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75歳以上の医療費窓口負担割合の見直しは避けられない

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日本政府が2020年12月15日の臨時閣議で、全世代型社会保障検討会議の最終報告を決めました。

同報告書中には、75歳以上の医療費窓口負担について年収200万円以上の人(単身世帯の場合)を対象に1割から2割に引き上げる、という施策が入りました。実施は2022年度後半となるようです。

高齢者の医療費は少子高齢化によって現役世代の負担が急増することが確実視されています。そのため、少しでも高齢者に自己負担を求めたいというのがこの政策の主旨となります。

では、高齢者の医療費はどのような状況なのでしょうか。日本はシルバー民主主義と言われて久しく、高齢者に配慮した政策運営が続いてきたと筆者は考えています。それでも、高齢者の医療費負担を増加させるということは、それだけ問題があるということではないでしょうか。今回は、普段あまり意識をしないであろう高齢者の医療費について確認していきたいと思います。

 

政策の背景と概要

まずは、75歳以上の医療費窓口負担割合の増加について、どのような背景があり、そして施策の概要がどのようになっているのか、「全世代型社会保障検討会議」の最終報告から抜粋します。

少子高齢化が進み、令和4年度(2022年度)以降、団塊の世代が後期高齢者となり始めることで、後期高齢者支援金の急増が見込まれる中で、若い世代は貯蓄も少なく住居費・教育費等の他の支出の負担も大きいという事情に鑑みると、負担能力のある方に可能な範囲でご負担いただくことにより、後期高齢者支援金の負担を軽減し、若い世代の保険料負担の上昇を少しでも減らしていくことが、今、最も重要な課題である。
その場合にあっても、何よりも優先すべきは、有病率の高い高齢者に必要な医療が確保されることであり、他の世代と比べて、高い医療費、低い収入といった後期高齢者の生活実態を踏まえつつ、窓口負担割合の見直しにより必要な受診が抑制されるといった事態が生じないようにすることが不可欠である。
今回の改革においては、これらを総合的に勘案し、後期高齢者(75歳以上。現役並み所得者は除く)であっても課税所得が28万円以上(所得上位30%)及び年収200万円以上(単身世帯の場合。複数世帯の場合は、後期高齢者の年収合計が320万円以上)の方に限って、その医療費の窓口負担割合を2割とし、それ以外の方は1割とする。

(出所 全世代型社会保障検討会議「全世代型社会保障改革の方針(案)」令和2年12月14日)

これが全世代型社会保障検討会議の報告書の内容です。

現在の医療費の窓口負担割合は全体としては以下となっています。

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(出所 厚生労働省「医療費の自己負担について」)

この図の1割負担部分を拡大するというのが今回の政策となります。

 

高齢化の現状と将来推計

では、最初に高齢化の現状と将来の推計について、一つのグラフを確認しましょう。

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(出所 令和2年版高齢社会白書)

日本の総人口は、2019年10月1日現在、1億2,617万人となっています。

65歳以上人口は、3,589万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も28.4%となっています。

そして、「75歳以上人口」は1,849万人(男性729万人、女性1,120万人)で、総人口に占める割合は14.7%です。今回の高齢者医療費の問題は、この年齢層が対象となっています。75歳以上の人口は、日本の総人口の中でどんどんと割合が高くなっていくことになります。

 

社会保障給付費の推移

次に「社会保障給付費」の推移を見ていきます。

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(出所 令和2年版高齢社会白書)

社会保障給付費(年金・医療・福祉その他を合わせた額)全体について見てみると、2017年度は120兆2,443億円となり過去最高の水準となりました。また、国民所得に占める割合は29.75%まで来ています。

この社会保障給付費のうち、高齢者関係給付費(年金保険給付費、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費及び高年齢雇用継続給付費を合わせた額)について見ると、2017年度は79兆7,396億円となっており、社会保障給付費に占める割合は66.3%です。

簡単に言えば、日本の社会保障給付費のうち3分の2が高齢者に使われているということになります。

 

年齢別医療費

では、次に年齢別の1人当たり医療費を確認していきましょう。

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(出所 令和2年版高齢社会白書)

2017年度の年齢階級別1人当たり医療費(医療保険制度分)を見ると、60歳から64歳で36.7万円であるのに対し、75歳から79歳で77.5万円、80歳から84歳で93.0万円となっています。すなわち、60~64歳の医療費と75歳以上の医療費は2倍以上の差となっているのです。

 

高齢者世帯の所得分布

次に高齢者世帯の所得分布について確認しましょう。

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(出所 令和2年版高齢社会白書)

