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朝日新聞社の2020年4~9月決算は大赤字に転落

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新聞大手の朝日新聞社が2021年3月期中間決算を発表しました。

2020年4~9月の半年間の決算は、大幅な減収となり、営業利益以下も赤字でした。最終損益は419億円の大幅な赤字となっています。

赤字の責任を取って現社長は新中期経営計画がスタートする2021年4月1日に退任するとも報道されています。

今回は、速報として朝日新聞社の2021年3月期上半期の決算について確認していきましょう。

 

決算概要

朝日新聞社は非上場ですが、決算を公表しています。

発表された2021年3月期中間決算の概要は以下の通りです。

<2021年3月期2Q連結決算>

  • 売上高1,391億円(前年同期比▲22.5%
  • 営業利益▲93億円(赤字転落、同▲99億円
  • 経常利益▲82億円(赤字転落、同▲112億円
  • 親会社株主に帰属する中間純利益▲419億円(赤字転落、同▲433億円
  • 純資産3,365億円(同▲389億円)、自己資本比率59.0%

2020年4~9月の中間連結決算は、コロナ感染拡大の影響を受け、売上高が2割を超える減収となり、コスト削減も進まずに営業利益から赤字に転落しました。

最終損益は、将来の利益を前提に税金の前払い分を資産として計上する「繰延税金資産」を取り崩したため、更に大幅な赤字となっています。

朝日新聞社が中間決算で赤字となるのは9年ぶりです。

但し、朝日新聞社は財務体質が良いことで有名です。大幅な赤字となっていても純資産は3,000億円を超え、自己資本比率は6割弱と財務体質は盤石です。

 

赤字の要因

朝日新聞社が発表した資料だけでは赤字の要因を正確につかむことは出来ません。

しかし、社長が「構造改革のスピードが鈍かったことが赤字の背景にあることは否め」ないと語ったと報道されていることから、構造改革に遅れていることが推察されます。

朝日新聞社の2020年4~9月の販管費は459億円ですが、前年同期は457億円でした。単純に言えば、新聞発行部数が減少している中にあって朝日新聞社のコスト(=販管費)は変わっていないことが分かります。これを社長が構造改革のスピードが鈍かったと表現しているものと思われます。

朝日新聞社はコスト削減に動き出しています。足元では、現在約4,400人いる社員を、300人の希望退職を実施する等で2023年度までに約3,900人まで削減する方針であるとされています。

朝日新聞の2019年の年間平均部数は朝刊537万3千部(有価証券報告書)ですが、年間で約40万部の発行部数減となっていました。2000年には832万部の発行部数を誇っていたはずの朝日新聞は、20年で300万部の発行減となっているのです。当然、足元でもコロナによって発行部数の減少は進んでいるでしょう。

そもそも、新聞を「紙」で読む読者が減少している中で、新聞社の経営は苦しい状況が続いていましたが、広告収入減等の形で、コロナが逆風を加速させたのでしょう。

 

資金繰り

朝日新聞社の2020年9月中間期の赤字額は巨額です。しかし、朝日新聞社の財務体質は盤石であると前述しました。

2020年9月末時点では、現預金が844億円、有価証券(流動資産)が115億円あり、さらに投資有価証券が1,925億円あります。

一方で借入金はわずか86億円であり、朝日新聞社は実質的には無借金企業です。

2021年4~9月の赤字が朝日新聞社にとっては過去に類を見ない巨額の赤字だったとしても、資金繰り破綻する可能性は現時点では低いといえます。

 

所見

朝日新聞社は新聞社としてのイメージが強いでしょうが、近時は、利益で見れば不動産会社です。あえて言うなら、不動産の利益を基に新聞事業を営んでいる会社と表現できます。

そして、コロナ禍においては、新聞事業が不動産賃貸事業の黒字を食いつぶしたものと思われます。

まだ決算短信のみの公表でセグメント別の損益が不明であり、実際のところは分かりませんが、朝日新聞社の不動産事業は賃貸が主であり、簡単には収益が急落することはないためです。

尚、前年同期(2019年4~9月)の連結中間決算では、メディアコンテンツ事業は売上高1,580億円に対して営業利益が▲30億円、不動産事業は売上高217億円に対して営業利益が37億円となっていました。

朝日新聞社は、損益という観点での業績は厳しいですが、過去に蓄積した資産は十分にあります。稼ぐ力はボロボロになっていますが、所有する不動産はピカピカです。

朝日新聞社は、企業存続だけを考えれば、メディア・コンテンツ事業を売却し、不動産事業に特化した方が業績は大幅に改善するでしょう。

しかし、非上場である朝日新聞社に対して業績改善のプレッシャーを与える「モノ言う株主」は存在しませんので、ドラスティックな事業組み換えは難しいものと思います。

現社長が赤字の責任を取り辞任することで、コスト削減に向けて動いていくとは思いますが、短期的に赤字を脱却することは困難ではないかと筆者は予想します。