銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

受験生よ!少なくともおカネの面では「学歴が関係ない」なんてことはない

f:id:naoto0211:20210116095202j:plain

2021年1月から大学入試においてセンター試験が廃止され、大学入学共通テストがスタートします。

受験生の皆さんにとってみれば、緊急事態宣言の対象地域にお住まいの方もおり、移動するのも心配でしょう。そして、受験期間中に新型コロナウィルスに感染してしまったらと恐怖を感じながら勉強されてきたと思います。

世の中には「学歴なんて関係ない」との言説も溢れています。その主張にも一理あります。

しかし、筆者はあえて申し上げたいのですが「学歴が関係ない」なんてことはありません。

今回は、この「学歴が関係ないなんてことはない」という、ややこしい言い回しについて、受験生への応援も込めて確認していきたいと思います。

 

大学にいくコストは報われるのか

近時、大学全入時代と言われてきました。要は誰でも大学に行ける時代ということです。

しかし、大学にいくにもおカネがかかります。

そのため、大まかに言えば、誰もが大学卒業の資格を手にしているならば、おカネを払ってまで大卒の資格を得るのに価値は無いということが一部では主張されています。

そして、良い大学を卒業し、名の知れた会社に入ることが成功の近道だった時代は終わり、大企業でも倒産するような時代になったのだから、良い大学への入学・卒業にも価値が無くなったとの主張もされています。

確かに、大学に通うにはコストがかかります。

1人当たりの大学在学費用は1年間の平均で157.3万円かかっています(出所:日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」2020年10月30日)。

内訳を見ると国公立大学が115.0万円、私立大学文系が152.1万円、私立大学理系が192.2万円です。

そして、国公立大学だと卒業までに460万円、私立大学文系で608.4万円、私立大学理系で768.8万円の在学費用がかかるとされています(出所は上述「教育費負担の実態調査結果」、在学費用に入学費用含まず)。

はっきり言って、子供を大学に通わせることは多額の費用負担が発生します。親の家計は楽ではないのです。

それでは、「親に苦労させてまで」大学にいく価値は本当にあるのでしょうか。

 

労働統計

独立行政法人労働政策研究・研修機構のユースフル労働統計というものがあります。

この2019年版によれば、男性の生涯賃金では以下のことが分かります。

  • 高校卒男性の生涯賃金=2億5,440万円
  • 大学・大学院卒男性の生涯賃金=3億2,810万円
  • 差額7,370万円

この推計は「学校卒業しただちに就職、60 歳で退職するまでフルタイムの正社員を続け退職金を得て、その後は平均引退年齢までフルタイムの非正社員を続ける場合」を前提にしています。要するに終身雇用を前提とした生涯賃金モデルですが、参考にはなります。

そして、同じ大学卒であっても、企業規模の差によって生涯賃金は大きく変わります。

有名大学卒業者の男性が1,000人以上の企業に就職し、それ以外の大学卒業者の男性が100~999人の従業員数の企業に就職したと仮定しましょう。要は学歴によって就職する企業規模に差が出ると想定します。

  • 「有名」大学・大学院卒男性≒1,000人以上の企業に就職した場合の生涯賃金=3億1,400万円
  • 「普通」大学・大学院卒男性≒100~999人の企業に就職した場合の生涯賃金=3億180万円
  • 差額7,220万円

同じ大卒だろうと就職する企業規模によって、生涯賃金に大きな差が生まれてきたことは間違いありません。

女性の場合は、退職金を含めない60歳までの生涯賃金は以下の通りとなっています(上記の男性の推計は退職金が含まれていますが、なぜか女性は含まれていません)。

  • 高校卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=1億8,540万円
  • 大学卒女性(同一企業勤務)の生涯賃金=2億4,660万円
  • 差額6,120万円

女性の場合も、学歴がもたらす生涯賃金の差は6,000万円を優に超えています。退職金を含めると更に生涯賃金の差は開くことになるでしょう。6,000万円の差ということは、60歳まで38年働いたとして、1年あたり157万円です。上述の大学の在学費用(平均)は157万円です。賃金は、ここから税金や社会保険料が引かれるので、賃金の157万円と大学在学費用の157万円は同じ価値ではありませんが、それでも大学卒業は、金銭的には報われると言えるのではないでしょうか。

また、労働統計要覧(平成30年度)によれば、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は1,983万円であるのに対して、高校卒(管理・事務・技術職)の退職給付額が1,618万円、高校卒(現業職)の退職給付額が1,159万円です。これは男女含めた統計数値ですが、学歴は退職給付額にも影響をもたらしていることになります。

 

連合・賃金レポート2019

他に参考となる統計では、労働組合の団体である連合が賃金レポートを公表しています。

このレポートでは、大卒者と高卒者の生涯賃金の差が推計されています。

  • 大卒者男性の生涯賃金=2億7,901万円
  • 高卒者男性の生涯賃金=2億2,370万円
  • 男性の生涯賃金差=5,531万円
  • 大卒者女性の生涯賃金=2億3,066万円
  • 高卒者女性の生涯賃金=1億7,319万円
  • 女性の生涯賃金差=5,747万円

労働組合のレポートでも前述のユースフル労働統計と同様に生涯賃金差は大きくなっています。

尚、この連合による推計は、生涯所定内賃金は入職年齢から 60 歳までの推計値であり、賞与は含まれていますが、退職金は含まれていないものと思われます。

 

所見

学歴の差が生涯賃金の差をもたらすのは「平均の話」としては事実です。

受験生は「学歴を手に入れる」ことに対する不安を持つことなく、受験に臨めば間違いはありません。

但し、現在は、高学歴を得て一流企業に就職することが、高い生涯賃金を約束してくれるとは言えなくなってきていること自体は事実でしょう。

終身雇用は幻想となりつつあり、一流企業と言われる企業も存続が約束されている訳ではありません。いつ何時、突然に経営危機に陥るかも分かりません。コロナはその状況を加速させました。これからはデジタルシフトへの対応ができない企業は衰退する可能性もあります。ESG、気候変動関連のリスクもあります。ある日、自社製品が環境に悪いということで販売できなくなることだってあり得ます。

筆者は、過去の統計だけ見て学歴に過度な期待を抱くのも間違いであるし、かといって学歴を無視するのも違うように思います。

学歴が無駄になることは個々の個人にとってはあるかもしれませんが、大多数の人にとっては無駄にはならないでしょう。学歴は、社会で相応のスタートをきるためのチケットのようなものです。そこから先は自身の継続的な努力や運にかかっています。

そして、学歴を得るために勉強した日々は無駄にはなりません。知識の面よりも、学ぶ方法や姿勢を習得していくことこそが重要なのではないかと筆者は思います。変化の速い時代は、次々と様々なことを学んでいく必要があります。知識はすぐに陳腐化しますが(普遍的な知識もあります。歴史はその一例です)、学ぶ姿勢、学ぶ方法を身に付けておけば、新たらしい知識・環境・時代に適応することも比較的容易でしょう。

社会に出て「学歴が関係ない」なんてことはないのです。