銀行員のための教科書

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業態別に銀行の2021年3月期決算を確認する

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前回の記事では、2021年3月期(2020年度)の銀行業界全体の決算状況をお伝えしました。 

今回は、業態別(都市銀行、第一地方銀行、第二地方銀行)に決算を確認していきたいと思います。

同じ銀行といえども、国際業務を中心に業務領域・取引先が異なることもあり、各業態で決算の特徴が異なります。

コロナ禍における銀行の業況について確認していきましょう。

 

都市銀行の決算

業態別の銀行決算として、まずは都市銀行5行(みずほ、三菱UFJ、三井住友、りそな、埼玉りそな)の単体合算の決算を見ていきましょう。

(単位:億円) 金額 増減額 増減率
業務粗利益 合計 48,305 979 2.1
国内業務粗利益 25,358 △ 3,133 △ 11.0
うち資金利益 18,236 △ 211 △ 1.1
うち役務取引等利益 8,139 129 1.6
うち特定取引利益 △ 182 △ 697 -
うちその他業務利益 △ 836 △ 2,354 -
国際業務粗利益 22,947 4,112 21.8
うち資金利益 10,493 2,524 31.7
うち役務取引等利益 4,547 172 3.9
うち特定取引利益 2,326 55 2.4
うちその他業務利益 5,582 1,361 32.2
経費(△) 合計 30,796 △ 11 △ 0.0
人件費(△) 11,455 △ 33 △ 0.3
物件費(△) 17,428 △ 15 △ 0.1
税金(△) 1,914 38 2.0
実質業務純益 合計 17,509 990 6.0
うち国債等債券関係損益 1,954 △ 4,798 △ 71.1
コア業務純益 15,554 5,787 59.3
一般貸倒引当金繰入額(△) 合計 4,138 2,816 213.0
業務純益 合計 13,371 △ 1,826 △ 12.0
臨時損益 合計 △ 2,664 △ 3,035 -
個別貸倒引当金繰入額(△) 1,822 1,155 173.1
貸出金償却(△) 912 122 15.5
株式等関係損益 2,133 441 26.1
貸倒引当金戻入益 - △ 181 △ 100.0
償却債権取立益 248 △ 327 △ 56.9
その他 △ 2,311 △ 1,691 -
経常利益 合計 10,707 △ 4,861 △ 31.2
特別損益 合計 932 11,081 -
当期純利益 合計 8,555 7,491 704.5

(出所 全国銀行協会「2020年度決算の動向・業態別損益動向」より筆者作成) 

2021年3月期(2020年度)の一般企業の売上高に相当する業務粗利益は、4兆 8,305 億円(前年度比 +979 億円、2.1%増)と増益となりました。

この業務粗利益を構成し、貸付金利息と有価証券利息が主要項目である銀行本業の収益である資金利益(=資金運用収益-資金調達費用)は、2兆 8,729 億円(前年度比 +2,312 億円、8.8%増)と増加しています。

ただし、資金利益のうち、国内業務部門の資金利益は、1兆 8,236 億円(前年度比 ▲211 億円、1.1%減)と減少しています。

内訳をみると、コロナ禍における資金繰り対応などを背景とする貸出金の増加を要因として貸付金利息が1兆 5,036 億円(同 +266 億円、1.8%増)と増加したものの、有価証券利息配当金が 3,321 億円(同▲646 億円、16.3%減)と減少したこと等を受け、資金運用収益は1兆 9,599 億円(同 ▲248 億円、1.2%減)と減少しました。そして、資金調達費用は、社債利息および預金利息などが減少したことなどから、1,363億円(同 ▲36 億円、2.6%減)と減少しています。

一方で、国際業務部門の資金利益は、1兆 493 億円(前年度比 +2,524 億円、31.7%増)と増加しています。

内訳をみると、前年度から続く欧米における金利低下等を受けて、貸付金利息が1兆 4,302 億円(同▲1兆 594億円、42.6%減)と減少したことなどから、資金運用収益は2兆 1,865 億円(同▲1兆 7,916 億円、45.0%減)と減少しました。一方で、資金調達費用は、預金利息が 3,269 億円(同 ▲9,300 億円、74.0%減)、金利スワップ支払利息が 598 億円(同 ▲3,260 億円、84.5%減)とそれぞれ大幅に減少したことなどから、1兆 1,372 億円(同▲2兆 440 億円、64.3%減)と大幅に減少し、資金運用収益の減少幅を上回りました。国際業務部門の資金利益は、低金利で収入が大幅に減ったものの、それ以上に資金調達費用が減少したことから、全体では増益となったということになります。

銀行業界は、コロナによる資金需要で活況だったと認識されている方もいるでしょうが、都市銀行の決算を見る限りは、本業の資金利益が増加したのは国際業務の要因が大きいことが分かります。そして、海外含めて低金利化がさらに進みましたので、有価証券(主に債券)の運用は苦戦したことになります。

今までは収入という観点から都市銀行の決算を見ました。以下は残高という観点から簡単に数字を確認しておきます。

2021年3月末時点での預金は、国内業務部門および国際業務部門ともに普通預金への資金流入を要因として増加したことから、492 兆 9,268 億円(前年度末比 +45 兆 7,530 億円、10.2%増)と増加しました。

