少子高齢化が進んでいます。
日本の社会保障は、基本的に現役世代から受給世代への仕送り方式です。
そのため、現役世代の負担がこれから重くなっていくことは間違いありません。
社会保障の中では、年金への不安が話題となることは多いのですが、筆者はむしろ医療費の方が問題となる可能性があると考えています。今回は、医療費に焦点を当てて日本の医療費の動向を確認していきたいと思います。
医療費の将来推計
高齢化が進んで行くと医療費が増加することは間違いありません。
医療については、厚生労働省が将来の推計をまとめています。
『厚生労働省/第28回社会保障審議会資料「今後の社会保障改革についてー2040年を見据えてー」2019年2月1日』をベースに、2040年に向けての医療費をまずは確認したいと思います。
く医療費推計>
- 2018年 39.2兆円(GDP比7.0%)
- 2025年 47.8兆円(※上記試算のケース①、GDP比7.4%)
- 2040年 66.7兆円(※上記試算のケース①、GDP比8.4%)
これが日本の医療費において想定されている支出となります。
高齢者が増えていくためGDP比で医療費が増加していきます。
医療費負担主体
では、上記の医療費を日本全体では「誰が、どのように」負担しているのでしょうか。
以下が医療費の負担割合となります。
<医療費負担額>
①保険料負担(利用者および事業者負担)
- 2018年 22.1兆円(GDP比3.9%)
- 2025年 26,0兆円(※上記試算のケース①、GDP比4.0%)
- 2040年 35.4兆円(※上記試算のケース①、GDP比4.5%)
②公費負担(いわゆる税金負担)
- 2018年 17.1兆円(GDP比3.0%)
- 2025年 21.8兆円(※上記試算のケース①、GDP比3.4%)
- 2040年 31.3兆円(※上記試算のケース①、GDP比4.0%)
2018年で見ると保険料が56%、公費が44%を負担していることになります。尚、徐々に公費の負担割合が大きくなり2040年では保険料53%、公費47%となる想定です。
日本は、国民皆保険であり、全ての国民をなんらかの医療保険に加入させる制度を採用しています。国民皆保険は、医療保険の加入者が保険料を出し合い、病気やけがの場合に安心して医療が受けられるようにする相互扶助の精神に基づいて運営されています。
但し、上記の通り、医療費は保険料負担だけではカバーできていません。加入者の保険料で運営されていくのが理念であるはずなのに、実際には税金が投入されています。
日本は国民皆保険であるため、税金が投入されても違和感を感じることは少ないかもしれませんが、本来は加入者が拠出する保険料だけで運営されるべきでしょう。
就業者一人当たり医療費
日本では、75歳以上の高齢者を対象にした「後期高齢者医療制度」が導入されています。後期高齢者の医療費は、税金5割、現役世代(健康保険組合・協会けんぽ・公務員共済・国民健康保険の被保険者)の保険料4割、75歳以上の高齢者の保険料1割で運営されています。
この後期高齢者医療制度に見るように日本の医療費を負担しているのは現役世代の割合が高くなっています。
そのため、日本の医療費の将来推計を、就業者一人当たりで見ていくと、現役世代の負担がどのようになっていくかが感覚的に分かると思います。こちらの数字も上述の厚生労働省/第28回社会保障審議会資料からのものです。
<就業者数>
- 2018年 6,580万人
- 2025年 6,350万人
- 2040年 5,650万人
<(参考)65歳以上の人数>
- 2018年 2,204万人
- 2025年 3,677万人
- 2040年 3,921万人
前述の医療費推計額を就業者数で割った就業者一人当たりの医療費は以下になります。
- 2018年 595,744 円
- 2025年 752,755円
- 2040年 1,180,530円
単純に言えば、就業者(≒現役世代)一人当たりの医療費負担は、2040年には2018年比で約2倍になります。そして、その額は就業者一人当たりで120万円弱となるのです。
国民医療費(平成30年)では、保険料は事業主が42.9%、被保険者が57.1%負担しています。
従って、就業者個人で見た場合には、上記120万円弱を一人で支えなければならない訳ではありません。
誤解を恐れずに単純化すれば、医療費負担の約半分は保険料が財源です。そして、企業に勤めている個人の場合、その保険料の約半分が健康保険料として個人が拠出しているものです(残り半分は企業が負担しています)。非常にざっくりとした試算ですが、個人が直接負担する医療費は医療費全体の1/4であり、2040年の想定だと年間30万円となります。これは月額では25,000円です。
厚労省の医療費推計はインフレも加味しているでしょうから、上記年間30万円、月額25,000円が現在の価値と同じとは言えません。それでも低成長・低インフレの日本においては、現在と大きな価値の相違はないでしょう。
所見
日本の医療費は健康保険料だけで賄われてはいないので、国民の負担が分かりづらくなっています。方向性としては、就業者の負担が高くなり過ぎないように、税金の投入割合を増やし、医療費の恩恵を受けている高齢者への負担を増加(≒消費税での徴収等)させていくでしょう。
しかし、それでも就業者一人当たりの直接の負担額は重くなっていきます。月額25,000円というのは、健康保険料が10%だとすると、現在月額50万円程度の収入を得ている就業者が個人で負担している健康保険料です。いかに負担が重くなるか、実感できるのではないでしょうか。
そして、医療費の増加は税金でも賄われるのです。増税せざるを得なくなることは目に見えています。
年金は、マクロ経済スライドという年金給付カットの仕組みが導入されたこと等によって、安定性が増しています。一方で、医療費増に対する根本的な対策はなされていないと思われます。
政治が「配分」であるとすれば、この医療費の問題は「配分」としては非常に重い課題とならざるを得ません。早い段階からの対応が必要のはずですが、あまり話題になりません。
医療費は現役世代の可処分所得を今まで以上に低下させる可能性があります。少子高齢化に伴う社会保障、その中でも医療費は日本にとって最も重要な政治課題になるはずです(安全保障を除けばですが)。現役世代にとっては、本当に死活問題になるかもしれないのです。多数の人が医療費の問題に関心を持つことを筆者は願います。