銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

コロナ禍におけるマクロの問題は、個人に余剰資金が滞留していること

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家計の手元資金が余剰になっています。

日本銀行(日銀)は資金循環統計として四半期ごとに各部門の資金過不足を公表しています。

今回は、コロナ禍において、この資金過不足がどのような状況になっているかを確認しましょう。

少しは、コロナ禍における政策のあり方のヒントになるかもしれません。

 

部門別の金融資産・負債残高

まずは、以下の図表をご覧ください。

これは、日銀が発表した2020年6月末時点の家計、民間非金融法人企業、一般政府、中央銀行等の金融資産・負債状況を表したものです。

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(出所 日本銀行/資金循環統計)

コロナ禍での資産・負債残高の状況でポイントとなるのは以下でしょう。

  • 家計(個人)の金融資産は、1,883兆円、前年比+1.8%
  • 家計の現金・預金は、過去最高の1,031兆円、前年比+4.0%
  • 家計の現金・預金は、2020年3月末より+31兆円増
  • 民間企業の金融資産は、1,185兆円、前年比+4.8%
  • 民間企業の現金・預金は、過去最高の308兆円、前年比+16.3%
  • 民間企業の現金・預金は、2020年3月末より+29兆円増
  • 民間企業の借入は、2020年3月末より+32兆円の454兆円

 

コロナ禍において家計と民間企業の現金・預金は増加しています。

特に民間企業は2020年3月末から6月末にかけて32兆円の借入を行い、現金・預金が29兆円増加していますので、借入のほとんどが現金・預金に滞留しているといえます。

また、上記図表ではないものの以下も公表されています。

  • 日銀の国債保有は521兆円、残高に占める比率は44.5%、保有残高、比率ともに過去最高
  • 海外の日本国債保有は150兆円、残高に占める比率は12.8%

日本国債は、その約半分を日銀が保有することになりました。

但し、海外部門が日本国債の保有の13%程度を占めるようになっています。

日本政府の「借金」が増えようとも現段階では、日本国債を国内で買い占めることができるから問題ないという論調が昔からありますが、留意すべき数字のように思います。

 

部門別の資金過不足

上記項目で述べた各部門別の資金残高について、別の切り口で見ていきましょう。

以下は部門別の資金過不足です。

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(出所 日本銀行/資金循環統計)

この図表見れば分かるように、家計はコロナ禍の中で資金余剰が急増しています。

家計の側から見ると、全国民を対象として特別定額給付金一律10万円の支給を受け、かつ外食・旅行等の支出が減少した結果、大幅な資金余剰となったということになります。家計の資金余剰額は2020年1~3月の4兆円から4倍超に急増しました。

一方で、安定的に資金余剰だった民間企業(民間非金融法人企業)は資金不足となり、一般政府も大幅な資金不足となりました。

民間企業は、2020年1~3月は6兆円の資金余剰でしたが、2020年4~6月には1兆円の資金不足となっています。これは、東日本大震災後の2011年4~6月における資金不足5兆円に次ぐ大きさとなっています。経済活動の停滞で売上が減少し、一方で人件費・家賃等は流出したことが資金不足に転じた要因です。

一般政府は、2020年1~3月の4兆円の資金不足から、2020年4~6月には19兆円の資金不足へと資金不足額が大幅に増加しました。過去最大の緊急経済対策に伴うものであり、リーマンショック後の資金不足を超えました。

 

所見

コロナ禍においては早期退職募集、企業倒産、非正規雇用の減少等々のニュースが流れがちです。

しかし、マクロ的に見ると、特別定額給付金は、ほとんど使われることなく家計に滞留していることになり、家計の資金余剰は高まっています。

これは言い方を変えれば、政府が借金して特別定額給付金を全国民に配りましたが、そのお金はそのまま国民が貯蓄してしまったことになります。もちろん、先の見えない中でしたので、家計という個人の不安感に対処するための施策であったことから意味が無かったとは思いません。しかし、政策の効果については、きちんと評価する必要はあるかもしれません。但し、家計が資金余剰になったのは、政府の様々な政策によって雇用が比較的維持されたことが大きいと思います。この点は忘れてはいけない論点です。

民間企業については、借入がほとんどそのまま現金・預金に滞留しており、予防的に資金を調達したに留まることが分かります。

日本全体で見れば、コロナ禍の2020年4~6月は、「民間の誰もがお金を使おうとしなかった」時期と言うことができます。

経済は、それぞれの主体が消費や設備投資という資金を使うことで回っています。コロナはこの流れを一気に停滞させました。

今後における政府の施策は、資金循環を見ている限りでは、家計や民間企業にいかに「お金を使ってもらうか」がポイントとなります。 

GoToトラベルキャンペーンやGo To Eatキャンペーンは、いずれも家計にお金を使ってもらいたいという政府の施策です。

コロナ感染症への特効薬やワクチンが無い中での実施には否定的な考えもあるでしょうが、経済を重視するのであれば、個人の感覚に訴えかける効果も含めて、キャンペーン施策も悪いモノではないでしょう。

また、現在はGDPで6割を占める個人消費の喚起に焦点が当たっているようには思いますが、民間企業にいかにお金を使ってもらうかについても、政府は知恵を絞っていく必要があるでしょう。この分野についても今後注目していきたいと思います。