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ボーナスはコロナ前から4割近くが「不支給」だったのでは?

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企業が個人に実施したアンケートで、冬のボーナスが「支給されない・わからない」との回答が約40%となったことが話題となっています。

一方で、国家公務員は冬のボーナスが減金65万円であり、コロナ禍でも微々たる減額幅となり批判が殺到していると報道されています。

新型コロナウィルスは民間企業のボーナスにどこまで影響を与えているのでしょうか。

今回はコロナ禍における民間企業のボーナスについて簡単に確認しましょう。

 

冬のボーナス実態調査

会計ソフトのクラウドサービスを手掛けるフリーウェイジャパンが小企業・零細企業の従業員218人、並びに代表取締役174人を対象に、冬のボーナスの実態調査を実施しました。調査期間は11月17日~19日であり、インターネットで実施されています。

その結果、約40%が「支給されない・分からない」と回答したと発表されています。回答の内訳は、36.2%が「支給されない」、4.1%が「未定」となっています。

フリーウェイジャパンがPR TIMESで発表した結果報告のタイトルは『冬のボーナス「支給されない/わからない」との回答が約40% 「2020年度冬のボーナス実態調査を実施」小企業・零細企業にはボーナス制度が無い場合も半数にのぼる』となっています。

これだけを報道されると、4割がボーナス支給されないのかと感じ、その理由はコロナであろうと結び付けて考えてしまうでしょう。

確かに、支給されない理由については「会社の業績不振のため」が27.8%、「コロナウイルス感染拡大による経営悪化」が24.1%と、経営状況に関連する理由が多数(フリーウェイジャパン調べ)となっており、「コロナ影響で4割の企業がボーナス支給を見送る」と理解してしまいそうです。

ところが、『支給されないと回答した方のうち「ボーナス制度がない」との回答が51.9%』という調査結果も報告されているのです。

すなわち、支給されない可能性がある4割の企業のうち、半数は元々ボーナスの制度がないのです。

この情報があれば大きく印象が違うのではないでしょうか。

少なくとも「『コロナの影響により』4割の企業でボーナスが出ない」ということではないことが分かります。

 

マイナビニュースの調査

では、違う調査を確認してみましょう。ボーナス調査のようなものは、マイナビニュースも実施しています。

この調査では、勤務先にボーナス制度があると回答した人は85.0%となりました。そして2020年冬のボーナスについては、出る予定の人が82.5%、出ない予定の人が5.9%、分からないと回答した人が11.6%となっています。

この調査は、2020年11月24日〜11月27日に実施されています。調査対象は、マイナビニュース男女会員800人です。

この調査だけでも冒頭のフリーウェイジャパンの調査と内容が異なります。

マイナビニュースの調査ではボーナスが「出ない、もしくは、分からない」人は合計で2割弱しかいません。 

 

大阪シティ信用金庫の調査

上述の2つの調査は対象が偏っている可能性はあります。調査対象が、特定のサービスを使用している個人ですので、似た属性の個人が多い可能性もあるでしょう。

そこで、ボーナスの調査では有名な調査があります。それは、大阪シティ信用金庫が毎年実施しているものです。同金庫が取引先企業(大阪府内、有効回答数 1,016社)に調査したものとなります。地域が限定されていますが、前年との比較が可能であること、個人ではなく企業に調査していることから、非常に参考になります。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2020 年冬季ボーナス支給予定」)

上表のボーナスを「①支給する」企業は54.0%で、前年冬に比べ▲11.2 ポイントと大幅に減少しています。これは、リーマンショック後(▲9.1ポイント)を上回る、当該調査開始(1998 年)以来最大の減少幅となっています。

これを言い方を変えると、ボーナスを支給しない企業は、2019年冬季に比べて「▲11.2ポイント÷前回支給した企業65.2%=17%」増加したことになります。

但し、2019年冬季というコロナ禍の影響がまだほとんど出ていないはずの時期であったとしても、35%の企業がボーナスを支給していなかったということには注目しておく必要があるでしょう。

そして、以下は2019年冬季における大阪シティ信用金庫の調査です。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2019 年冬季ボーナス支給予定」)
ここで留意すべきは2018年冬季の不支給割合です。すなわち2018年冬季は39%がボーナスを支給していません。それが2019年冬季に35%に減少し、そして2020年冬季には46%まで増加したという流れです。

確かにコロナ影響によってボーナスを支給しない企業は増えているでしょう。しかし、元から35~40%程度の企業はボーナスを支給していないのです(少額手当を出している企業は存在)。

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(出所 大阪シティ信用金庫「中小企業の 2019 年冬季ボーナス支給予定」)

このグラフで分かる通り、ボーナスを支給する企業は約6割、少額手当を支給する企業が約3割、全く支給しない企業が約1割というのが過去のトレンドです。

マスコミはおおげさに伝えたくなるとは思うのですが、ボーナスの支給という観点では、不支給の企業は劇的に増加している訳ではないと筆者は認識しています。

 

まとめ

筆者は記事のタイトルを見ると、その記事の内容が分かった気になってしまうことがあります。そして内容を見ないのに印象で覚えてしまっているのです。

『冬のボーナス「支給されない/わからない」との回答が約40%』というニュースタイトルを見てしまうと「コロナの影響で半分弱の企業がボーナスを支給しない」ニュースだと誤解してしまいませんでしょうか。

冬季のボーナスについては、業界によって随分と異なる支給動向となるでしょう。コロナの影響を大きく受けている業界では今回のボーナスは期待できないかもしれません。

しかし、たとえ全体の4割の企業がボーナスを支給しなかったとしても、それはコロナの影響だけではありません。そもそも4割程度の中小企業が、コロナ前からボーナスを支給していなかったと想定されるのです。

コロナにかかる報道は、数字が大げさに、ネガティブになされる傾向があるように筆者は感じます。 ニュースはタイトルだけで判断するのではなく、中身をしっかりと読まなければといけないな、と強く考えさせられる日々です。