銀行員のための教科書

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コロナ禍において、他人のボーナス事情が気になる

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コロナ禍の影響により、冬季の賞与支給を取り止める企業が増えていると報道されています。

JTBやANAが支給を取り止め、客足が落ち込んだ外食業界でも「支給額を5割以上~7割未満に減らす」との声が出ているようです。

今冬のボーナスはどのような状況になっているのか、簡単に確認してみたいと思います。

 

エン・ジャパンの調査

まずは、エン・ジャパンが発表している賞与実態調査について見ていきましょう。 

<冬季賞与支給予定の有無>

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(出所 エン・ジャパン「2020年冬季賞与」実態調査)

エン・ジャパンの実態調査では、2020年冬季賞与の支給予定の有無については、66%が「支給予定」と回答しています。裏を返すと、回答企業の34%が冬季賞与を支給しないということになります。

支給予定の比率が全体を下回った主な業界は「マスコミ・広告」(35%) 、「サービス」(49%)です。

<冬季賞与支給予定企業の前年比較>

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(出所 エン・ジャパン「2020年冬季賞与」実態調査)

賞与支給予定企業の5割が「昨年の冬季賞与と支給額は変わらない予定」と回答しています。「増額予定」は12%です。一方で、「減額予定」は21%となり前年より15ポイント増加しています。

尚、本件実態調査は、以下の属性企業から回答を得ています。業種に少し偏りがあるかもしれません。

<回答企業属性>

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(出所 エン・ジャパン「2020年冬季賞与」実態調査)

 

大阪シティ信用金庫の調査

次に大阪シティ信用金庫が、取引先企業(大阪府内、有効回答数 1,016社)に調査した内容についても確認しましょう。地域が限定されていますが、参考にはなります。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2020 年冬季ボーナス支給予定」)

全体でみると上表の「①支給する」企業は54.0%で、前年冬に比べ▲11.2 ポイントと大幅に減少しています。すなわち、前回冬季賞与を支給していた企業のうち▲11.2ポイント÷前回支給する65.2%=▲17%の企業が今回は賞与を支給しないということになります。これは、リーマンショック後(▲9.1ポイント)を上回る、当該調査開始(1998 年)以来最大の減少幅となっています。

「②支給しない」と答えた46.0%の企業のうち、「(ア)ボーナスは支給できないが、その代わりに少額の手当を出す」とする企業が31.1%(前年冬比5.9 ポイント増)、「(イ)全く支給なし」とする企業は14.9%(同5.3 ポイント増)となっています。

また、支給しない割合が多い業種は小売業となりました。

尚、大阪シティ信用金庫の調査(冬季ボーナス支給企業割合)の時系列推移は以下の通りとなっています。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2020 年冬季ボーナス支給予定」)

ボーナスを支給する企業の割合は、リーマンショック前後で大幅に減少した後、徐々に増加してきていました。それが今回は大幅な減少となっています。

但し、マスコミだとボーナスを「支給しない」企業の割合に焦点を当て過ぎる気がしますが、ボーナス自体は支給しなくとも何らかの少額手当で、少しでも従業員に報いようとする企業が相応にあることには留意が必要です。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2020 年冬季ボーナス支給予定」)

正社員1人当たりの平均支給予定額は28万7,604円で、前年冬に比べ1万35円、率にして 3.4%減少する見込です。業種別では、運輸業が最も賞与減額の率が高くなっています。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2020 年冬季ボーナス支給予定」)

ボーナスを支給する企業はリーマンショック時の減少幅を上回る率で、今回減少しています。尚、リーマンショック時の冬季ボーナスの支給金額は影響を受けていなかったようですが、2009年の冬季ボーナスは相応に影響を受けました。

今回のコロナショックでは、ボーナスを支給する企業の割合は大きな減少となりますが、支給金額自体は急減とは言えない回答結果となっています。

 

三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査

最後に、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査についても確認しましょう。

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(出所 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「2020年冬のボーナス見通し」)

三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、2020年冬のボーナスは、一人あたり平均支給額が34万7,806円(前年比▲10.7%)と新型コロナウイルス感染拡大の影響が本格化し、大きく減少すると予想しています。

一人当たり支給額が減少することに加え、コロナ禍の中で雇用者数の増加が頭打ちとなっていることも相俟って、2013年以降、堅調に増加していた冬のボーナスの支給総額は減少に転じる予想となっています。

 

まとめ

エン・ジャパン、大阪シティ信用金庫、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査について確認してきました。

エン・ジャパンの調査では、冬季ボーナスを支給する企業の割合は66%、大阪シティ信用金庫の調査では54%(但し、少額手当含めると85.1%)となっています。少なくとも半数の企業は冬季ボーナスの支給を続ける方向性だろうと想定できます。

冬季ボーナスが減額される企業もあるでしょう。しかし、エン・ジャパンの調査によれば賞与支給予定企業の約6割は増額もしくは維持です。

そして、一人当たりの平均支給額は、大阪シティ信用金庫の調査では▲3.4%、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査では▲10.7%と予想されています。

今冬のボーナスについては、コロナ禍において企業の業績が厳しいことは事実ではありますが、悲観し過ぎることもないのではないかと思います。

尚、こういう時は「企業のボーナスが3~4割支給されない」といった報道がなされることがあります。しかし、大阪シティ信用金庫の調査を見て頂くと分かるように、コロナ前からでもボーナスを支給していない企業は多いのです(そもそも3割程度の企業は過去からボーナスを支給していないということです)。

今回はボーナスを支給しない企業の割合は増加すると思いますが、3~4割が「いきなり」支給を止めるわけではないというところには留意が必要です。