銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

コロナウィルスは残業代減少を通じても消費に大きな影響を与えるおそれ

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コロナウィルスへの感染対策として、在宅勤務やテレワークをスタートしている企業が増加しています。また、自宅待機や有給休暇の消化もなされているでしょう。

そもそも、世の中の様々な活動が急激に縮小している中で、業務量も減少している方は多いのではないでしょうか。

このような環境下においては、企業はコストを少しでも削減しようと、残業時間の削減に動く可能性があります。当然ながら、在宅勤務等では残業時間も減る可能性があります。

では、世の中では通常どの程度の残業代が支払われているのでしょうか。残業代が削減された場合には、経済にどの程度の影響があるのでしょうか。

今回は残業代に焦点を当ててみたいと思います。

 

毎月勤労統計調査とは

日本における残業代について調べるには厚生労働省が実施している毎月勤労統計調査が有効です。

毎月勤労統計調査全国調查は、日本標準産業分類に基づく16大産業に属する常用労働者5人以上の事業所を対象に、賃金、労働時間及び雇用の変動を調べる調査です。調査対象事業所は、常用労働者5人以上の約190万事業所(経済センサス基礎調査) から抽出した約33,000事業所となっています。

この統計調査で使われている現金給与額とは、賃金、給与、手当、賞与その他の名称の如何を同わず、労働の対償として使用者が労働者に通貨で支払うもので、所得税、社会保険料、組合費、購買代金等を差し引く前の金額です。 退職を事由に労働者に支払われる退職金は、含まれていません。

そして、同調査で使われている「所定外給与(超過労働給与)」とは、所定の労働時間を超える労働に対して支給される給与や、休日労働、深夜労働に対して支給される給与です。したがって、時間外手当、早朝出動手当、休日出勤手当、深夜手当等となります。

厳密には残業手当だけではありませんが、今回はこの所定外給与に着目します。

尚、総務省が実施している労働力調査(基本集計)2019年(令和元年)平均(速報)結果(2020年1月31日発表)によると、日本全体における正規の職員、従業員は3,503万人、非正規の職員、従業員は2,166万人であり、合計5,669万人です。

毎月勤労統計調査(2019年12月分)でカバーされている就業形態の合計が5,133万人ですので、統計によって差があることは留意が必要です。

 

毎月勤労統計調査の内容

では、毎月勤労統計調査ではどのような結果が報告されているのでしょうか。

 

【毎月勤労統計調査/令和元年12月分結果確報】

<合計(就業形態計)>

  • 現金給与総額 564,886円 
  • うち所定外給与 19,848円
  • 対象者 51,335千人

<一般労働者>

  • 現金給与総額 776,212円(この時期は賞与が含まれています)
  • うち所定外給与 27,572円
  • 対象者 35,015千人 

<パートタイム労働者>

  •  現金給与総額 110,226円
  • うち所定外給与  3,228円
  • 対象者 16,320千人

 

【毎月勤労統計調査/令和元年分結果確報】

<合計(就業形態計)>

  • 現金給与総額  322,612円
  • うち所定外給与  19,745円
  • 対象者 50,786千人

<一般労働者>

  • 現金給与総額 425,203円
  • うち所定外給与 27,382円
  • 対象者 34,772千人

<パートタイム労働者>

  • 現金給与総額 99,765円
  • うち所定外給与 3,156円
  • 対象者 16,015千人

 

以上の通り、毎月の所定外給与は平均すると2万円弱となっています。

 

コロナウィルスによる残業代減少影響

以上を踏まえて、 今回のコロナウィルス感染拡大に伴い、 在宅勤務等が増え、全ての労働者が残業を行わない場合を想定します。

2019年12月の勤労統計での所定外給与は一人当たり平均 19,848円です。

また 2019年通年の所定外給与は一人当たり平均 19,475円となります。

そのため、一人2万円が毎月の残業代と想定しましょう。 そして、1カ月間、残業が発生しないと仮定します。

この場合、2万円✕5,133万人=1兆266億円=約1兆円の残業代が減少します。 1兆円の残業代に所得税、住民税が平均して30%課税されると仮定すると、手取りベースで1か月に減少する残業代は約 7,000億円程度と想定されます。 これは年間で 8.4兆円となります。

家計最終消費支出は 297 兆円程度(2018年度)です。

コロナウィルスの影響が1年間続くと 家計最終消費支出の最大2.8%程度(=8.4 兆円 ÷ 297 兆円)の消費が下振れとなる可能性もあるということになります。

経済産業省の商業動態統計 (2019年)では、 百貨店の売上高は年間 6.3兆円、スーパーの売上高は年間13.1 兆円、 コンビニは年間12.2兆円です。

そして2019年の訪日外国人旅行消費額は4.8兆円です。

残業代が1か月で0.7 兆円 (7,000億円) 減少することは、 小売業界の売上高と比べても、外国人旅行客の消費額と比べても、小売企業等にとって大きな影響を及ぼす可能性があります。

個人も企業も、経済への影響だけを考えるのであれば、過度な自粛、行動制限とは異なる何らかの道を探るべきなのかもしれません。

現在は個別最適を追求するあまり、全体最適からは程遠い状況にあるのではないでしょうか。