銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本国は高齢者のために存在しているという事実

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コロナの影響が終わることなく2020年は暮れようとしています。

その中で、日本国の令和3年度(2021年度)の政府予算案が閣議決定されています。

日本の国としての予算案は、どのような状況になっているのでしょうか。

今回は、日本国の予算案の概要を確認し、日本国の進んでいる方向性について考察してみたいと思います。

 

日本国の2021年度予算の全体像

まずは日本国の歳出入の全体像を確認しましょう。

日本の2021年度一般会計の歳出入は以下の通りの予算となっています。 

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(出所 財務省「令和3年度予算のポイント」)

日本の予算についてマスコミで取り上げられるときには、「一般会計の総額が過去最大の106兆6097億円である」等の規模について言及されることが多いものと思われます。

そして、新型コロナ感染症対策に予備費として5兆円を充てるとか、防衛費が過去最大であるとか、社会保障費を抑制するために薬価改定を行う等というようなことが報道されるものと思います。

但し、日本全体で見た場合の予算の歳出入のポイントは以下であると筆者は考えています。

  • 歳出107兆円から地方税交付金16兆円、国債費24兆円を控除した一般歳出67兆円のうち、社会保障費36兆円が占める割合は54%(コロナ対策の予備費を除けば58%)。日本国の実質的な歳出は半分超が年金・医療・介護等の社会保障が占める。
  • 日本政府の歳入は約4割が借金で占められている。
  • 税収の35%は消費税、33%は所得税、16%は法人税となっており、消費税がトップ。

日本国の2021年度予算は、実質的な歳出の半分が社会保障費なのです。とにかくこれが最も重要な現状認識となります。

 

日本国の財政における推移

日本国は借金漬けであるとか、MMTの理論でもっと借金した方が良いとか、様々な議論がなされています。

その中で認識しておくべきものは以下ではないかと筆者は考えています。

まずは税収と歳出とのバランスです。

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(出所 財務省「我が国の財政事情(令和3年度予算政府案)」)

日本の歳出と税収とのバランスは1990年代前半から大きな乖離が生じ始めました。年々乖離幅は大きくなってきています。その乖離を埋めるべく借金を重ねてきたのが日本の財政です。

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(出所 財務省「我が国の財政事情(令和3年度予算政府案)」)

重ねてきた借金(国債)は普通国債でついに1,000兆円に到達しようとしています。

一方で、日本は金利が低下してきました。これにより借金(国債)の利息支払額は、国債残高の増加ペースとの対比では抑え込まれています。それによって国の資金繰りは問題が現状では発生していません。

そして、一般会計歳出の主要経費の推移は以下の通りです。

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(出所 財務省「我が国の財政事情(令和3年度予算政府案)」)

誰が何と言おうとも、日本の歳出は社会保障関係費の膨張が最大のポイントであることは間違いありません。

 

社会保障費とは

では国の一般歳出の半分強を占める社会保障費とは何を指しているのでしょうか。

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(出所 厚生労働省「令和3年度社会保障関係予算のポイント」)

以上のように国の社会保障費の内訳は、年金給付費が35%、医療給付費が33%、介護給付費10%、福祉等が21%となっています。

国民医療費(出所 平成30年度国民医療費/第8表 国民医療費・構成割合・人口一人当たり国民医療費)では医療費のうち65歳以上が占める割合は61%となっています。これを参考に上記医療給付費(全体の33%)のうち61%が65歳以上とすると、33%×61%=社会保障費全体の20%が65歳以上の高齢者向けとなります。

更に福祉等の内訳は、少子化対策費3.0兆円(社会保障費全体の8%)、生活扶助等社会福祉費4.1兆円(同11%)、保健衛生対策費0.5兆円(同1%)となっています。この福祉等には、生活保護(2.8兆円)等が含まれていますので、基本的には現役世代への歳出と仮定します。そうすると、国の社会保障費のうち、福祉等が現役世代向けの歳出と考えられます。

社会保障費は国の一般歳出の54%です。そのうち、年金給付費35%、医療給付費20%(上述)、介護給付費10%の合計65%が高齢者向けの歳出となります。すなわち社会保障費54%×高齢者向け65%=35%が日本の一般歳出に占める高齢者向けに「特化」した歳出となります。

そして、我が国の総人口は、2019年10月1日現在、1億2,617万人となっています。65歳以上人口は、3,589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)は28.4%です。

一般歳出のうち社会保障費以外の支出は全体の46%です。この社会保障費以外の46%については全年代が利益を享受していると仮定しましょう。高齢者は全人口の28%であり、この28%が利益を享受していることになりますが、そうすると社会保障費以外の一般歳出46%×高齢者28%=全体の13%が高齢者の「取り分」となります。

上述の一般歳出に占める高齢者特化の歳出35%と一般歳出の中の高齢者取り分13%の合計は48%です。

すわなち、日本国はその歳出のうち約半分を65歳以上の高齢者のために支出していると想定出来ます。

 

まとめ

以上、日本国の2021年度予算や財政状況・推移について確認してきました。

日本の財政の問題は「社会保障費をどうするか」ということが最大の課題です。むしろ、それしか無いと言った方が正しいでしょう。

予算だけから見れば、日本国はその予算の35%を高齢者のみが利益を享受する支出(歳出)として拠出しています。そして、それ以外の歳出項目も当然ながら高齢者も利益を享受できるような支出であり、日本の歳出の約半分が65歳以上の高齢者が利益を享受していると想定出来ます。

尚、一般歳出とは別の枠組みにおいても、日本の社会保障制度は、社会保険⽅式を採りながら、⾼齢者医療・介護給付費の5割を公費で賄う等、公費負担(税財源で賄われる負担)に相当程度依存しています。そして、この⾼齢者医療・介護給付費の増に伴い、国の財政が圧迫されていくのです。

更に、健康保険制度をとってみても現役世代の健康保険制度から後期高齢者支援金という形で、高齢者への支援金が召し上げられています。

将来世代に負担を先送りしているとされますが、それは日本の歳出に占める高齢者への支出が多いからです。それを少しでも緩和するために消費税を導入した政府の意図は分かります(消費税は年齢に関係なく徴収するため)が、本質的ではなく少し小手先の対応です。

日本においては年金制度は少子高齢化であっても制度が持続するように一定程度の仕組みが構築されています。年金不安が叫ばれていることもありますが、これから問題が拡大していくのは、むしろ医療費と介護費です。

この医療費と介護費の支出をどうしていくのか、あえて言えば、高齢者本人の負担を引き上げるか、高齢者への国の支出を減少させるか、いずれとも採用するか、が日本の政治が対応していかなければならない課題です。

今の日本は予算だけみれば高齢者のために存在しているようなものです。これがシルバー民主主義と言われる理由でしょう。

日本が国として、今からでも少子高齢化への対策を立てていきたいのであれば、やはり高齢者へ偏った歳出を是正するべきです。筆者はこれから歳出を削られるべき世代ですが、後の世代のことを考え、やせ我慢をしようとは思います。

「老人栄えて国亡ぶ」では、老人(高齢者)も住む場所が無くなります。高齢者に厳しい判断を突き付けるタイミングは早ければ早いほど良いはずです。日本の政治は、配るパイが少なくなっている中で、「もう配れない」ということを有権者に伝えていくのが役割になってきているのではないでしょうか。面白くはないし、格好良くはないですが、最も現実を直視していると筆者は思います。