一方で、貸出金は、国際業務部門における減少を国内業務部門の増加が上回り、281 兆 7,997 億円(前年度末比+4兆 9,051 億円、1.8%増)となりました。貸出が伸びないため、有価証券は、国内業務部門における国債および株式の増加等により、147 兆 8,610 億円(前年度末比+30 兆 9,629 億円、26.5%増)と増加しています。

2021年3月期の都市銀行の決算は、コロナ影響で大量の預金が流入してきた一方で、借入の資金需要はあまり盛り上がらず、であったことがよく分かるのではないでしょうか。

その他の決算ポイントとしては、国債等債券関係損益は大幅な低下をしており、国債売買等での利益計上を各行とも見送ったことが分かります。また、一般貸倒引当金繰入額、個別貸倒引当金繰入額とも大幅に増加しており、コロナ禍において想定される不良債権への予防的な処理を実施しています。尚、当期利益は大幅増益となっていますが、一部の銀行が前期に株式の減損を行っていたためです。

以上、都市銀行の2021年3月期決算の概要です。

 

第一地方銀行の決算

次に第一地方銀行(いわゆる第一地銀)62行の決算合計です。

(単位:億円) 金額 増減額 増減率
業務粗利益 合計 33,030 △ 447 △ 1.3
国内業務粗利益 30,373 △ 534 △ 1.7
うち資金利益 26,690 26 0.1
うち役務取引等利益 4,434 165 3.9
うち特定取引利益 31 △ 0 △ 0.3
うちその他業務利益 △ 782 △ 725 -
国際業務粗利益 2,658 47 1.8
うち資金利益 1,962 247 14.4
うち役務取引等利益 59 0 0.8
うち特定取引利益 11 2 18.6
うちその他業務利益 626 △ 202 △ 24.4
経費(△) 合計 22,694 △ 245 △ 1.1
人件費(△) 11,191 △ 171 △ 1.5
物件費(△) 9,880 △ 153 △ 1.5
税金(△) 1,623 79 5.1
実質業務純益 合計 10,335 △ 202 △ 1.9
うち国債等債券関係損益 △ 604 △ 1,203 -
コア業務純益 10,940 1,001 10.1
一般貸倒引当金繰入額(△) 合計 638 △ 178 △ 21.8
業務純益 合計 9,697 △ 24 △ 0.2
臨時損益 合計 △ 1,184 △ 74 -
個別貸倒引当金繰入額(△) 2,379 1,061 80.6
貸出金償却(△) 282 △ 226 △ 44.5
株式等関係損益 1,802 1,053 140.5
貸倒引当金戻入益 12 1 4.7
償却債権取立益 171 △ 20 △ 10.6
その他 △ 508 △ 272 -
経常利益 合計 8,513 △ 98 △ 1.1
特別損益 合計 △ 208 204 -
当期純利益 合計 5,995 69 1.2

(出所 全国銀行協会「2020年度決算の動向・業態別損益動向」より筆者作成) 

一般企業の売上高に相当する業務粗利益は、3兆 3,030 億円(前年度比 ▲447 億円、1.3%減)と減益となっています。

その内訳である銀行の本業と言える資金利益(貸付金利息、有価証券利息等)は、2兆 8,651 億円(前年度比 +297 億円、1.0%増)と増加しています。

そのうち、国内業務部門の資金利益は、2兆 6,690 億円(前年度比 +26 億円、0.1%増)と増加しています。内訳をみると、コロナ禍における資金繰り対応などを背景とする貸出金の増加を要因として、貸付金利息が2兆 1,147 億円(同 +89 億円、0.4%増)と増加したものの、有価証券利息配当金が 5,604億円(同 ▲167 億円、2.9%減)と減少したことから、資金運用収益は2兆 7,184 億円(同 ▲57 億円、0.2%減)と減少しています。また、預金利息等が減少したことから、資金調達費用は 495 億円(同 ▲83 億円、14.4%減)と減少し、資金運用収益の減少幅を上回りました。

国際業務部門においては、1,962 億円(前年度比 +247 億円、14.4%増)と増加しました。内訳をみると、前年度から続く欧米における金利低下等を受けて、貸付金利息が 966 億円(同 ▲732 億円、43.1%減)と減少したこと等から、資金運用収益は 2,858 億円(同 ▲1,272 億円、30.8%減)と減少しました。しかしながら、預金利息等が大幅に減少したことから、資金調達費用は 896 億円(同 ▲1,520 億円、62.9%減)と減少し、資金運用収益の減少幅を上回っています。そのため、国際業務部門の資金利益は増加しています。

これをバランスシートで確認すると、預金は、国内業務部門および国際業務部門ともに増加したことから、305 兆 9,611 億円(前年度末比+27 兆 6,444 億円、9.9%増)と増加しています。

それに対して、貸出金は、国内業務部門および国際業務部門ともに増加し、230 兆 9,655 億円(前年度末比 +10 兆 1,621 億円、4.6%増)と増加しています。

