銀行員のための教科書

これからの時代に必要な金融知識と考え方を。

日本企業における女性役員・管理職と外国人役員の現状

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女性活躍、ダイバーシティが企業経営で叫ばれて久しいですが、女性経営者が次々と現れている印象はありますでしょうか。経団連のような経営者団体のニュースを見る限りでは、日本の経営者は男性ばかりです。

また、三菱ケミカルホールディングスが外国人社長を招くことが話題になっています。三菱グループの主要企業で外国人が経営トップに就くのは初めてであり、「伝統的な日本企業」でも外国人社長が就任する時代になったと報道されています。

女性活躍(この言葉には筆者はずっと違和感がありますが)やダイバーシティは、コーポレートガバナンスという観点からも重要視されています。

今回は、女性活躍を含むダイバーシティについて簡単に見ていくことにしましょう。

 

上場企業の女性役員

では、まず上場企業の女性役員数・割合について確認しましょう。

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(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料2)

2019年7月現在、上場企業の女性役員は全役員の5.2%を占めています。女性役員の数は2,124名であり、この10年で4倍弱まで増加しました。

しかし、女性役員割合5%ということは、役員が20人いたらその内の1人が女性ということになります。これでは女性役員の存在感は薄いでしょう。

そして、そもそもこの女性役員のほとんどは社外役員となっています。

民間企業の調査としてNHKが報じたところによれば、2020年7月1日時点で東証「1部」上場企業の女性の取締役は延べ1,354人で、1年前より240人余り増え、全体に占める割合は7.1%でした。このうち、社外から招いた社外取締役が全体の5.9%にあたる1,123人、社内から登用された女性取締役は1.2%にあたる231人でした。

すなわち、社内から登用されて(社内で出世して)、役員になる女性は非常に少ないのです。

尚、諸外国の女性役員の割合は以下の通りとなります。米国が印象よりは少ないようには感じる方もいらっしゃるでしょうが、日本よりも女性役員の割合が多い国は多いと言えます。

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(出所 内閣府男女共同参画局 女性役員情報サイト)

 

女性管理職

今までは上場企業について確認してきました。次に社員10人以上の企業における女性役員・管理職について確認していきましょう。

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(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料2)

女性役員を有する企業は35%程度存在します。日本の企業の大多数は中小企業が占めており、中小企業は当然ながら家族経営が多いのが実情です。家族を役員にすることは一般的であり、あまり参考とはならないかもしれません。

一方で、部長相当の女性管理職を有する企業は1割強、課長・係長相当の女性管理職を有する企業はそれぞれ2割弱です。

上場企業に比べると従業員10人以上の企業は女性が当たり前に働いていると言えるかもしれません。

次に管理職・役員に占める女性の割合です。こちらは100人以上の常用労働者を雇用する企業におけるデータです。

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(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料2)

係長級は2割弱ながら、課長級で1割強、部長級だと7%弱ですので、やはり女性が管理職として存在感を発揮しているとは言えないでしょう。

女性役員・管理職についての問題意識としては、金融庁の会議で以下のように述べられています。 

女性管理職の増加という点では、男女を問わず働きやすい職場であるか、が問われる。内閣府に設けられた「選択する未来 2.0」委員会中間報告(7 月公表)でも、M 字カーブは解消されつつあるが、女性正規社員比率が 20 代でピークを迎え、年齢とともに下がる問題が指摘された。女性管理職を増加させるには、社外取締役だけでなく、内部からの昇進が増えることが望ましい。そのためには、家庭生活と仕事を両立しやすい環境を企業が用意することが大事であり、女性社員の正規化や、社員の柔軟な働き方、男性育休が実現しているかなどの企業の姿勢がわかりやすく開示され、投資家との間で議論されることも必要になると考える。

(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)翁メンバー意見)

思い返せば2003年に男女共同参画推進として「2020年までに指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30% 程度になるように期待」されていたはずです。政府目標は2020年=30%だったのです。2013年には当時の安倍総理が経済界に対し「役員に一人は女性を登用していただきたい」との要請を行ったこともあります。

この記事で女性役員・管理職が企業にどのような「効果」を与えるかについては細かく考察しませんが、多様な価値観・行動原理・考え方がこれからの企業経営にとって重要なことは間違いないでしょう。

 

ダイバーシティ(取締役の国際性)

