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JR北海道の2021年3月期2Q決算は、深刻な企業存続の問題を浮き彫りに

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コロナ禍の中、北海道旅客鉄道(JR北海道)が大幅な赤字を計上しました。

JR北海道が2020年11月6日に発表した2021年3月期2Q(4~9月)の連結決算は、最終赤字が149億円(前年同期は▲3.9億円)に拡大しています。

売上高、赤字幅は過去最低です。そのような中で北海道は新型コロナウィルス感染者が増え続けており警戒ステージも引き上げられました。JR北海道は企業として存続できるのでしょうか。企業として存続しても、不採算路線の廃線が加速するのではないでしょうか。

今回はJR北海道の決算について見ていくことにしましょう。

 

決算状況

JR北海道の2020年4~9月(中間)期決算は以下の通りです。 

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(出所 JR北海道グループ2020年度第2四半期決算)

営業収益(=売上高)は519億円と前年同期比▲39.2%となりました。

コロナ影響により北海道を訪れる観光客・ビジネス客が減少したことが大きな影響となっています。特に鉄道収入は▲55.1%となりました。鉄道収入が半分以下になっているということになります。

減収影響で営業利益は236億円赤字幅が拡大し、▲385億円となりました。これは前年同期に比べて赤字額が2倍以上となったことになります。

JR北海道は、本業である鉄道事業等は赤字であることが前提になっています。その本業赤字を埋めるために、政府より経営安定基金の注入を受けており、この基金等の運用益で経常利益以下を黒字にすることが(ある意味での)ビジネスモデルです。この経営安定基金等の運用利益は前年同期比横ばいでしたので、経常利益は営業利益よりは赤字幅が縮小しています。

そして、国からの支援が特別利益に計上され、最終損益は▲149億円(前年同期は▲3億円)となっています。

いずれにしても営業利益、経常利益、当期利益とも過去最大の赤字となりました。

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 (出所 JR北海道グループ2020年度第2四半期決算)

上記図表は、営業収益(=売上高)のセグメント別動向です。

これまで、本業が赤字であるJR北海道は多角化を行うことで少しでも利益を改善しようとしてきました。しかし、コロナショックは小売、不動産賃貸、ホテル等の各事業の営業収益にも多大な影響をもたらしています。

あえて言うならば、JR北海道が多角化してきた事業は、人の移動を前提にしているものが多いということになります。コロナ影響で人の移動が止まると、本業の鉄道業と同様に売上は厳しくなりました。

 

資金繰り

上述のようにJR北海道の業績は過去最悪の状態にあります。

では、資金繰りは問題ないのでしょうか。インフラ企業であり、国や地方公共団体の支援も見込まれますが、あまりにも資金繰りが厳しすぎれば、「お上」が見放しかねません。

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 (出所 JR北海道グループ2020年度第2四半期決算)

2020年4~9月の6ヵ月間で、現預金の水準は186億円から178億円へと▲8億円減少しただけです。ほぼ横ばいといって良いでしょう。

但し、上図を見ると分かるように、6ヵ月間で257億円を国から支援されています。設備投資(修繕費含む)への助成金と長期借入金です。これだけの支援を受けているからこそ現預金の水準がほぼ横ばいとなったのです。当然ながら、国からの支援がなければJR北海道は資金繰り破綻していた可能性もあります。

尚、JR北海道の決算説明資料には以下の記載があります。

〇国からの支援/前倒し⼊⾦を要請し実現
・国からの⽀援、5⽉と11⽉入⾦(年2回)→ 四半期ごとに入⾦

〇取引銀⾏への当座貸越枠を増額要請し実現
・450億円 → 650億円(200億円の増額)

〇その他
・固定資産税等税⾦・社会保険料等の納付猶予…約90億円
・鉄道建設・運輸施設整備⽀援機構からの無利⼦借入の返済猶予…約30億円
・設備投資実⾏時期⾒直し…約20億円
・コスト削減・雇用調整助成⾦の受取等…約30億円

合計 約170億円

上記の取引銀行との当座貸越契約の増額については、取引銀行からの借入を増加している訳ではなく借りることができる「空き枠」を増加させただけであり、そもそも当座貸越契約は使用していないとのことです(日経新聞記事)。借入余力を考えると、JR北海道には、まだ資金繰りに余裕はあります。 

しかし、税金や社会保険料の納付猶予や国(独立行政法人)からの借入金の返済猶予等を駆使し、必死にキャッシュを確保しているのもまた事実です。JR北海道は短期的に破綻することはないでしょうが、国の支援がなければ、急激に資金繰り問題を抱えたものと思われます。そしてこの状況が年単位で続けば、間違いなく資金繰り問題が浮上します。

 

所見

JR北海道は過去最大の赤字を計上しました。未だにコロナ影響は続いており、インバウンドの旅行客需要も望めません。 

このようなコロナの環境は、JR北海道を追い詰めつつありますが、本質的には、元々の問題が浮き彫りになっただけといえるでしょう。

すなわち、JR北海道は本業である鉄道事業が慢性的に赤字です。言葉を換えれば、鉄道事業は収入よりも費用が常に上回っています。これはコロナ前からであり、全ての路線が赤字でした。

JR北海道がこの問題を解決できない以上は、企業存続が厳しくなることは間違いないのです。今後は、やはり路線の廃止が焦点になってくるでしょう。そしてこの路線廃止を中途半端に終わらせるとJR北海道の復活はまた遠のくでしょう。

コロナ禍の環境は、JR北海道を本気で改革するきっかけにすることもできるはずです。しかしながら、筆者の経験則・私見でしかありませんが、JR北海道の改革(=路線廃止)は中途半端に終わり、徐々に路線廃止を続けていく形になるのではないかと考えています。今後もJR北海道の動向を注視したいと思います。