銀行員のための教科書

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全国の銀行113行の2019年度決算のポイント

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全国銀行協会が、全国銀行(113行)の2019年度決算の状況(単体ベース)を発表しました。

この統計は、銀行の単体決算を集計しているため、全国の銀行「本体」の決算状況をつかむことができます。

今回は、この全国銀行の2019年度決算の状況(単体ベース)について内容を確認していきましょう。

 

全体の本業の状況

まずは銀行単体の決算を集計した以下の損益状況をご覧ください。

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(出所 全国銀行協会「全国銀行の2019年度決算の状況(単体ベース)」)

一般企業の売上高に相当する業務粗利益は、10兆56億円(前年度比3,158億円、3.3%増)と増益となっています。

銀行は構造不況業種と言われるほど業績に苦戦していると言われていますが、売上高は増加したのです。

売上はなぜ増加したのでしょうか。

その内訳を概観すると、以下の通りになります。

<資金利益>

銀行の本業の収益である資金利益は、6兆5,895億円(前年度比4,431億円、6.3%減)と減少しました。

うち、収益の大部分を占める国内業務部門においては、5兆5,314億円(同3,742億円、6.3%減)と減少しています。

この大きな要因は、低金利環境が続いており、有価証券利息配当金が1兆2,450億円(同2,793億円、18.3%減)と大幅に減少したことです。

マイナス金利政策の影響を受けた低金利環境が続く中、国内の貸付金利息は4兆4,168億円(同 872億円、1.9%減)となっており、減少幅は大きくはありません。こちらは後述しますが、貸出残高が増加したことが要因です。

また、国際業務部門においても、資金利益は1兆581億円(同689億円、6.1%減)と減少しました。

欧米における金利低下等を受けて、貸付金利息が2兆9,538億円(同2,039億円、6.5%減)と減少したことが大きな要因です。

尚、全国の銀行合算の2020年3月末時点の主要勘定の内訳は以下の通りであり、貸出金は増加していることが分かります。金融緩和環境において、銀行の貸出残高は増加傾向が続いています。問題は貸出「利鞘」が低下していることにあります。

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(出所 全国銀行協会「全国銀行の2019年度決算の状況(単体ベース)」)

 

<特定取引利益>

2019年度の業務粗利益=売上の変動要因の一つに、特定取引利益があります。

いわゆる金融マーケットでのトレーディング業務に係る特定取引利益は、都市銀行の国内業務部門・国際業務部門双方における増加等により、4,203億円(前年度比2,302億円、121.1%増)と大幅に増加しています。

これは中央銀行の金融緩和策の恩恵を受けているものと想定されます。

 

<その他業務利益>

業務粗利益=売上の増加は、「その他業務利益」も要因です。

その他業務利益は、国際業務部門において、国債等債券関係損益が損失超過から収益超過に転じ、5,993 億円(同 5,241億円、696.9%増)と大幅に増加したことから、7,569 億円(同 5,757 億円、317.7%増)と大幅に増加しています。

これも海外の中央銀行の金融緩和政策によって金利低下が進んだことが要因でしょう。

 

以上が業務粗利益=売上の増加要因でした。

経費は0.5%減とほとんど横ばいとなったため、一般企業の営業利益に近い概念である実質業務純益は増益となりました。

上述の金融マーケット関連での収益の増収等により、実質業務純益は3兆 3,727 億円(前年度比 3,478 億円、11.5%増)と増益となっていますが、うちうち国債等債券関係損益が8,276億円となっており、これは前年度比9,193億円の大幅増額となっています。

すなわち、銀行の決算は、金融緩和という金利低下要因を背景に、保有している国内外の国債を中心とした債券価格が上昇したことによって本業利益の増益を確保できたということになります。(※金利が低下すると、債券価格は上昇します)

 

その他決算状況

上記は銀行の本業収益に関する点を簡単にピックアップしたものでした。

2019年度におけるその他の決算ポイントは以下の通りです。

  • 一般貸倒引当金繰入額が2,701 億円となり、前年度比2,807 億円の増加。コロナ対応で業績悪化が個別に見込まれる訳ではなかったものの、大手行を中心に予防的・保守的に貸倒引当金を計上。
  • 株式等関係損益が2,898 億円となり、同3,470 億円の減少。コロナ禍の中では、持ち合い解消の株式売却を一時中断した銀行が多かったものと推察。
  • 特別損益▲10,577 億円、同6,933 億円の減少。この大きな要因は、MUFGが海外出資先の株式減損による損失を計上したことが主要因。

以上のような減益要因があり、当期純利益は11,066 億円と前年度比11,065 億円減少、50%減にて着地しています。

尚、全国の銀行の不良債権残高は以下のようにとなっています。2020年3月末段階では、不良債権残高は急増している訳ではありません。

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(出所 全国銀行協会「全国銀行の2019年度決算の状況(単体ベース)」)

 

所見

2019年度の全国の銀行決算は、今までのトレンドが変わらず、本業の貸出収益は低下傾向が止まりません。

しかし、各国の金融緩和政策により債券投資で大きな利益が出ています。

結果として、2019年度の決算は、悪くはないものとなりました。

そして、コロナ特需で足元は貸出残高が伸びています。これは銀行の延命に繋がるかもしれません(もしくは壮大な不良債権の山になる可能性もあります)。

銀行の決算については、ここ暫くは目が離せない局面が続きそうです。