高齢者世帯の所得階層別分布を見てみると、150~200万円未満が最も多くなっています。今回の自己負担割合拡大は、単身世帯で年収200万円、二人以上世帯で年収320万円からですので、最も多い所得層は回避していることになるでしょう。

以下のグラフはご参考として1ヵ月の収入額のグラフとなります。

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(出所 内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」(令和元年度))

前述の最終報告書に記載されている「課税所得が28万円以上(所得上位30%)」とは、恐らく月の収入のことであろうと思われます。このグラフで見ても、課税所得28万円以上の世帯は少数派であることは分かります。

 

後期高齢者医療制度の財源

75歳以上の後期高齢者医療にかかる費用は、患者負担を除き、75歳以上の後期高齢者の保険料(1割)、 現役世代(国民健康保険・被用者保険)からの後期高齢者支援金(約4割)および公費(約5割)からまかなわれています。

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(出所 厚生労働省)

そもそも、後期高齢者の医療費は、75歳以上の後期高齢者から徴収する費用だけでは全くカバーできず、国から5割拠出していても足りません。そのため、現役世代から4割の資金支援をしているのが現状です。

今回は、あくまで上図の患者負担の割合を引き上げようとするものです。報告書では、「何よりも優先すべきは、有病率の高い高齢者に必要な医療が確保されることであり、(中略)窓口負担割合の見直しにより必要な受診が抑制されるといった事態が生じないようにすることが不可欠」とされていますが、後期高齢者の医療費増加を少しでも抑制するという観点では、むしろ受診を抑制したいというのが政府の本音ではないでしょうか。

 

政策の効果

今回、単身世帯で年収200万円以上(二人以上の世帯で年収320万円以上)の75歳以上高齢者の窓口費用負担割合を2割とすることで、少しでも現役世代からの支援を抑制しようとしています。

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 (出所 厚生労働省「参考資料(後期高齢者の窓口負担割合の在り方について)」https://www.mhlw.go.jp/content/000705792.pdf

窓口負担割合の増加によって約800億円程度の費用増加が抑制されます。

しかし、800億円程度ではほとんど誤差の範囲内と言うことも出来ます。上表の通り、現役世代から後期高齢者への支援金は、わずか5年で1.4兆円増加することが見込まれています。その中では数百億円は大きな影響をもたらしません。

 

所見

以上、75歳以上の後期高齢者の医療費、そしてその本人負担について簡単にデータを確認してきました。

当たり前の話ですが、高齢者は一人当たりの医療費が現役世代よりも大幅に高くなります。これはある程度はしょうがないことでしょう。長く生きていれば、あちこちガタもきます。

しかし、この高齢者の医療費は、現役世代が健康組合等を通じて約4割を支援しています。現役世代は医療費においても負担が重く、給付を受けていないのです。まさに、年金同様に健康保険についても、給付と負担に大きなアンバランスが生じています。

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(出所 健康保険組合連合会「今、必要な医療保険の重点施策- 2022年危機に向けた健保連の提案-」2019年9月9日)

企業が設立する健康保険組合の連合組織である健保連が2019年に発表した資料が上図です。この資料では、健康保険組合に加入している個人から見た場合には、一人当たり13.2万円の給付を受けているのに対して、その負担は27.3万円であると示しています。一方で、後期高齢者は86.2万円の給付を受ける一方で、6.9万円しか負担していません。

今回の75歳以上の高齢者の窓口負担割合見直しは、この大きな給付と負担の関係を改善するほどのインパクトはありません。強いて言うならば「やらないよりマシ」というレベルでしょう。

日本の社会保障は、年金も医療も現役世代が高齢者世代を支える仕組みになっています。しかし、少子高齢化が更に進むにつれて、現役世代の負担が重くなり過ぎる時がくるでしょう。筆者は、結局のところ,給付と負担のバランスを見直すしか、少子高齢化の環境下における医療費問題を乗り切る解はないのではないかと考えています。

シルバー民主主義と言われている日本ですが、高齢者自らが現役世代に迷惑をかけないように生きていく社会にしなければ、持続は難しいでしょう。「自分達が現役世代の時にはその時の高齢者を支えてきた」と高齢者が主張したとしてもどうしようもありません。少子化高齢化によって前提が異なっているのです。見直しがなされない場合には、いつか遠くない未来に、世代間の闘争も起きかねません。高齢者に近くなってきた筆者としても気になるところです。

高齢者を現役世代が支える仕組みを見直していくことこそが、日本において最も重要な政治の問題なのだと思います。政治とは「配る」ことなのでしょうが、もう現役世代は「配る」モノが枯渇してくるのです。これが現実です。