次に外国人取締役についても確認していきましょう。

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(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)事務局参考資料2)

時価総額上位30位の企業における外国人取締役の比率は9.9%(2019年時点)です。時価総額上位30社といえば日本を代表するトップ企業です。そのトップ企業であっても外国人取締役の比率はわずか1割弱です。グローバルに活動する企業は従業員の過半が日本人以外となっているところも多いでしょう。しかし、意思決定は日本人が占めていることになります。
そして、日経225に採用されている上場企業においては外国人取締役比率は3.3%とのデータも存在(2018年時点)します。日経225に採用される企業も当然ながら日本を代表する企業群です。日本においては、ほとんど外国人取締役はいないと考えた方が良いでしょう。

一方で、欧州はフランスを筆頭に外国人取締役比率は高くなっています。これはEU内での人材交流が進んでいるということなのかもしれません。

尚、グローバル化が進んでいるように感じる米国ですが、米国人以外の取締役比率は少ないことには留意しておく必要があるかもしれません。但し、米国の場合は、そもそも米国人だったとしても移民だったりします。バックグラウンドが多様なのです。日本と同列には語れないでしょう。

 

まとめ

女性・外国人の役員・管理職の拡大はまだまだ途上です。

そもそも、なぜダイバーシティが叫ばれるのか、その答えを端的に示しているのは以下の見解でしょう。 

2. 執行役員レベルの多様性の確保
時代の大きな変化、DX~IX(筆者註:インダストリアルトランスフォーメーション)に対応するCX(筆者註:コーポレートトランスフォーメーション)を行うためには、将来の経営者候補、CXO候補群が多様性(性別、年代、国籍、教育、経営バックグラウンドなど)を持っていることは必須である。DX~IXの時代において中核人材の多様性はまさに競争力と変容力を規定する。サクセションプランの実効性も将来、経営トップ層候補である執行役員レベルの人材ポートフォリオの質と多様性に依存する。この点、数値目標を含めてコードにも明記すべきである。今どき、取締役会のレベル、それも社外取締役のレベルの多様性ではもはや手遅れの時代なのである。
CX 力の本質は経営レベルから現場まで企業全体の組織能力の変容力であり、従来の日本企業のような新卒一括採用、終身年功制による極めて同質的で固定的で閉鎖的な会社のカタチ、幹部社員のほとんどが日本人のおっさんで構成される会社がこれからの時代に生き残れないことは明白である。持続的な企業価値の向上を目指す本コードがこの問題に踏み込むべきことは当然である。

(出所 金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(第20回)冨山メンバー意見)

筆者は、正解が分からない時代に、企業が急速に事業領域の変更、組織変容を成功させるためには、同質的・固定的な日本企業の現状は合致しないのだと考えています。

異質なものが入り込んでくることは、誰もが嫌がります。しかし、異質なものでなければ、新たな気づきを与えてくれないのではないでしょうか。

本当に卑近な例ですが、筆者は全く性格の合わない方と一緒に働いたことがあります。「空気は読まない」「疑問をすぐに口にする」「大事にするポイントが異なる」「飲みに行くと相手を長時間開放しない」「ラーメンを何よりも重要視する」等々、合わないことばかりです。双方にストレスを抱え続けたでしょう。しかし、その方と作り上げた仕事が最も良い成果を生み出せたように思います。とにかく筆者が考えてもいなかった観点から、発言をするのです。それが新たな気づきを提供してくれました。

同じ文化背景、教育を受けた同性でもこのようなことがあるのです。女性であったり、外国人であれば確かに様々な視点を持っているでしょう。その視点こそが、新たなサービス、顧客満足を生むのだと思いますし、リスク管理の観点からも大きな貢献を果たすことになるのだと思います。

要は「三人寄れば文殊の知恵」をスケールを大きく、更に様々な視点を入れて実現させるべきということなのでしょう。

摩擦、コンフリクト、衝突が起こり、それらが意思決定に厚みを与え、新たなサービスを切り開くのです。英語を公用語にした企業は、まさにそれを狙っているのだと思います。

一方で、いわゆるダイバーシティは、今までの企業・組織風土に慣れたビジネスパーソン(主に「日本人のおっさん」でしょうが)に居心地の悪さをもたらします。それを乗り越えることが企業の存続と共に個人の成長につながるのでしょう。