但し、預金の増加に貸出金の増加が追い付かず、余った分は有価証券で一部が運用されています。有価証券は、国内業務部門における株式および地方債の増加等に加え、国際業務部門において外国証券が増加したことなどから、74 兆 1,336 億円(前年度末比+7兆 6,195 億円、11.5%増)と増加しました。

その他の決算におけるポイントとしては、国債等債券関係損益は都市銀行同様に減少しています。また、都市銀行では大幅に増加していた一般貸倒引当金繰入額は第一地銀では前期比で減少しています。個別貸倒引当金繰入額は増加していますが、都市銀行に比べると、予防的に不良債権の増加に備えている銀行が少ない可能性があります。

 

第二地方銀行銀行の決算

最後に第二地方銀行(第二地方銀行協会加盟銀行)38行の決算です。

(単位:億円) 金額 増減額 増減率
業務粗利益 合計 7,556 △ 319 △ 4.1
国内業務粗利益 7,216 △ 212 △ 2.9
うち資金利益 6,719 54 0.8
うち役務取引等利益 698 43 6.5
うち特定取引利益 - - -
うちその他業務利益 △ 201 △ 309 -
国際業務粗利益 340 △ 109 △ 24.3
うち資金利益 272 △ 66 △ 19.5
うち役務取引等利益 9 △ 4 △ 32.8
うち特定取引利益 - - -
うちその他業務利益 59 △ 39 △ 39.7
経費(△) 合計 5,915 △ 183 △ 3.0
人件費(△) 3,013 △ 57 △ 1.9
物件費(△) 2,487 △ 132 △ 5.0
税金(△) 415 7 1.6
実質業務純益 合計 1,641 △ 137 △ 7.7
うち国債等債券関係損益 △ 233 △ 401 -
コア業務純益 1,874 264 16.4
一般貸倒引当金繰入額(△) 合計 242 83 52.4
業務純益 合計 1,399 △ 220 △ 13.6
臨時損益 合計 △ 266 274 -
個別貸倒引当金繰入額(△) 538 143 36.3
貸出金償却(△) 60 △ 33 △ 35.5
株式等関係損益 404 428 -
貸倒引当金戻入益 16 △ 2 △ 10.4
償却債権取立益 25 △ 7 △ 22.9
その他 △ 113 △ 34 -
経常利益 合計 1,133 52 4.8
特別損益 合計 15 22 -
当期純利益 合計 823 99 13.7

(出所 全国銀行協会「2020年度決算の動向・業態別損益動向」より筆者作成) 

業務粗利益は、7,556 億円(前年度比 ▲319 億円、4.1%減)と減益となりました。

本業の収益である資金利益は、6,990 億円(前年度比 ▲12 億円、0.2%減)と減少しています。

内訳をみると、貸付金利息が 5,725 億円(同 +19 億円、0.3%増)と増加したものの、有価証券利息配当金が減少したことが響き、資金運用収益は 7,196 億円(前年度比 ▲120 億円、1.6%減)と減少しました。

預金利息等が減少したことから、資金調達費用は、206 億円(同 ▲108 億円、34.5%減)と減少していますが、資金運用収益の減少分を埋めるには至っていません。 

バランスシートを見ると、預金は、国内業務部門および国際業務部門ともに増加したことから、67 兆 5,215 億円(前年度末比+5兆 1,005 億円、8.2%増)と増加しています。

貸出金は、国内業務部門および国際業務部門ともに増加したことから、52 兆 7,275 億円(前年度末比+3兆 3,924 億円、6.9%増)と増加した。そして、有価証券は、国内業務部門における地方債および株式の増加等により、13 兆 4,948 億円(前年度末比+8,756 億円、6.9%増)と増加した。 

第二地銀は、貸出金残高が約7%も増加しています。それにもかかわらず、貸付金利息収入は0.3%としか増加していません。

コロナ禍において、銀行業界で資金需要に最も対応したのは中小企業の取引先が多い第二地銀です。それは貸出金の残高増加率が物語っています。

しかし、収入は伸びていませんし、利益も伸びている訳ではありません。

 

所見

コロナ禍において、銀行業界はコロナ倒産を避けるべく取引先に積極的に貸出を行いました。

その結果として、貸出金残高も増加しましたが、それ以上に預金残高が増加しています。

すなわち、コロナ禍における1年(2020年4月~2021年3月)というのは、消費も設備投資等も抑制され、預金が積みあがっていたカネ余りの時期であったということです。そして、銀行の貸出金利は、結局のところ上昇しておらず、低金利の影響で収益にはマイナスのインパクトが出ています(有価証券利息等の影響もあります)。

コロナ禍において、業績の低下にストップがかかり、銀行は一息ついたのではないかと言われることがありますが、現実を見ると、カネ余りと低金利が拡大しており、銀行にとっては悪い環境が加速したように筆者には思えます。

特にコロナで最も恩恵を受けておかしくないはずの第二地銀の業績が厳しいのは特徴的です。今後、業界再編によるコスト削減がさらに顕在化していく可能性は高いと思われます。