのものであり、運用の結果が現在の受給者の年金給付に直接影形響するような仕組みではありません。

2019年に年金の財政検証がなされましたが、おおむね100年後に年金給付1年分に当たる金額が残るように、 運用収入に加えて積立金本体も取り崩していく計画です。 この100年の間を平均すれば保険料と税金(国庫負担)で給付の約9割を賄う計画なのです。

公的年金の積立金(≒GPIFの運用資金)と公的年金の給付の関係は以下の図のようなものです。

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(出所 GPIF Webサイト)

GPIFの運用については、少し長い目線で、一喜一憂せずに、冷静に見ていけると良いように思います。